チート無しクラス転移〜〜Be chained(ベチーン)〜〜
コラボ章 7話 『主人公じゃなくても』
ーーー目まぐるしく繰り返される生殺与奪の渦中、原は己の人生の奇異性に今更ながら気づいた。
図らずも自嘲気味な笑みが漏れてしまうが、それは眼前の、死にゆく魔物たちへの冒涜な気がして、原は口元を引きむすぶ。
鋼を振れば当たり前の様に飛び散る血飛沫を受容しながら、原の思考は『あの日』に回帰していた。
原の、否、クラス全員の人生のターニングポイントとなった、なってしまった、あの日の事をーーー。
ーーーーーーーーーー
「うわッ!?なんかでたァ!!?」
俺は、そして周りのクラスメイトたちは瞠目していた。
一クラス分の視線が一挙に投じられているのは、他でもない、俺であり、俺の手である。
もっと厳密に言うならば、俺の手から生えた光の剣に、皆、喫驚していた。
異世界に飛ばされて、サイトーがトラに勝利して、カミサマとやらと拳を交えた数時間後の出来事だ。
やたらと尊大で、それでいて美人な女の人に託された能力。
それは『刃を創り出す能力』だった。
俄かに溢れ出す困惑、疑問、そして、歓喜。
唐突だが、俺はアニメが好きだ。漫画も好きだ。日本に生まれた事が俺の人生最高の幸運だったと胸を張って言える。
そんな生粋のクールジャパンな俺だから、実はこの異世界転移なんていうトンデモな状況に胸が高鳴っていた。
それでいて、特殊能力だ。オンリーワンな、俺だけのアビリティ。
その時の俺は、まるで物語の主人公にでもなったかのような気分で、襲い来る敵との激闘、そして華々しい未来を勝手に夢見ていた。
ーーー・・・有り体に言って、そんな俺の脆く淡い目算は粉々に砕け散った。
能力の発現。それから間もなくの事だった。
草原の夜空を駆る巨躯が、現れたのだ。
誰だって知ってる、有名な空想上の存在、龍が、圧倒的な存在感と殺意を以って閃光の中から現れた。
遥かに高い位置から俺たちを見下ろすその龍に、俺は立ちすくんで動けなくなってしまった。
それでもサイトーに促されて、「原ちゃんは今クラスで一番強いから」なんて鼓舞されて、俺はサイトーに追随し龍に向かっていった。
手の中に光を収束させ、即席の刃を創り出す。
異世界転移の際の性能補正とやらで、俺の速度は人域を超越していた。
あまりに楽観的な観測、半ば勝利を確信した俺は龍に刃を振り下ろし、そしてアッサリとはじかれる。
龍に放った分の力が作用・反作用の法則的に自分にも返ってきて、俺は利き手を空に放った。
ノーガードの俺は直後、大質量物の突進をくらってずっと遠くまで吹き飛ばされ、情けない悲鳴をあげた。
短めの失神から覚醒したとき、眼前に見えたのは単身、龍と果敢に戦うサイトーの姿だった。
何度、龍の攻撃を受けようとも決して退かず、拳を振るうサイトーを目の当たりにして、俺は気づいた。
ーーークラスで一番強いのは、俺じゃねぇんだって。
ーーー主人公は、俺じゃねぇんだって。
ーーーーーーーーーーーーー
ーーー遊離した精神が肉体へ帰ってきたとき、眼前に広がっていた地獄絵図に原は身震いした。
「カミサマは俺に性能補正はくれたが同じくらいのメンタルはくれなかったか」
原は小さく「クソったれ」、と悪態をついて向こう、木霊ザルの一団に自ら飛び込んでいった。
一団の先頭にいた木霊ザルは原の接近を見るや自前の爪を光らせる。
が、木霊ザルの狩猟本能がピークに達するよりも少し早く、前方三体の木霊ザルは胴と腰が泣き別れになった。
原は更に切り進める。
血と臓腑を伴って原は一団の中央まで行くと全方位から振り落とされる獣爪がその身に届くより早く木霊ザルを剣のサビにかえてゆく。
「ぁ、らあああああァァ!!」
避けて、斬って、剣を捨てる、避けて、斬って、剣を捨てる、避けて、斬って、剣を捨てるーーーーー。
一呼吸のうちに最低でも3回、一連の動作を繰り返す。
視界と脳みそが白熱して、次の瞬間の最善手を弾き出すと原はまた剣を振るった。
絶え間なく続く木霊ザルの猛攻。
鋼を振れば振るだけ、掠める手傷の数が増え、身体中に鋭い熱を帯びながら原は剣を構え、一閃する。
「・・・・・・ッ!?」
木霊ザルが苦し紛れに放った砂礫が原の顔に当たり、わずかに狼狽する。
卑怯だと言う気はない。不覚を取った。それだけだった。
原は後傾姿勢になった態勢を戻そうとして、つんのめった。
「な・・・!?やべッ」
ここぞとばかりに木霊ザルの獣爪が前方より殺到する。
原は唇をガパッと大きく開けると口内に剣を創り出した。
己の爪の必中を信じて疑わなかった木霊ザルの眼窩から剣先は侵入して、脳を貫き、わずかに喘いだのち、絶命する。
「剣はこっからも出せんだよ!」
原は咥えた剣を逆手に持って背後に突き刺す。
やっと態勢が安定したと息を吐くのも束の間、原の居る一団に激震が奔った。
他の木霊ザルの一団と合流したのだ。
原が一瞬意識を状況判断に割いていたその時、死角からジャイアントがヌッと這い出てきた。
「ーーー!防御・・・・・・ッッ!!」
既に振りかぶった拳は真っ直ぐ原の脊椎を捉え、瞬間、鋼の軋む不協和音が木霊する。
「あっぶねぇ・・・!!」
間一髪、拳と身の間に剣を滑り込ませて衝撃を緩和させた。
しかし流石はジャイアントの剛力だ。余波だけで原は宙空に吹っ飛ばされた。
跳躍して原に追撃を浴びせようとしてくる身軽な木霊ザルたちの頭蓋を縦横無尽に割っていく。
眼下を見下ろすと、丁度、着地点にジャイアントが数匹、舌なめずりをして俺を待っていた。
「やらせっか、バカザルぅ・・・!!」
両手で剣よりも一回り大きな、大剣を創り出すと着地点にぶっ刺し、鍔を踏みしめて跳躍。一団の輪の中を抜けた。
やや緊急回避的に地面へと着地した原は振り向きざま大仰に手を振るった。
手中に創り出されたのは武骨な大剣、否、大剣とだけ呼ぶには、その剣は大き過ぎる。
有り体に言って、原の身長の3倍以上はある極大剣を創り出したのだ。
隆起した筋肉はそのまま、衣服の繊維がブチブチと音を立てて千切れていく。
「んんんんんッッ!!らあァァァァァァ!!!」
遠心力、そして原の腕力を総動員して、極大剣は横薙ぎに振るわれた。
極大剣の猛威は前方、木霊ザルの一団を蹂躙する。
木霊ザル達に死が推及していった・・・!
「ぁあーー〜〜〜・・・。くそ、ここらが限界か・・・」
原は血の滲んだ手のひらを見た後、地面に膝をついた。
立ち上がることは、出来ない。足が震えてしまっている。
剣を振ることは、出来ない。手が痙攣してしまっている。
戦闘に次ぐ戦闘、その疲労によるものでは無かった。
今、原の胸中を席巻しているのは、恐ろしい、殺したくない、という恐怖心だった。
有り体に言って、原は今更、ビビっていた。
先程、原が吐き捨てた言葉、
ーーーカミサマは俺に性能補正はくれたが同じくらいのメンタルはくれなかった。
異世界に来るまで人生の全てを平和な日本という国で過ごしてきた原にとって、生物を殺した経験はゼロに等しい。
そんな原だったけれども、友人を助ける為に、彼は鬼と成った。
自我が精神を凌駕し、一時的にではあるが一騎当千の力を得た彼の事を、労いこそすれ誰が咎められるだろう。
それは他でも無く、彼自身の問題だった。
「・・・くそ、俺はやっぱり、中途半端だ」
情けなく、そしてどこか惜しがるように、原は言葉を吐き出した。
「分かってる。きっとお前だったら、守り抜けるんだろ・・・?最後まで」
原の脳裏に、1人の少年が過ぎった。
ずっと憧れていた偶像に最も近くて、だから、最もカッコいい。
ーーー俺には決して無いものが、彼にはあった。
「ーーーー原ちゃん・・・!!」
遠いところで、自分を呼ぶ声が聞こえた。
原は首を巡らせて、光希を確認する。
光希は先ほどまでと、まるで変わらず、そこに居た。
光希、そしてその横のミツキの無事に安堵し、直後、原はまぶたを剥いた。
木霊ザルの一団が、光希達の居るところへひた走っているのだ。
「光希ッ!逃げーーーッ!」
いや、無理だ。逃げても、直ぐ追いつかれる。
足は、動かない。石像のように固まって、今やピクリとも動かない。
ーーーとことん自分が嫌になる。
ーーー俺には、主人公としての勇気も、矜持も無い。
こんな時、主人公ならどうする!?
ーーーサイトーなら、どうするーーー!?
「は、主人公だとか、主人公じゃ無いとか、下らねぇな・・・」
俺は直前までの思考をまるっきり放棄して、創り出した剣を杖代わりに屹立した。
ーーー俺は主人公にはなれない。なりたいけれど、なれない。なれなかった。
「だから、どうした・・・?」
光希達に迫り来る木霊ザルの群れ。
そしてその足元に打ち捨てられた剣の残骸を見据えて、原は不敵に笑った。
ーーーでは、主人公でなければ友達を助けられないのかーーー?
答えはーーーーーー
「・・・延びろ」
血と油で切れ味を無くし、捨てられた剣、その側面から突如として新しい刃が天を衝いた。
木霊ザルは光希達に触れることなく、地雷の如く顕現した凶器に刺し貫かれ、悶絶のうちに命を落としていく。
とりわけ、一団の中に混じっていたジャイアントの生命力は伊達でなく、しかし既に地面から離れてしまっている足をバタバタと暴れさせても自重でより深く剣が刺さるだけだ。
ジャイアントは唖然としている光希の目の前で血の泡を吹き、やがて瞳に虚を混ぜていった。
「念のため剣を消さないで良かった・・・ってな。ーーーーガハァッ!」
張り詰めていた緊張の糸はそこでプッツリと切れ、原は血まみれの大地に背中を預けた。
「原ちゃん、大丈夫〜」
近づいてきた光希が原を覗き込む。
「なんていうか、光希のその間延びした声を聞いてやっと人心地つけたわ」
原は苦笑まじりに生還の安堵を噛み締める。
「ああ、そうだ。そういや忘れてた」
「何を〜?」
「いや、答えは『ノー』だってな」
「・・・?」
光希がキョトンとした顔で首をかしげる。
「ーーー主人公じゃなくたって、友達は守れるんだぜってことだ」
「つっても」と付け加えて、原は言葉を続けた。
「剣と魔法の世界は、画面越しで充分だ」
原  観月
年齢・・・16歳
身長・・・178cm
趣味・・・天体観測、アニメ鑑賞、スポーツ全般
友人・・・基本的に誰とでも仲良くなる。とりわけ木澄とは休日によく遊びに行く。サイトー、光希とはお弁当仲間。
天稟(?)・・・『刃を創り出す能力』
手を振るなり足を振るなり、舌を動かすなりして、何らかのアクションを起こすと刃を創り出せる能力。
能力の副次的な恩恵として、初期状態から剣の扱いをある程度理解出来る。
能力で創った剣は能力者の想像に呼応して形を変化させられる。質量保存の法則とか知ったこっちゃない。
備考
簡単にセットされた黒髪に精悍な顔だちの美丈夫。
運動神経が極めて良く、痩せ型ながら体はかなり引き締まっていて腹筋が8つに割れている。
成績も優秀でクラスでは光希、上田に次ぐ成績優秀者である。
と、ここまで完璧超人の様な要素の塊である原だが、性格はそれらの帳尻を一挙に合わせたが如く酷い。
アニメオタク、重度のロリコン、デリカシーのなさ、それらの観点から女生徒達には一線引かれている。
木澄とは中学校からの仲であり、実の兄弟の様に気のおける友人である。
イルシアでの修行中、木澄が能力を発現させた事を自分のことの様に喜んだ。
直後、扱いなれていなかった能力が暴発し、樹木で亀甲縛りにされたのはいい思い出だ。
いい思い出じゃねぇな・・・。
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
381
-
-
1359
-
-
140
-
-
3087
-
-
841
-
-
337
-
-
58
-
-
111
-
-
439
コメント