チート無しクラス転移〜〜Be chained(ベチーン)〜〜
二章 5話 『カミングアウト地球産』
パチンと、ヴァルドが指を弾くとあらかじめ待ち伏せしていたかの様に、ワラワラとヒトが集まってきた。
ぱっと見、男女混成20人弱。
特筆すべきは彼ら彼女らの歳の頃だ。
集まった者は皆、一様に若かった。
下は10歳から上は20歳くらいなんじゃないだろうか。
ボロボロの服装に、手には鉄パイプの様な物を持っている。
何にせよ、彼らの半分がオレより年下であるにもかかわらず、しかしその眼光は間違いなくオレを射抜いた。
「失せろ。じゃなけりゃァ死ぬぜ?ーーーーーーー1」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ!金なら払う!金貨1枚で譲ってくれないか!?」
このままだと、何の進展もなく終わってしまう。
オレは一刻も早くミッションを達成し、ミツキを安心させてやりたかったのに・・・ッ!
「論外だ。買収なんてのにャァ、トラウマがあるヤツばっかだかんなーーーーーーー2」
「ダメだよぉミキオ。もう諦めて帰った方がいい」
傍のミツキがそう言ってくる。目には諦観の念が宿っていた。
「だけどッ!ココを諦めたらもう鎧を揃えるメドはつかねぇだろ!?」
ミツキは、一瞬、言葉に詰まった様だった。
「ーーーーーーー3」
買収、つまり金はダメ。オレたちにあるのは、オレにあるものは、あと何があるーーーーーーー!?
「ーーーーーー手品やります!!」
閃いたアイデアが、脳を通さず一気に言葉になった。
「あぁ?手品だァ?お前何言ってんだ?」
カウントダウンがなくなった。チャンスだ!
「タネも仕掛けもありません!指が鎖になるマジック〜!!」
オレは指を思い切り引っ張った。
やはりジャラジャラと、指は鎖に変貌を遂げ、その異能を衆目の目に晒した。
「・・・・・・・・・」
辺りは水を打った様に静まり返る。
この反応は、良いのか?悪いのか?
オレの鼓動が聞こえるのでは、と思うほどの、完全なる静寂の渦中、歓声は、果たして上がった。
「うおおおォォォォォォォォ!!!」
「スゲェぞ!!マジで指が鎖になった!!!」
大成功だ!オレは心の中でガッツポーズをする。
しかし、ふとヴァルドを見るとその口角は1ミリも上がっていなかった。
鉄骨を地面に突き立てたまま、仁王立ちし続けている。
「ま、まだまだ!次は鎖が自由自在に動くマジック〜!」
ダランと、指の付け根から力なく垂れ下がっていた鎖は、オレの意思に呼応してピョコピョコ動き出した。
「ウオオォォォォォォォォォォォォ!!!!」
先ほどの歓声に輪をかけて、大音声が響く。
これで出し切った!もう、オレに切れるカードは無い。
しかし、やはりヴァルドはピクリとも笑っていなかった。
ともすれば、沈思黙考。
ともすれば、怒り心頭。
思えばカウントダウンが聞こえなくなって久しいが、とっくに10秒はオーバーしたはずだ。
「お前・・・」
と、ヴァルドが口を開いた。
「ソレ、天稟の能力じゃねえか?」
言い終わって、オーディエンス達はピタリと、歓声を止めた。
再び起こる静寂の中で、オレは頭をフル回転させていた。
天稟、テンピン?テンピンってなんだよ。この異能、テンピンって言うのか!?
だとすれば、それは手品の看破を意味する。
タネも仕掛けも無いと言っておいて、実は持ち前の異能でした〜、なんぞ言えるものか。
簀巻きにされてそれこそネズミのエサだ。
しかしオーディエンス達もテンピンが何なのか分かっていない様だった。
「天稟、テンピンってアレか?ヴァルドのアニキも持ってるあの、何でも出し入れできるヤツ」
「そうだろ多分、アレ?今の手品ヴァルドアニキのと違ったぞ?つか天稟って何だ?」
「バッカお前、天稟っつうのはなぁ。技術でも魔法でもねぇ、完全に個人のオリジナル能力なんだよ」
「あぁ、つーか天稟なんて持ってるヤツ、ヴァルド兄ィ以外に初めて見たぜ、なんでも生まれつきらしいからメチャクチャレアらしいぜ」
オーディエンスのささやきを盗み聞く限り、やはりオレの鎖の異能は天稟と呼ぶものらしい。
「おい、そこの似非マジシャン」
ヴァルドが鋭い眼光をもってして、オレに問いかける。
「お前、生まれは何処だ、言ってみろ」
「ーーーーー?この世界じゃ無い、別の世界だ」
瞬間、辺りがにわかにどよめいた。
包み隠さず、正直に言ってしまった。
言って、気がついた。
このスラムに入る前、ミツキが言った忠告を思い出した。
『この世界、ランドソールって言うらしいんだけどぉ、取り敢えず、この世界じゃボク達が異世界から来たってこと、なるべく明言するのは控えて欲しいんだぁ』
『控える?言うなって事か?そりゃ、なんで?』
『ランドソールではねぇ、おおよそ100年周期で僕らみたいな異世界人、冥護人が逢着するんだぁ』
『ミョーゴビト?おん、それで?』
『前回、冥護人が現れたのは丁度100年前、その時王国を滅ぼしかけたレジスタンスの創設者が、その冥護人だった』
『それ以来、冥護人は福をもたらす吉兆の証、と言うイメージから、災禍を呼ぶ迷惑なヤツら、と言う印象になったんだぁ』
『ほーん、まぁオレらがその冥護人だって事を言わなけりゃ面倒な事には巻き込まれなくて済むのか。おし、了解した』
という、一幕があったのだった。
しかし、口から出たものは吸い込めない。
オーディエンス達はオレの言葉から、オレたちが冥護人である事を連想したんだろう。
わずかな好奇心と、それでいて畏怖めいた視線をそこかしこから浴びた。
「ウハハ、まさかなァ、災禍の象徴ってな存在と聞いていたが、なかなかどうして、カモがネギしょって現れやがった」
ヴァルドの口元は三日月を描いており、それがどうにも不安を掻き立てられた。
「なァマジシャン。鎧が欲しいんだろ、持ってけよ、いくらでもくれてやる」
発したヴァルドの言は、それまでと180度違うものだった。
「・・・・・・?えぇ!!いいのか!?」
図らずも、ヴァルドから直々に許可を貰えた。
達成じゃないか。ミッション。
パァっと、希望の花が咲いた気がした。
ーーーーーーしかし
「構わねェよ、ただしーーーーー」
「オレ様にサシの勝負で勝てたらなァ」
「・・・・・・え?」
「あァそれと、お前、ミキオっつったか?お前が負けたらオレ様の子分になれ」
どうも!キズミ ズミです!!
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