チート無しクラス転移〜〜Be chained(ベチーン)〜〜

キズミ ズミ

二章 12話 『スラム街の英雄』




「何とかお願いできませんか・・・?」

「ダメだ、スラム街の奴らを採用はできねぇ」

周りに大量の鎧が設えられたその店の中央で、オレは筋骨隆々な男に土下座をしていた。

「そこを何とか!労働意欲にかけては誰にも負けない奴らなんで!!」

「しつっこいぞこのガキィ!第一なぁ、この街で、スラムの人間を雇うような店なんてどこにも無いんだよ!」

今、オレが居るのは街の端っこあたりにあった『ドラム』という防具屋だ。

店の前には『激安!搏撃卿も愛用のメルメタル製鎧!』と銘打たれた看板が設置されてある。

・・・まさか、この店に再び入ることがあるとは思わなかった。

従業員募集をかけていた防具屋とは、『ドラム』だったのだ。

いわんや、オレとこの防具屋『ドラム』には一言では語れない因縁がある。

いや、まぁ、値段交渉したら店から叩き出されたってだけなんだけど・・・、アレ?一言で語れちゃったわ。

「そんな!求人って話聞いたから業腹なの我慢して入ったんスけど!アレっすか!?リクルートに偽りありっスか!?」

「うるせぇよこのクソガキ!リクルートとかいう架空の会社は知らねぇし、お前もお前で防具探してたんじゃねぇのかよ!」

実際、オレとヴァルドが戦っていた時間は長いようでとても短かった。

その後のアレやコレや引っくるめてもオレが『ドラム』に足を踏み入れるのは大体2時間ぶり2回目だろう。

「・・・男が土下座までしてんのに、何がダメなんスか!?」

「気概」

身もふたもないあしらわれ方をした。

「・・・なぁ、クソガキ。見たとこお前は観光客っぽいし、あとなんかアホっぽいからスラム街の奴らに騙されてるんじゃねぇのか?」

「スラムの人間もそりゃ悪いヤツばっかじゃねぇ、実際、助けられてる所もあるんだ」

「だがもちろん、何しでかすか分かんねぇような、救われねぇ奴も大勢いる」

「雇えねぇのはそういう訳だ、まともな生活してねぇから、外面が汚ねぇってのは正直あるが、それ以前に信用がなんねぇんだよ」

『ドラム』の店長はボウズ頭をガリガリと掻き、バツの悪そうな表情を浮かべる。

「そんな・・・!でもオレがーーーーー」

言いかけて、中断した。

二の句が継げなくなった訳でなく、誰かが店に入ってきたからだ。

木造のドアを開けて店に入ってきたのは細身の筋肉質に逆立てたオレンジ髪が特徴の男、ヴァルドだった。

「・・・お前は、ヴァルド、か?」

ヴァルドを見た店長の目が、驚愕に染まっていた。

神妙な面持ちで店に入ったヴァルドは、オレが土下座しているのと、店長をかわるがわる見ると、店長に歩み寄って、頭を伏した。

「話はコイツに聞いてると思う、無理を言ってるのも分かった上で、オレ様ーーオレの子分たちをこの店で働かせてくれねェだろうか・・・!!」

ヴァルドは深く、深く頭を下げて、店長に懇願する。

店長は最初、困ったように頬を掻いていたが、やがてアゴを引き、真面目な顔をして口を開いた。

「・・・まずは、名前を名乗れ、お前は、スラム街のボスのヴァルドだな?」

「・・・・・・ああ」

ヴァルドは言い淀んだようにしばし沈黙したが、答えた。

「俺はスラムの人間が嫌いだ。奴らに迷惑をかけられた事がねぇ店は、ここいらにはねぇよ」

防具屋『ドラム』は、スラム街からほど近いところに店を構えている。

「俺とお前はもちろん面識がねぇ、だのに何でお前を見た瞬間、お前がヴァルドだと分かったと思う・・・?」

鼓動の音が聞こえそうなほどの静寂の中で、店長はヴァルドを真っ直ぐに見ていた。

「オレは、今まで色んな悪事をしてきた。そのツケが、これなんだろ」

ヴァルドがまぶたを閉じると、いつもそこには誰かの死に顔が写っている。

網膜に焼き付いて離れない、数知れない人間の死に様と、時折、耳鳴りの様に聞こえてくる断末魔。

それら全てが、今、頭を下げているヴァルドをせせら嗤い、ザマァみろと嘲笑している。

しかしーーー

「ちげぇよ、ヴァルド、いや、スラム街の英雄」

「お前のやってきた事で、泣いたヤツらがいるのかは知らん。だが少なくともここらで店をやってるヤツらはみんな、お前に感謝してるんだ」

「ーーーーーーーはッ・・・?」

ヴァルドの口から、へんな吐息が溢れる。

「昔、ここらの店はスラムの人間に随分と煮え湯を飲まされた。だがある時ピタリとそれが止まったんだ、ヴァルド、お前のおかげでな」

「風の噂でな、ヴァルドが金をスラム中の人間に渡して回ってるって聞いたんだ」

「元々、チョッカイかけてくる様なヤツらは大半カネに困っての事だったからな、お前のおかげで、この辺りは当時じゃ考えらんねぇくらい治安が良くなった」

「見知らぬガキじゃねぇ、他ならぬスラムの英雄様の頼みだ。俺だって恩知らずじゃねぇ」

店長はニコリと笑い、肩をすくめてヴァルドに言った。

「ーーーーココでバイトしたいって言ってるヤツ、連れてこいよ、面接してやる」

「ーーーーーーッ!!ホントか!?おっちゃん!!」

オレは土下座状態を解除して店長を仰ぎ見る。

「お前じゃねぇ!ヴァルドに免じてだ!!お前は早く店から出てけ!」

「あんまりだろ!!」

店長に退店を促され、図らずも涙目になる。

「・・・すまねェ、ありがとう、ございます・・・・・・!!」

ヴァルドは再び店長に頭を下げると震えた声で礼を言った。

「おう、それで、働きたいって言ってるヤツらはどこに居るんだ?」

「あ、実は店の前で待たせてるんだ。おーい、入って来ていいぞ〜」

オレは手をメガホンにして彼女らを呼んだ。



ーーーーーーーーーーーーーー


「なっ・・・!?マ、マジか・・・・・・?」

店長は、店に入ってきた彼女たちを見て、驚きにまぶたをむいていた。

現れたのは、花魁道中もかくやという程の、可憐な美少女4人。

「右から、アリエッタ、ナーナス、マルシア、ファルミィです」

「な、なぁクソガキ・・・?ホントにコイツら、いやこの子らスラム出身なのか・・・?」

ボショリとオレに耳打ちする。

いや、店長が驚くのも無理はない。

痛んでいた髪は綺麗に整え直され、薄汚れていた体を洗い流し、新品の、彼女ら年相応の可憐な衣に身を包んでいる。

不意に、店の外から男の声が漏れ聞こえる。

「な、なぁ!さっき通りすがった女の子たちスゲェ可愛かったよな!?」

「『ドラム』に入ってったぞ!ど、どうする?何も用ないけど入ってみるか!?」

どうやら、彼女らの集客率は非常に高い様だ。

店長も聞こえたのか、相好を崩し、ユルユルと頭を振るとーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーー


「乾っっっっっぱーーーーーい!!!」

その日の夜、オレ、ミツキ、ヴァルド組は街の酒場を貸し切って打ち上げをした。

「いやぁ!ホントに神さまってのは居るんだなぁ!!」

綺麗に化粧されたアリエッタをはじめとする女性陣は酒場の中央でもみくちゃにされていた。

「まさかホントに街で働けるなんて、アタシャ夢にも思っていなかった。ホントに・・・、ホントに・・・」

「うわぁぁぁぁ!?アリエッタ姉さんが泣いたーーーーーー!?」

ポロポロと涙を流し、嬉し笑いするアリエッタを囲んで、男の子分たちは底抜けの明るさでやんややんやとはやし立てた。

場所が場所なので、みんなアルコールが入って色々おかしくなっている。

アレから、つつがなく女性陣の面接が終わり、明日から『ドラム』で働くことが決まった。

それにヴァルド組にいる2人の子供も、『ドラム』の店長に口利きしてもらい、正面にある八百屋で働くことになった。

なんでも、当時その八百屋はスラム街の被害に最も苦しんでいたらしく、その分八百屋の店主さんもヴァルドに感謝していたんだとか。

何にせよ今日はめでたい日だ。

オレは手持ちの金貨5枚で酒場を貸し切り、この様な祝賀会を開催した。

しかし、

「はぁーーーーーーーっ・・・・・・」

オレとミツキの顔はどんよりと陰っていた。

「まさか、スラム街にあった鎧じゃミッションクリアにならないなんてねぇ・・・」

ミツキがボソリと独りごちた。

「まったく徒労だったとは言えないにしろ、オレとかだいぶ満身創痍だしなぁ・・・」

結果から言おう。

オレ達は、ミッションを達成できなかった。

少なくとも、スラム街に置かれていた鎧を着ても、何にもならなかった。

つまりは今日オレが得たものはボコボコの体とヴァルド組からの感謝だけだった。

いや、まぁ悪くは無い・・・のかなぁ?

「ミーキーオォ〜〜。ッたくよォ、お前からあの作戦を聞いた時は正直コイツ馬鹿なんじゃねェの、とか思ってたがよォ・・・」

「冥護人が災禍の象徴だなんざ信じるもんじャァねェなァ!お前がいてくんなきャァよォ、オレ様は、オレ様らは・・・」

「うわぁぁぁぁぁ!!?ヴァルドアニキも泣いたぁぁぁぁ!!!」

「ウハ・・・ウハハハハ」

泣いたかと思うと、ヴァルドは唐突に笑い始めた。

「ヴァ、ヴァルド?」

「ウハハハハハハ、ウッハハハハハハハハハハハハ!!!」

ヴァルドは腹を抱えて呵々大笑、隣にいたオレの背中をバンバン叩いた。

「ちょ、ヴァルド酔ってんのか!?テンション調節する装置ぶっ壊れてない!?」

「ァーーーー・・・。よォしお前らァ、早飲み勝負やるぞォ、負けたら1枚脱ぐのな!」

ヴァルドはテーブルの上に躍り出ると両手に持った木製のジョッキをオレに差し出した。

「飲めェ」

わずかに赤らんだ顔、目は完全に据わっている。

「い、いや、オレは未成年だから酒とかは・・・、な?」

アイコンタクトでジョッキを突きかえすもヴァルドは一貫してオレにジョッキを突きつける。

ミツキに助けを求めるべく、視線を移すがミツキはノホホンとした顔で、

「ココは日本じゃないからねぇ、お酒に飲まれない程度には、飲んでも良いんじゃないかなぁ?」

と、言ってくる。

「ミ、ミツキが言うなら、酔わない程度にな・・・?」


十数分後ーーーーー


「ダラッッシャァァ!!次のチャレンジャーは誰じゃぁぁぁぁ!!」

オレは、大ジョッキを天井に掲げ、パンツ一丁でテーブルの上に屹立していた。

既に羞恥心も罪悪感もアルコールに溶かされてしまったのだ。

「次は俺だぜ、ミキオさん!!アンタにゃ今回で返しきれねぇ借りができちまったが、勝負事なら関係ねぇだろ!?」

「ッッッたり前じゃぁぁ!!お前なんざ○◇×☆$#$」

「ロレツが回ってねぇよミキオさん!!」

そんな醜態を晒しているオレだが、ココロの隅には冷静な部分もわずかにあった。

だから、気づいたのだ。

ミツキとヴァルドが、何処にも居ないと言う事にーーーー


ーーーーーーーーーーーーーー

宴会真っ只中の酒場から少し歩いた石橋の上、その中央のテラス然としたところで、ミツキは月を見ていた。

「ゲッヘッヘ、見つけたぜぇ・・・。お前、ヴァルドの仲間だろぉ」

ミツキの後ろには、哄笑を浮かべる男3人組が立っていた。

「・・・ザイーダ組の生き残り、ですか?」

ミツキは落ち着いた口調で尋ねる。

「あぁ、俺らザイーダ組一の武闘派、カルロ三兄弟だ。お前、ちょっと人質になれよ」

「刺し身!刺し身!」

「ウヘヘヘヘへへ、ニイちゃん、コイツ殺していいの?」

カルロ三兄弟はそれぞれの瞳に狂気が宿っていた。

しかしミツキはーーーーー

「この世界の月は、地球のと比べると凄く大きいんですね」

三兄弟の狂気を受けてもミツキは至極落ち着いていた。

「あん?何言ってんだお前」

「刺し身!!刺し身!!」

「ニイちゃん、ニイちゃん!早くコイツ殺そうよぉ!」

今にも襲いかかってきそうな三兄弟に向けて、ミツキは問うた。

「あなた達の生まれた頃、両親はどんな顔をしていたか覚えてますか?」

「んだよお前、俺らにゃ父ちゃんも母ちゃんもいねぇよ、生まれた頃からずっとーーーーーーー」

突如として、石橋に静寂が戻った。

三兄弟の言葉は中途で途切れたまま、ついぞ聞こえることは無かった。

ミツキの後ろにいた三兄弟は、まるで最初からそこに居なかったかの様に、世界から弾かれて消えていった。

「ンだよ、今のは、お前の天稟か?」

石橋の奥の方から、細身の筋肉質がミツキに歩み寄ってきた。

逆立てたオレンジ髪をガリガリと搔いて、どこか慄然とした様子だった。

「ヴァルドさん、ですか。この天稟の事、ミキオには内緒ですよ」

「さァ、そりャァどうだかな。オレ様の質問に答えてくれたら考えてやるよ」

「ーーーーー質問?」

ミツキは眉を少し潜めて、ヴァルドを見る。

「まずは、久しぶりだな、キアルディが死んだ時以来だ。あん時はよくも、オレ様の肩にナイフ突き刺しやがったな」

「ーーーーーーー」

ミツキは何も言わず、押し黙る。


「なァミツキ、お前実は、何年まえからこの世界にいるんだ・・・?」

ヴァルドの顔は、夜の闇に包まれて、白い仮面がボウっと浮かんでる様に見える。

川の水面に映る割れた月に目を移すと、ミツキは細く、息を吐いた。








どうも!キズミ ズミです!!


メリークリスマス!


今回の話で出てきた防具屋『ドラム』ですが10話ぶりの再登場となりました。


正直覚えてない人は二章   2話を是非ご再読下さい。


本来、この話の最後までを前話に収める気だったんですが、文字数がエグくなりそうなので断念しました。


何にせよ、次回でスラム街編は完全終了となります。


なお、スラム街編が終わっても二章はまだもう少し続くのでお付き合いよろしくお願いします!


次回からは新しい展開、懐かしいキャラや新キャラも出ますよ!!


・・・多分。







コメント

  • 佐々木 雄

    ∑(((((゚д゚;ノノ
    ラストに驚きを隠せない⋯⋯
    待ってましたよ、前の続き!これからも頑張ってください。ファンです。
    僕の作品もぜひお願いします!

    1
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