チート無しクラス転移〜〜Be chained(ベチーン)〜〜
コラボ章 11話 『集結し、終結す』(後編)
「『鎖盾ーーーライオットシールドッッ!!』」
ノドを震わせて名乗りを上げたその時には既に形を成していた鎖の盾を、何と形容すべきだろう。
渦巻き状に、例えるならば隙間のない蚊取り線香のように前方へ平べったく展開された三層にもなる盾は無骨な堅固さの中に鋼の優美さを兼ねていた。
咄嗟に繰り出した『ライオットシールド』は刹那の内に完成し、また刹那、表層部分が衝撃に弾け飛んだ。
何故か、特大の魔力弾のためである。
「ぐ、に、ににににいぃぃ・・・ッ!!!」
熱い吐息に気迫を込めて、食いしばる奥歯がギリギリと低く唸る。
『ライオットシールド』と魔力弾は拮抗し合い、お互いのせめぎ合いが耐久戦の様相を呈してきていた。
オレの体は動かしてもいないクセにジリジリと後方に押されていき、地面が浅く削れる。
冷や汗ともつかぬ汗は身体中から噴き出し、踏ん張りをつけている軸足も痙攣を始めていた。
「づ、ああああぁぁぁぁッッ!!」
途端、一方の力が嘘のように霧散して、オレは虚空を踏んだような感じがした。
分かりやすいくらい幻想的なエフェクト、飛び散る燐光を目の端に確認すると、口の端を吊り上げる。
「はァ・・・ッ!さっきのバリアのお返しだな」
不発に終わった『黒鞭』の弔いをしたかの様な胸のすく思いに満たされながら、物言わぬ鉄人形に中指を立てた。
「・・・全く、おちおち話すこともできないのかよ」
目の向く先で堂々と屹立している鉄人形にオレは唇を尖らせてボヤいた。
「アレを受け止めるとは・・・なかなかの防御力だね」
瞠目するサイトーの言葉に、自分の事ながら同調した。
ぶっつけ本番、アドリブの土壇場出たとこ勝負の要素100%だったクセに『ライオットシールド』は想像以上の活躍を見せてくれた。
色んなところで出オチ能力だの激ショボ天稟(被害妄想)だの言われているマイ天稟だが、やる時はやってくれる子なのである。
・・・出来ない子を励ます文句なんだよなぁ。
「ーーー作戦があるんだ」
鉄人形にも注意を向けつつ、原ちゃんは口元に弧を描いていた。
「?」
「ミキオ、手伝ってもらえるか?」
「ん、もちろんだ」
何でもやりまっせ!とばかりに力こぶをつくって手のひらでペチンッと叩く。
「じゃあ、前衛は任せてよ」
現状、一時沈黙している鉄人形だが、いつまた動き出すか分からない。
そう思考したサイトーは作戦の擦り合わせ、その時間を稼ぐために1人、突貫攻撃をかってでた。
瞬間、矢の如く大地を走り抜けるサイトーを見送ると原ちゃんの言葉に耳を傾けた。
「ーーーーーー。おしっ、了解。期待してるぜ、原ちゃん」
「この期待は2人用だ。片方はミキオが持っとけ」
「つったらミツキと光希とマドリも含めて合計4人分の期待を背負う訳だな。戦闘員は辛いな」
「でも、俺は憧れてたんだぜ?このシチュエーション」
「分かるわ。実はオレもちょっと燃えてるんだ」
「これで金髪貧乳幼女が『お兄ちゃん怖いよぉ』とか言ってオレの後ろに隠れてたら最高だったんだけどな」
「分からなかった!?つか分かり合える気がしねぇ!」
軽口の応酬を終え、顔を見合わせて笑いあうとオレは二指を鎖に変貌させる
「『鎖縄ーーーロードレイル!!』」
緩やかなカーブをつくりながら鎖は鉄人形より頭一つ分高いところに昇って行く。
次に感じたのはズシリと鎖にプラスアルファの重さがかかる感覚だ。
原ちゃんは伸ばした二本の鎖を足がかりにして颶風と化しながら鉄人形の頭上数メートルまで到着。
「その身に刻め龍の名を!ーーー龍刻ーーー」
原ちゃんより一足早く鉄人形に踊りかかったのはサイトーだ。
ビキビキと音を立てて隆起する龍を模した様な右腕は迅疾が如く、目にも止まらぬ早さで常外の脅威を、絶爪を振り下ろした。
ーーー途端、鉄人形の亀裂の隙間に赤色に煌めく小石を放り投げた。
鋼鉄のその身に決して浅くない三本の傷創をつけられた鉄人形を襲う、次なる刺客。
「流石に効くだろ!とくと味わえ!」
頭上から自由落下する濃厚な『死』の気配を察して、鉄人形は両腕を頭の前へとやった。
対するは、超、極大剣。
原ちゃんの能力の粋を尽くして顕現させた、バカバカしいほど大きいその大剣はおよそ剣としての機能を結果でしか表してくれそうにない。
振ること、叶わず。ただ重力に従うのみ。思慮策謀など一切不要の鋼鉄のギロチンは、果たしてーーー
耳障りな音を奏でたのち、鉄人形は『地に落ちた己が両腕』に一瞥もくれなかった。
「ーーーまだまだぁ!」
鉄人形が視界に捉えていたのは、一本の鎖。鈍色の鎖だ。
鎖は代わり映えのしない音を鳴らし、しかしその鈍色は根元から侵食する漆黒に侵されていった。
変わったのは、色彩だけ。否、内包する鬼気は先ほどとは歴然たる乖離が存在する。
「『鎖縄ーーー黒鞭ッッ!!』」
ーーーバチイィィィッッッッッ!!!
『黒鞭』を呉らった鉄人形は大きく後傾姿勢になるも倒れず、直立を保った。
「ーーーそういやさっき、なんか投げ込んでたけどアレ、何?」
「ミツキに頼まれたから投げたんだけど、アレが何なのかは分からないんだよね」
鉄人形への攻撃の途中、サイトーがとった行動の違和感に疑問を投げたのだが、サイトーも得心のいかない、と言った様に首をひねってみせた。
「ま、ミツキのことだし、なんか考えがあるんだろ」
「つって、次あたりに決めねぇと俺もうやべぇかもだわ」
荒い息混じりにおどけた口調の原ちゃんの言葉に、オレはやっと気付いたのだ。
自分の息が上がって、心臓が早鐘を打っていることに。
「・・・だけど、次に決められたらヤバイのは鉄人形も一緒だろ」
鉄人形の身体は衝撃にひしゃげ、どこを見ても無数の残痕が確認できた。
「じゃあ、終わりにしようか・・・!」
サイトーが覚悟を決めた様な低い声で静かに云うとオレたちも同調し、自分に残された全ての鬼気を解き放つ。
「原ちゃんとミキオはそれぞれ左右に!1番の大技で仕留めるよ!」
「ーーーおう!!」
期せずして原ちゃんと言葉が重なり、感じた頼もしさはきっと言葉に表せない。
とは言え、オレの大技、と言ったらそれこそ『黒鞭』一辺倒である。
芸がないと言ってしまえばそれまでだが、それしか無いのだから仕方がない。
・・・いや、それしか無い事は、無いのか?
自問のその先、閃きの到達点に手が届きそうになったその時、背筋がゾクリと冷え込む凶悪な気配を察知して冷や汗が垂れた。
「てめぇの力、貸しやがれ!!」
『やっと出番か、待ちくたびれたぜ!』
十数メートル先、いの一番に鉄人形に接近したのは、サイトー・・・では無く、黒アキだった。
暴虐の神、その化身。サイトーの心に棲むもう一つの人格だ。
「てめぇら!足引っ張ったらゆるさねぇぞッ!!」
黒アキの胴間声が耳をつんざいて、数時間前の記憶がフラッシュバックする。
「げっ、黒アキか・・・!」
「また暴れられるのかよ・・・!!」
あの暴力装置の蛮行を少なからず知っているオレは黒アキの表出に数瞬、顔を苦味ばしらせたがすぐに口元に下弦の月を描いた。
思い出したのだ。原ちゃんの、『あの言葉』を。
『ってもやっぱスゲェなぁコレは。味方だったら頼もしいけど・・・って典型じゃね?』
それは自己紹介の時、それも黒アキが暴走した直後のセリフだった。
「くく、味方だったら、か・・・」
喉が鳴って、笑いが込み上げる。
「心強いぜ!!」
黒アキの跳躍は高度を増していき、それが飛翔と呼ばれるものにまで至ったその時、暴虐の風、ソレを伴った拳を撃ち込んだ。
『その身で感じろ龍の命ーーー龍の嘶きーーー』
突いた拳はそのまま虚空を支配して、鉄人形との間にできた空間的距離は黒アキの産んだ『不可視の征服王』によって瞬く間に消滅した。
瞬間、肌がひりつく程の狂気を孕んだ疾風の砲弾が鉄人形を潰しーーー。
否、突如、展開される緑がかったソレに阻まれて、黒アキの一撃が霧散してしまった。
「バリア!?まだ使えたのかよ・・・!?」
オレは思わず息を詰めて、鉄人形を見上げる。
成る程、鉄人形の傷口のあちらこちらから漏れる光、あれは多分魔力だ。
と云うことは、掻き集めたのだ。残存魔力を振り絞って、バリアを展開させたのだ。
「鉄人形も必死って事か。バリア出されちゃキリが無いぞ!どうする!?」
さっきみたいにもう一度連携攻撃でバリアを破壊するとか・・・。ダメだ。それが出来たとして、そのまますぐに攻撃に転じることの出来る公算は低い。
スタミナ的に考えて、少なくともオレはあと一撃鉄人形にかませればヘロヘロの役立たずに成り下がる。
「・・・ダメかもわからんね。ドロ沼試合だけは避けたいよなぁーーーーー」
ドッッカアアアァァァァァァンッッ!!!
暗礁に乗り上げた思考の全てを吹っ飛ばしたのは、鋼の爆ぜる轟音だったーーー。
ーーーーーーーーーーーーー
「つっう・・・!うるさっ!鉄人形がいきなり爆発しちゃったよ!?」
内臓を携帯のバイブレーションのように振動させる音の暴力にマドリは耳を塞いでうずくまる。
「ーーーーーー」
「いえーいミツキお手柄だね〜。ヒーローインタビューさせてもらっていい〜?」
光希はその柔和な表情を常とする顔に更なる笑みを浮かべて隣に立つミツキにハイタッチを促した。
「ーーー?どう云うこと?」
キョトンとした様子で腰まで伸びた白銀のツインテールを揺らしたのはマドリだ。
先ほどまでは「うあぁ」とか「ダメダメ死んじゃう」とかミキオたちの戦闘をビクビクみていたマドリだ。
「ーーーさっきサイトーに渡して、鉄人形に放り投げるようにお願いしたのは、火の魔石ってヤツなんだぁ」
冷然とした表情は変わらず、ミツキは薄い唇をゆったりと開いて話し始めた。
「火の魔石って、あの、火種に使う石の事だよね?」
「うん。込めた魔力の分だけ発火して、魔石の許容範囲を超えた魔力を注ぐと大爆発する特性をもった、あの石さぁ」
「許容範囲を超えた魔力で大爆発って・・・まさか!?」
マドリは淡青色の瞳をひときわ大きくして息を呑んだ。
「魔力をコンパクトに格納していた魔力炉は壊れて、バリアを張ろうと湧出した魔力を掻き集めた途端に火の魔石が許容超過してーーーボン!」
「・・・うわぁ、エゲツなぁ。ミツキまさか最初からコレをよんでたの?」
「まさか。万が一の一が偶然起こっただけだよぉ。それにしてもーーー」
「?」
「火の魔石、高かったんだけどなぁ・・・」
大方、背に腹は変えられなかった、と云う事だろうが結構本気でうなだれているミツキの背中に、マドリはそっと手をあてがった。
ーーーーーーーーー
「準備はいいか!じゃあ行くぞ!!」
黒アキに力強く促され、オレは再び覚悟を入れ直す。
三方向に散ったオレたちはそれぞれの大技を叩き込むべく鉄人形に近づき、そしてーーー。
「龍の嘶き!!」
魁となった『不可視の征服王』は弾道を描くことなく、極めて暴虐的に、鉄人形の装甲を壊滅させた。
次いで鉄人形の装甲を縫って差し込まれた剣に鉄人形は目元の赤ランプを明滅させる。
「開花!剣化蓮華ッッ!!」
『ゴ・・・・・・ッッ!?』
差し込まれた剣は生物の様にうねって、鉄人形の内部構造を蹂躙し、斬攪していく。
外部、内部、どちらにしてもコレでもか、と云う程破壊された鉄人形は鋼の軋む様な吃音を放ったかと思うと、大量の黒煙を吐き散らした。
「ミッションは、コレで終わりだーーーーッッ!!」
「『鎖縄ーーー黒式・叢狩りッッ!!』」
狙い違わず、膝小僧から漆黒く伸びた鎖は鉄人形に着弾して、大きくひしゃげて、まだ止まらない。
ひしゃげて、くの字に曲がって、ねじ切れる。
鋼鉄の身体が泣き別れに、胸像の様に分断されると鉄人形の中枢が鋭い光をまき散らしてーーー。
ドッッカアアアァァァァァァンッッ!!!
再びの、大爆発。
ミッション達成の鬨の声は、他ならぬ、鉄人形自身から発生したものだった。
どうも!キズミ ズミです!!
3話にわたる鉄人形イジメもついに終結しましたね!
何気に次がコラボ章、幕間になりますのでお楽しみに!
多分、結構早く投稿できそうだったりします!!
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