チート無しクラス転移〜〜Be chained(ベチーン)〜〜

キズミ ズミ

一章 5話 『在りし日の告白』




ーーーーーーなんで、こんな事になっちゃったんだろう。

むくつけき牙を惜しげもなく大気に晒す『トラ』を前に、間宮ミヤコは自問する。

思えば淡々とした、味気のない人生だった。

親に迷惑をかけないように、必死で優等生を演じていた。

やがてそんな虚像が心の根の奥深くまで浸透していって、
ついにミヤコは自分を見失っていた。

そのくせ出来は悪いのだから救いようがない。

親の希望する高校に進学できず、結局滑り止めの中堅校に入った。

その時点で親がミヤコに愛想を尽かしていた事は、どこかでわかっていた。

ミヤコにしてみれば、親の支配、そう言った呪縛からの解放が成ったのかもしれない。

でも、もう遅かった。

15年間、彼女をがんじがらめにしていたソレは、ミヤコの中で肥大化し、『親』と呼ぶ何かに変貌していた。

親からの支配が無くなっても、『親』からの支配は消えてくれはしなかった。

『親』の言われるがままに高校でも優等生として、堅実に、着実に、慎ましくクラスの代表者として矢面に立っていた。

そう言えば一度、言われたことがあった。

「委員長は、真面目だよね。だから、クラスのみんなからも慕われてる」

そう言ってくれたのは、ミヤコと同じ、2ー3学級委員、浦島ダイスケだった。

清爽せいそうな笑みをたたえて、メガネのよく似合う、ミヤコの憧れの人だった。

「そんな事、ないです・・・。実際、加藤くんや安倍くんからは、どう思われてるのか・・・」

クラスで浮いている、加藤ミキオと安倍ミツキ、そんな彼らをどうにかクラスの輪に入れようと、奔走した事があった。

結果は失敗に終わり、ダイスケのフォローが無ければ今頃ミヤコもクラスで浮いた存在になっていたに違いない。

「・・・委員長はね、できた人なんだけど、人の気持ちを読み取る事がイマイチ苦手なんじゃないかな」

「・・・・・・」

叱責されているような気がして、ミヤコは俯くしかなかった。

「ああ、ゴメン。責める気は無いんだ。でも、彼らも彼らの意志でああいう風にしてるんじゃないかなって事」

彼らというのは、加藤ミキオと安倍ミツキの事だろう。

そうだ。これはミツキとミキオをクラスの輪に入れようとした作戦が瓦解した翌日の一幕なのだと、思い出した。

「委員長はさ、本当は誰よりも他人の気持ちを推し量れる人だって、僕は思うんだ」

「そんな事・・・ない、です」

自分の本性を暴かれた様な気がして、身が強張った。

取り繕え、とミヤコの中に巣食う『親』がわめき立てた。

「・・・そう、なら今はそれで良い。いつか本当に、委員長が何にも縛られてない、そんな日が来たらーーーーー」

「ーーーーミヤコって呼んでくださいっ!」

ダイスケが言葉を言い終わる前に、口をついて出てしまった。

言ってしまった。委員長なんて、本当は呼んで欲しく無かった。

第一、ダイスケくんも委員長じゃないか。

そんな言葉一つで、一線を引かれている様に感じた。

だから、ずっと言いたかった。

それでもーーーーー

メガネのレンズ越しに目を丸くさせるダイスケを見て、
やらかした、とミヤコは羞恥で顔を縁取った。

「あ、あ、あの!今のはその・・・!つい、出てしまったと言うか・・・。別にそんな事、思ってーーーーー」

どうにか取り繕わなければと、手をワタワタさせて弁解するミヤコを見て、ダイスケは吹き出した。

「ハハハッ、分かったよ。ミヤコ」

そうしてミヤコは、とびきりのスマイルを見せてくれるダイスケに、釘付けになるしかなかった。

ーーーーーーー思い出していた。

在りし日の、本当に幸せだったと言えるちっぽけな一幕のことを。

現実逃避と言われても、言い逃れはできない。

だって、周りは絶望しか無かった。

無残に食い散らかされた、クラスメイトの肉片。

もはや誰だか判別がつかないソレは、先ほどまでミヤコと一緒に逃げていた彼女のものである。

では、逃げていた?何から?

ミヤコがふと顔を上げると、血に飢えた大トラが、生臭い息を吐いてこちらを凝視していた。

「もう、いいかぁ・・・」

半ば自棄になって、ミヤコはこの世への未練を、一切断った。

死ぬしかないじゃないか、訳もわからず、目の前の、友達だった肉の塊の様に。

大トラが一歩、また一歩と歩み寄ってくる。

「ーーーーーーダイスケくん・・・・・・」

涙が一粒、零れ落ちた。

すると、ピタリと大トラが動きを止める。

いつまでも動かない大トラを不思議に思って、ミヤコは閉じていた目を、少しだけ開けた。

ーーーーーー大トラは、先ほどまでの血に飢えた獰猛性を失ったかの様に、至極、優しい目をミヤコに向けていた。

級友を一人、ミヤコの目の前で喰らったとは思えないほどに、慈愛に溢れたその瞳は、まるで誰かに、よく似ていた。

ーーーーーしかし

「ガ、ガ、ガァァァァァァァァァァァッッッ!!!」

大地を震わせる様な咆哮をあげたかと思うと、再び大トラは獰猛性を取り戻した。

ミヤコの姿を認識すると、襲いかかってくる。

ーーーーーーーあぁ、死んだ。

そう、心から思った。

ーーーーーしかし

「やっと・・・!追いついた・・・ッ!!!」

ミヤコと大トラの狭間、中央で大トラの動きを制している者がいた。

辺りには砂塵が大量に舞い上がっていて、そのものの姿は判然としない。

ただ、その者のただならない存在感だけがミヤコを、大トラを、射抜いた気がした。


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間宮ミヤコ

年齢・・・17歳

身長・・・156cm

趣味・・・食べ歩き、ダイスケをチラ見

友人・・・少数。うわべだけの友達なら多数。

部活・・・合唱部に所属、副部長をつとめる

備考

前髪が目にかかった三つ編みお下げのメガネ少女。

ザ・委員長!って感じの女の子。

家は結構お金持ち。そのせいでも無いが基本誰に対しても物腰柔らかな言葉を使う。

自分から話しかける事は少ないが話しかけられたらやたら喋る。

自分と同じ学級委員のダイスケに憧れていて割とちょくちょくチラ見している。

少女漫画が好きで休日は家でゴロゴロしながらストーリーの展開にキュンキュンしている。










どうも!キズミ ズミです!


『トラ』戦、終わりませんでしたねー

・・・本当にゴメンナサイ!!

次回こそ、必ず『トラ』殺って見せるんで!

ダイスケの回想とか絶対無いんで!

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