チート無しクラス転移〜〜Be chained(ベチーン)〜〜
三章 3話 『灰色の獣人』
冷や汗が噴き出した。心臓は早鐘を打ち、絶えず最悪を想起する思考をかなぐり捨てて、オレは馬車へと飛び込んだ。
「マドリ、ミツキィッッ!!!」
瞬間、頭が真っ白になるほどの衝撃にオレは息を詰めた。
「・・・・・・ッッ!!?なんで狼人族がいるんだよ・・・!!」
キャビンの奥の壁にミツキとマドリが背中をくっつけており、その手前には倒れ伏す5人の男たち、そして1人、屹立するのは灰色の獣人だった。
話には聞いたことがある。なんならさっきまでオレとマドリは狼人族の存在をやり玉にあげていたくらいだ。
どう猛な牙と爪、知性は高く基本群れで行動するが独立して狩りをする個体もいると聞く。
独立した個体は例外なく強靭な肉体を持っており、その危険度はAクラスの魔物に匹敵するという。
「ーーーーーーーー」
獣人は突き出ている口で細く息を吐くと乾いた目でこちらに目を向けた。
「『鎖縄ーーーッッ!!」」
問答の必要なく、オレは灰色の獣人に殺気を向けて、延びる鎖は漆黒に染まる。
「『黒むーーーーー」
「待ってミキオッ!!」
オレを制したのは耳慣れた声だった。声の主は白銀の髪を二つにまとめた少女。マドリだ。
「ベンハーさんだよベンハーさんっ!ベンハーさんがワタシたちを守ってくれたの!!」
「は、ぇ・・・?」
ベンハーさんと言えば、コルドバから馬車を出してくれ、オレたちをマラケシュ村まで届けてくれるあの落ち着いた男の人だ。
実は商人になる夢を持っているのだが、その前に身持ちを固めてしまったため、なかなか現在の収入の安定したこの仕事を辞められないと零していたあのベンハーさんが、目の前の、獣人・・・?
「ど、どういう事だよ」
「ーーー驚かせてしまったみたいで、申し訳ありません。この盗賊たちがキャビンへと侵入したのでつい体が動いてしまいました」
「ま、マジでベンハーさん!?」
眼前の狼人族はコクリと頷き、その体から灰色の毛を散らせていく。
「ちょ、ちょっと思考が追いつかないんスけど、今はとりあえずマドリたちを守っていて下さい!!」
衝撃の事実に混線した思考を奮い立たせて、オレが今すべきことの最適解を導き出した。
キャビンから飛び降り、再び盗賊の方を睨みつける。とーーー
「降参だ!降参だ!!オイたちの敗けだ、子分ども、戻ってこいやァ!!」
だいぶ離れているにもかかわらず、腹の底から響く大声にオレは顔をしかめた。
見てみると、どうやら今の大声は先ほど男たちに囲まれて、最初から倒れていたあの男のものらしい。
「お前、そこの坊主、そう、お前だ。この馬車で一番偉ぇヤツを呼んでくれ。話がしたい」
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