チート無しクラス転移〜〜Be chained(ベチーン)〜〜

キズミ ズミ

コラボ章 3話 『黒い方のアキ』




「じゃ、じゃあ気をとりなおして・・・」

 原の強烈なカミングアウトからひと段落して、オレはパンと手を打った。

「サイトー、次、お願いできるか?」

「・・・え、ボ、僕!?僕はこの次でいいよ。光希お願い」

 ーーーまぁ、原の後に自己紹介するのは大分勇気いるだろうな・・・。

「あー、ミツキ、自己紹介どうぞ!」

 その時、ふと感じた違和感に首を傾げた。

 ミツキと、光希。

 思えばこの場において、ミツキ、とは誰のことを指すのだろうか?


「「ボクの名前は安倍光希/ミツキです。17歳でぇ、趣味はジグソーパズルです。よろしくね〜/ぇ」」


「すまん光希、オレが言ったのはミツキの方で・・・、ってえぇ!!?」
 

 ーーーなに今のすごい!お互い寸分たがわず同じ事言った!

 いや、思ってはいたがこの2人。

 旧知の友であるミツキと、先ほど目を覚ました光希を並べてみて改めて気づかされた。

 この2人、他人とは思えないほどに相似している所が多い。

 まず、その口調は穏やかに間延びしており、お互い線の細い長身痩躯。

 いわんや柔和な笑みをこぼしてオレを見る2人の目は怜悧な切れ長の瞳である。

 流石に顔は生き写し、と言うほど酷似してはいないがのんびりした性格が染み出したような、同系統の顔をしていた。

「それにしても、たまたま会った人が同姓同名って物凄い確率だよね」

「マジでそれな。色々スッゲェ似てるし、生き別れた双子の兄弟なんじゃね」

 ミツキと光希の双子芸をみて瞠目しているマドリは呻き、それに原は応えた。

 が、オレに言わせれば、この2人には微妙な差異が存在する。

「ーーーでも無いな。光希の語尾が『〜』と伸ばしているのに対してミツキは文末の母音を伸ばしているんだ」

 単純に日数だけでいえば、ミツキと友達になってまだ5ヶ月と経っていない。

 しかし、不思議な事だがミツキとはもっとずっと昔から仲が良かった気がするのだ。

 もはやオレはミツキのプロ、ミツキマイスターと言っても過言ではないだろう。・・・過言だわ。

「そうだね。それに僕の知ってる光希はこっちのミツキよりもちょっとだけ痩せてて声も高いよ」

 うんうんと頭を縦に振ってサイトーも同意する。

「だよなぁ!そりゃ似てはいるけど双子ってほどじゃ無いっつの!」

 期せずして、サイトーと意見が合った。

 オレは相好を崩してサイトーとハイタッチを交わすも、その光景をマドリは微苦笑する。

「何そのミツキ談義、2人ともどんだけミツキのこと好きなの」

「そりゃ何気に半年近く親友やってるしな・・・ってアレミツキ、お前何やってんの?」

 おもむろに、光希はミツキの上に被さるようにして寝転んだ。

 上から覗くオレに目配せすると、光希だけ、上半身を上げ、声を合わせる。

「「ゆーたいりだつ〜」」


「「「「似てるッッ!!」」」」


 予想だにしなかったミツキと光希の双子芸にオレたちは瞠目せざるを得なかった。



「って事で、次は僕か・・・」

 光希の前、というかほとんどミツキもセットだったから次こそサイトーの番だ。

 しかし当のサイトーの顔には暗幕が垂れたかのように沈鬱な影が差しており、サイトーは細く、されど長く息を吐いた。

「最初に言っておくけどーーー」

 心なし、トーン低めでサイトーは前置きをする。

「僕は原ちゃんみたいに特殊でアレな性癖でも無いし光希みたいに面白おかしい持ちネタも無いよ」

 ・・・まぁ、サイトーの懸案もわからないでは無い。

 オレが言えたことでは無いかもしれないが、先だって聞いた自己紹介の限りでは、サイトー陣営は大分イロモノが多い。

 本来なら比較的プレーンなキャラのサイトーが先んじて自己紹介を自任するつもりだったのかもしれないが、その目論見は原の先走りアンドメテオストライクで水泡に帰した。

 オレは黙したまま目だけで是だと伝え、促す。

「ええっと、僕の名前は斉藤 秋です。趣味は普通に、読書、とか?・・・これくらいで良いのかな」

「・・・・・・」

 ・・・うん。普通だ。

 図らずもミツキ以前は自己紹介の皮を被った全世界仮装大賞のイロモノオーディションに終始してしまいそうだったが、サイトーは一石を投じてくれた。

 オレが望んでいたものは、本来こう言ったオーソドックスなものだった。

 ーーーいや、でもね何だろうなぁ・・・。

 不完全燃焼感ハンパない。

 ギトギトのステーキをたらふく食べた後、一切味付け無しの糸こんにゃく出された気分だ。

 無論、サイトーは何も悪くない。

 悪いのは全部ロリコンの原だ。あと童貞のオレだ。穴があったら入りたい。上からコンクリ流して欲しい。

「・・・うん。それじゃ最後にマドリ、大トリらしく堂々とーーー」

「ちょっと待てや」

 唐突に待ったをかけたその声に、オレは一瞬誰のものか分からなかった。

 有り体に言って、声の主はサイトーだ。

 しかし、聞き覚えがあるにもかかわらず、内包された感情に先ほどの彼の雰囲気とは似ても似つかない。

 純然たる暴力のオーラが辺りに席巻して、オレは一瞬、呼吸を忘れた。

「ぁーあ、やっと出てこれたぜ。アキのグズ野郎、すっかり俺を封じ込めれたと思ってやがる」

 くつくつと喉を鳴らして笑うサイトー・・・なのか?

 今しがたまでの、穏やかなサイトーとはまるで相克関係にある現在の彼に、わずかな戦慄が漏れる。

「あぁ?何ビビってんだよお前ら。取って喰いゃしねぇよ、自己紹介なんだろ?だったら俺だって出張らにゃぁな」

「サイトーの、別人格。喧嘩っ早く、暴力的な、黒い方のアキ・・・!」

 光希が柔和な顔を固くして、述懐する。

 ーーー黒アキ。アゼルさんから聞いてはいたが、恐らく面と向かって話すのはこれが初めてだ。

 虎を屠り、龍を叩き切ったのも全てこの黒アキの力、らしい。

 光希と原にしてみれば、彼は命の恩人ですらある。

 それなのに、どうしても相容れない。

 重ねられないのだ。友人であるサイトーと、黒アキの威容に、隔たりがあり過ぎる。

「『俺』の名前は斉藤 秋だ。趣味は無ぇが、ぶっ壊すのが好きだ。・・・どうにもシケちまうなぁ」

「おっしゃ、そんじゃ一発、ここらにデッケェクレーターつくってやるよ」

 アゴをさすって閃いたとばかりにニヤッと笑った黒アキは何の迷いもなく腕を大地に突き立てた。

「ーーーーぇ!?ちょっと待ッッーーー!!?」

 半径5メートルほど、半球型に地面が陥没して、遅まきに爆砕音が彼方まで轟く。

 爆心地の渦中に居たオレたちは驚愕のうちに衝撃波によって吹き飛ばされ、鳥になった錯覚をした。


「やっぱお前ら普通じゃねぇぇぇーーーーッ!!」


 滞空時、大空に放ったオレの絶叫は、誰に届くでもなく、澄み渡った空気を振動させた。




 



 




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