チート無しクラス転移〜〜Be chained(ベチーン)〜〜
コラボ章 10話 『集結し、終結す』(中編)
前方に聳え立つ、鋼鉄の巨躯。鉄人形。
先ほどサイトーが出会い頭に痛撃を与えたことで、その無機質な瞳は完全にオレたちを敵と見なしていた。
無論、オレたちにしてもそうだ。鉄人形は敵であり、とりわけオレには超えねばならない相手でもある。
何故か、ミッションだからである。
「・・・うしっ、覚悟は、決まったな」
込み上げる何かを抑えて、自分を奮い立たせるとサイトー、原ちゃんと目があった。
オレたちは視線だけで言葉を交わした後、鉄人形に、迫る。
オレは右方に回り込み、サイトーは左方へ迂回して、原ちゃんは真っ直ぐ鉄人形へとひた走る。
敵対生物の接近を感知した鋼鉄の巨躯は無機質な瞳に緑の光を灯して、生み出したのは煌々と輝く光の弾。
バスケットボール程度に大きい光弾は、都合三発。
ヴヴゥ、と空気を振動させながらオレたちへ、平等に1発づつ向かってくる。
「ーーー何、あれ・・・?」
ミキオたちの戦闘、それを遠巻きに見守っていたマドリは淡青色の瞳を大きく見開き、戦慄を幾分含んだ声を漏らした。
「魔力弾だねぇ。属性は、うぅん・・・。強いて言えば『無』かなぁ。というかこの世界に魔力属性ってあるのぉ?」
「漫画とかだと『火』とか『水』とかあるけれど、この世界にそういう属性は存在しないよ〜。だからアレは単なる魔力弾」
異世界からの訪問者であるミツキの質問に、光希は返答するも、マドリは首を横に振った。
「・・・違う、よ。属性とかそういうのじゃなくて、ケタ違いの魔力なの。極限までに圧縮され尽くしたみたいな、そんな魔力・・・・・・」
マドリは、魔法使いである。
込められた魔力量から威力を推定して危険度の分水嶺を計るのは魔法使いとして当たり前の技術だ。
魔力の扱いも、洞察力も、師匠のおかげ、そしてマドリ自身の類まれなポテンシャルのおかげで、既に十人並みを遥かに超えている。
そんなマドリだから、想起した。次の瞬間の、最悪の状況をーーー。
「ミキオッッ!!逃げて!それに当たったらダメ!」
ーーー直後、マドリはまたしても息を詰める事になる。
魔力弾直撃の間際、サイトーが、原ちゃんが、ミキオが、笑った気がしたからだ。
「んッ、ズああアアァラあッッ!!」
光弾が迫るに比例して、肌が粟立ち、直感が警鐘を鳴らしていた。
アレを喰らえば、命は無いと。
ーーーならば、バカ正直に迎撃する必要は無い。
オレはプロサッカー選手もかくやと云うほどのスライディングを以って、むくつけき光弾の下を滑り込み、超常の力を、解放。
ジャラジャラと音を立てて鎖に変貌するオレの指先は天高く伸び、空気にくっついてオレを巻き取っていく。
空へ上がっていく間、感じたのはGによって内臓が急降下していく不快感だ。
オレは顔を思い切り顰め、小さく嗚咽を漏らす。
ーーー今日あんま食べてなくて良かったぁ!うっかりアクロバティックにゲロするところだっつーの!!
ふと、眼下のサイトーと原ちゃんを見やる。
サイトーは、恐らく自らの能力であろう龍の右腕を以って、魔力弾に正面からぶつかっていった。
着弾し、数十倍に膨れ上がる魔力がサイトーの命を刈り取るーーー訳では無かった。
凄まじい爆風に巻き上げられた砂けむりから突き出てきたのは未だ、怪我1つないサイトーの姿だ。
無力化された魔力弾は砂けむりの中で淡い燐光と化し、切なげに瞬いている。
一方、原ちゃんは二振りの刀を以って縦横無尽に斬り裂き、魔力を攪拌させていった。
戦闘時、1000分の1秒の世界に生きる原ちゃんの目には、高速で動く魔力弾さえも止まって見えたのだろうか。
何にせよ、どうやらオレの味方達はこれ以上ない程頼りになるらしい。
彼らに遅れを取らないように、肩を並べて恥ずかしくないように、オレの戦意はみるみるうちに膨張し、伸ばした鎖が漆黒に染まっていく。
「一番槍はオレが貰うぜ!!」
「『鎖縄ーーー黒鞭ッッ!!!』」
腰のひねりを加えて勢いをつけたオレは漆黒の鎖を振りかぶり、鉄人形の頭部へと襲撃する。
しかし、必中を疑わなかった漆黒の鎖の猛威は鉄人形にまで至らず、ドーム状に展開された障壁によって弾き返された。
「バリアか!?めんどくさいのがあるな・・・!」
己の持ち得る最強の攻撃が殺されたことに少なくない衝撃を受けるが、しかし爪痕は大きく残した。
『黒鞭』が直撃したことによりクモの巣状の亀裂が入ったバリアは、多分あと1発で崩壊する。
しかしそれを成すのはオレじゃない。
既に着地態勢に入っているオレと入れ替わりに空を踏む人影に、オレは後を託した。
原ちゃんの投擲した刀を把持して、緑がかった障壁に刺突するのはサイトーだ。
「いっっけええぇぇぇぇッ!!!」
穿たれた箇所から瞬く間に亀裂が奔り、次の瞬間にはガラスの破砕音の様な音とともにそれは砕け散った。
キラキラと太陽光に反射して照り返すバリアの残骸は場違いな美しさを演出しながら、鉄人形の懐に飛び込む侵入者を迎え入れる。
「原ちゃん!右肩から少し中心寄りのところ、そこが魔力炉だ!」
先駆けとなったサイトーの言葉に剣気で以って返事をした原ちゃんは狙い違わずーーー。
鉄人形の装甲と装甲の隙間を縫い、赤熱した魔力炉を貫き、抉った。
無機質な瞳に奔る動揺。
オレは刹那の好機を見逃さず、飛翔し、超常の力を解放させる。
「『鎖縄ーーー叢狩りッ!!』」
鎖に変貌を遂げたのは、ひざ小僧から下。
痛烈に繰り出されたオレの脚技は鉄人形の右肩に直撃して不協和音を奏でる。
「今度はちゃんと当たったか・・・!原ちゃんに感謝だな」
恐らく、原ちゃんが魔力炉なるものを破壊したお陰で鉄人形はバリアが展開出来なくなったのだろう。
『ガ、ギギガガガガガガガガガガッッ!!!』
鋼の軋むような音。鉄人形の鳴き声だろうか。
「づ、ああっっぶっねぇ!!」
鉄人形の上体が突如、プロペラの如く回転してオレに直撃、しかけた。
たまらず退却し、出来損ないの五点着地で地面に激突。もんどりうっているとサイトーと原ちゃんが駆け寄ってきた。
「・・・原ちゃんの刃が通らなかっただけあるね。すげぇ硬ぇのな、これは難しいね」
漆黒の鎖ではないといえ、『叢狩り』が大して効いていなかったのは軽く傷つく。
「音を聞く限り、僕は攻撃すると痛いしなぁ」
「あれ?さっき殴り飛ばしてなかった?」
サイトーの言に違和感を抱いて、質問する。
「あれはね、空気を殴ってるから。直接当たってはないんだよ」
「なるほど、規格外か」
サイトーのアンサーに原ちゃんが嘆息混じりのコメントを漏らした。
「それ、褒めてる?」
「貶めては無くね?」
などと言葉を交わしているうちに鉄人形は再び魔力弾を創り出し、打ち出した。
先ほどはバスケットボールくらいの魔力弾だったが、今度はもっと大きい。
オレの上半身ほどもあるその魔力弾越しに見える景色は空間が歪んでいて、遠く、マドリの叫び声が耳朶を打った。
「ーーーーーーーーー」
世界が映画のコマ割りの様にゆっくりと形を変えていく。
まるで8ミリ映画みたいに沈黙した世界で、1人平時の思考スピードでいられるのは奇跡だ。
気づかず、突き出した右手は人の形を失っていて、息を呑む間に武骨な盾に形を成した。
放たれる言葉、人非ざる者の絶技が指先から迸り、超常の力が快哉を叫ぶ。
「『鎖盾ーーーライオットシールド!!』」
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