16歳の箱入りむすめ。

sun

出逢いは花屋で

11月を過ぎた、肌寒いこの季節は、本当に煩わしく思う。


悴んで赤く染まった指先を、火を起こす時のように擦り合わせても、ちっとも寒さは変わらない。

厚着をしていても、こんなに寒いのだから、

きっと来年の正月辺りにはもっと寒くなって、

暫くこたつとヒーターを手放せない時が続くだろう。

千世は内心、益々冬を嫌いになりそうだと皮肉めいた事を思いつつ、

1度肺に溜め込んだ、一杯の空気をはあ、と深く吐き出して、赤く滲んだ両頬をそっとマフラーに隠した。

「手袋くらい、買っておけばよかった」


去年のこの時期には、確か母から貰った数少ない小遣いで、

コンビニの五百円もしない様な安物の手袋を購入した気がするが、

そういえば何故、あの時母に買ってもらえば良かったものをわざわざ自分が貯めていた小遣いで手袋を買ったのだろうか。

今更、誰に聞いても返答すらもらえないだろう疑問が、ふと千世の頭の中で浮かび上がった。

幼い時から、気になった事が1つでもあると、自分が満足に納得できるまで追求を止められない、

このまどろっこしい性格が、否とばかりに自分を支配して、冬の寒さよりもこっちの方が煩わしいな、と千世は深い溜め息を吐いた。

後で、聞いてみようかな。

同級生や親友の紗栄子には「そこが千世のいい所だよ」と若干、こちらを嘲笑する様な面持ちで言われたが、

千世にとってはどこがいいのか、さっぱり理解が出来なかった。

「うう、寒い、寒いよお…。どこかで寄り道でもしてから行こうかな…」

うん、そうだよ。でないと、歩いている途中で凍え死んじゃう。

時計を確認する。時刻はもうすぐで九時になる。

今日は、平日ではないから、母が入院している病院の会館は10時からだ。

寒い、寒いと同じ言葉を連呼しながら暫く歩いた所で、

千世はいつも病院に行く道の途中にある、ちょっとレトロで小洒落た花屋を思い出した。 

そうだ、見舞いに行く前に花でも買って行こう!

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