チート無しクラス転移〜〜Be chained(ベチーン)〜〜

キズミ ズミ

三章 6話 『予定調和の失敗』




「あんまり一気に食べないで下さいね。ふやかして胃に優しくしたとはいえ、お腹がビックリしちゃうので」

 マドリは肉を鍋から木製のお椀に移してゴロードの子分の1人に手渡した後、物腰柔らかな口調で言った。

「う、う・・・。すまねぇな。恩にきる・・・!!」

 子分は皆、目に涙を浮かべて掠れた声を絞り出す。

「なぁ、このヨロイどうやって着るんだ?色々部品が多くて全く分かんね」

「いぃんだよ適当で、まず強引に身体にはめて、そっから腰のベルトで調節すんだ」

「っ・・・!!痛いイタイいたいッッ!!絶対間違ってるってコレ!!ちょ、一回離して、腰骨がぁ!!?」

「ジッとしとけや、・・・よっ、と。ほらハマったろ?」

 ・・・グキッ。

「ぎゃあぁぁあああぁぁあ!!?グキッて言ったぞ今ぁ!違う!ハマったんじゃなくてオレの身体中の骨が軋みつつも何とか変形したんだよ!」

 ゴロードの子分たちが数日ぶりの食事を噛みしめている場所から少し離れて、オレはゴロードの子分の1人、バッファと呼ばれる男にヨロイの着方を教わっていた。

 ヨロイ、とはいっても中世の騎士が着ているような鉄甲冑などではなく、比較的簡素な皮のヨロイだ。

「ミツキさん、目ぼしい獲物は見つかりませんでした。アッシの鼻で分からないとなると、このアルディア奇岩地帯には今、生物が居ないんでしょう」

 オレの骨がいろんな意味で音を上げている最中、かり、というか探索から戻ってきたベンハーさんがミツキに成果を述べるとミツキは眉をひそめた。

 ちなみに、今現在ベンハーさんはしっかり人の姿である。

 当たり前の事だが、先ほどベンハーさんの正体を知ってしまってからどうにもモヤモヤしたナニカがオレの胸にわだかまっている。
 
「・・・それは変ですねぇ。確かにこのアルディア奇岩地帯は不毛の地ですが、それでもこの環境に適した生物、例えば砂イワシや岩ブタなんかが居るはずなんですけどぉ」

「はい。アッシも御者をやって長いですが、どうにも今、この場所は不気味なほど静まり返っています」

 声のトーンをいくぶん落としたベンハーさんは言外に早くこの場所を立ち去ろうと警告している風に見えたが、そうもいかない。

 オレは一つのお椀を15人がかりで回し喰いするゴロードの子分たちを見ると、静かに息を吐いた。


 ーーーーーー今回のあらましを説明しようと思う。

 まず、オレはゴロードが一方的に打診してきた賞金首対食料の交渉を突っぱねた。

 理由としては、いや、当たり前の事だが怖すぎだろ。なんだよ首って・・・。

 それにオレたちが向かうマラケシュ村は聞くところによるとかなりのド田舎村らしいので、まさかゴロードの首を換金してくれるような施設は存在しないだろうからだ。

 その代わりに、つまり賞金首の代替案としてオレたちが食料を渡すにあたって提示した条件は、ゴロードの子分、バッファやその他の奴らが来ているヨロイをオレたちに譲渡する、というものである。

 そもそも、オレたちが馬車で片道10日もかけてマラケシュ村に向かっている理由はひとえに『武具を一式揃えよ』というミッションのためだ。

 いや、オレたちをいきなりこのトンデモ世界に飛ばした例の仮面の男が一方的に指示してきたミッションの為、というのは結構ムカッ腹が立つので、ここは敢えてミツキの為、と言っておく。

 ミツキはこの世界に来てすぐに、オレを助けたせいで『トラ』の餌食になりーーー殺された。

 その後、ミツキは生き返ったのだが、それ以後ミツキはミッションを成功させなければなんらかの『ペナルティ』を受けるようになってしまったのである。

 ーーーという事で、ぶっちゃけマラケシュ村につく以前にヨロイが手に入ったオレたちなのだがーーー・・・。

「おい!バッファのオッさん、1、2の3!でガッとベルトを締めてくれ!1、2の3!な!!タイミング的には3っ!って言った直後で頼むぞ!?マジでコレ覚悟しないで締められたら痛みで失神しかねなーーー」

「うるっせぇ、ガタガタ言わずに腹ァくくって根性見せろや」

 ーーーギィグ・・・!

「づあぁぁあああぁぁぁあ!!?ギィグっていった!めっちゃリアルな音で肋骨すり減った!!」

 この皮のヨロイ、どうやら相当使い込んでいるようなので既に皮は柔らかくなっているんだが、それでもサイズが違いすぎる。

 眼前のバッファは成人男性としてはかなり小柄で、ヒョロリとした体型のオッさんだ。

 無論、盗賊という荒稼業故に引き締まった肉体を持っているが、それでもガタイはオレよりも一回りほど小さい。

 例えるなら、5インチほど小さい革靴を履いている感じだろうか。ギチギチで、ヨロイの特性上あちらこちらに金具が付いているのでそれらが肉に食い込んでいる。

 ヨロイの着付けに手間取っていたオレだが、今、強引な手段で装備する事が出来た。

 のだがーーー・・・。

「うぅ・・・。最後にこの剣を装備して・・・・・・・・・あー、ダメかーーー・・・」

 無事、激痛に耐えてヨロイを装備したものの、『武具を一式揃えた』ものの、依然としてオレの身にはなんの変化もない。

 ーーー正直、『やっぱり』、という感想がオレの気持ちの大多数を占めていた。

 この結果は想像がついていた。

 













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