チート無しクラス転移〜〜Be chained(ベチーン)〜〜
三章 2話 『トリッキーに戦え』
「メシだ。メシをよこせ・・・。さもなくば死ね」
唐突に不穏当な要求をしてきたその男たち。
彼らの目は皆一様に幽鬼を思わせるほど茫然と、又は悄然と、虚空を睨んでいた。
「・・・・・・っ!」
咄嗟の出来事に対応できず、オレの口は不完全に開いたまま言葉を失っていた。
彼らの身体。やせ細っているにもかかわらず、それでも露出した腕や足には発達した筋肉が見て取れる。
泥で汚れたその顔も巌の如く頑健な男と云う印象が先行して彼らが弱っていると云う事実を一瞬忘れてしまう。
「・・・・・・やれ」
男たちの一人、二本ツノがついた兜を被っている男がそう呟くが早いか、灰色の獣が二頭、踊りかかってきた。
「はぁ・・・!?オオカミかよ!」
舌を出して襲い来るオオカミに驚愕しつつ、右手人差し指を引っ張った。
ジャラジャラと金属音をかき鳴らし変貌したのは鈍色の鎖。
「グウゥゥゥ・・・!!」
鎖は迫るオオカミのうち、一頭へとひた走り、絡め取った。
体の自由を奪われて小刻みにしか動けなくなった仲間のオオカミを尻目にもう一方はギザギザの歯を剥き出しにする。
「・・・・・・グなろぅ!!!」
彼我の距離1メートル足らず。オレは渾身の力でオオカミを蹴り上げーーー虚空を切った。
流石に戦闘経験ではオオカミのが有利か・・・!
オオカミはわずかに右に逸れただけで、狙い変わらずすぐそこまで肉薄する。
「ンらぁ・・・ッ!!!」
足を、直前の2倍の力で、逆の方向に力を込めると、乾いた地面を踏み抜いた。
破砕する地面に飛び散る土の礫、何よりも尋常じゃない音の暴力に軽い衝撃波。
オオカミの顔に刹那の当惑が奔った後、真正面からの衝撃にオオカミは吹っ飛ばされた。
「グギャン・・・!!」
「オオカミは耳がいいからな、地面が割れる音には嫌でも反応しちまうだろ。で、鼻っ柱に正拳突きを喰らっちまう」
オオカミは恨めしげにオレを一瞥して、男たちのもとに向かっていった。
「なんだあのガキ・・・!指が鎖になりやがった。まさか天稟持ちか?」
双角の兜の男は目を剥いて驚いた後、しかし意を決した様に胴間声をあげた。
「天稟持ちだろうが構わねぇ・・・!所詮はガキだ。やっちまえ、そんで腹一杯食えるんだ・・・!!」
「ウオォォォ・・・!!」
鼓舞する言葉も、それを受けた男たちの声もどこか弱々しい。
しかして手に武器を持ち、明確な殺害と略奪を宣言した男たちは紛れも無い脅威だ。
「・・・ッ!ミキオさん、急いで馬車に乗ってください。この場を離れて、別のルートからマラケシュ村に向かいましょう・・・!」
それまでの状況をずっと見ていたベンハーさんの提案に、オレは首を横に振った。
その案は、ちょっと現実的じゃない。もう既に男たちは向かってきているし、ここで逃げてもオレたちではない、別の誰かが被害を受けるのだろう。
それならばーーー
「ベンハーさん。ここをUターンして離れたところにいて下さい。オレなら大丈夫なんで」
言うが早いか、天高く伸びた漆黒の鎖は地面に向かって、振り落とされていた。
ズガァァァァンッッ!!
先ほどとは比にならない爆音と破壊範囲。
砕けて礫になるどころか、粉々になって煙となり、あたりにモウモウと立ち上っている。
「なんだぁ・・・!?目の前がみえねぇ!」
砂煙の向こう側から見えるのは3人の影。
先陣切って突撃してきた奴らだ。その顔貌は煙越しから見えることは無いが、おそらく困惑に満ちているだろう。
「ーーーーーウラァ!!」
未だに右手人差し指から伸びた鎖に、がんじがらめにされていたオオカミを遠心力の力と腕力で一回転させて、前方に投げ飛ばした。
「ぐあッ!?」
ゴツっと言う鈍い音と短い悲鳴、3つの影が2つになった事を把握して、オオカミミサイルの的中を確認する。
否、影は2つになってはいない。ワラワラと姿を増やし、変わらずオレへ迫ってくる。
「鎖縄ーーーニビイロ螺旋!!」
超常が快哉を叫び、十指は鎖に変貌する。
10本の鎖はそれぞれの影へ奔り、そしてグルグルに巻きつく。
「うわぁ!?蛇だ!」
視界の悪い状況、勘違いするのも無理はないが、直後彼らは重力から解放され、更なる驚愕を味わった。
「グ、ニニニニニニニニィ・・・!!」
鎖は彼らを巻き取ったまま、5メートルほど持ち上げる。
やつれているとは云え、成人男性10人分の重さはダテじゃない。歯を食いしばって、頬にはあぶら汗がにじむ。
「あ、ラァッッ!!!」
それでも力を振り絞り、掲げた鎖を思いっきりーーー振り落とす。
「ガァァッッ・・・!!?」
地面が砕けた音とともに、男たちの苦鳴が重なった。
今の攻撃、その風圧で立ち込めていた土煙が吹き飛んで、いつぶりか視界は明瞭なものになった。
眼前に現れるのは無残に散らばった石と砂、そこに這いつくばった男たちの姿だ。
「・・・・・・?」
ふと、現在見える男たちの総数と、先ほどの男たちの数が合わない気がして、不思議に思う。
遠巻きにオレを警戒している男はあとわずか3人である。
その3人も、襲ってくる気配などない。背後の、意識を失っている男を守るように立っていた。
あの男たちの背後で横になっている男に、見覚えが無かった。
というのも、あの男は最初から意識を失っていたのだ。
だから今初めて見たし、3人の男たちに守られるあの男に妙な違和感を覚えた。
ーーーと、
「キャアアァァァッ!!」
高い声の悲鳴が近いところで響いた。
「マドリの声か!?」
馬車を振り返ると、複数人の男がそのキャビンに乗り込もうとしている。
「・・・・・・・・・ッッ!!」
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