近くて遠い恋の花

はこ。

秋のある日

風が強くなってきた、そろそろ秋なのだろうか。
そう思いながら学校へ走り急ぐ。
イチョウが少し散り始め、紅葉が始まった。
今はそんなことを考えている暇はないが、と言い聞かせ足を早める。
時間が無い、あと少しでチャイムが鳴ってしまう。
階段を駆け上がり、2-3と書かれている場所の戸を思い切り開ける。
「間に合ったー…」
「珍しく今日は遅刻しなかったな、零」
息を切らしている男を零と呼んだのは彼の友人の翔だ。
零「なんで待っててくれなかったんだよー、お陰で遅刻ギリギリだぞ?」
翔「起こしてもお前が起きないからだよ」
零「仕方ねーだろ、昨日は2時過ぎまで起きてたんだよ」
「おはよ」
何気ないいつもの会話に零が聞き慣れた声が混ざる。
零「由美かよ…おどかすなって」
由美「楽しそうに話してるからつい、ね」
零「あ、そーだ。なぁ由美、筆箱忘れたからシャーペン貸してくれよ」
由美「いいけど、ちゃんと返してよ?」
翔「相変わらず夫婦見せつけてくれるよなー」
そう言った翔はニヤニヤして二人を見る。
零「ばーか、そんなんじゃねーよ」
由美「そうそう、零とは腐れ縁なだけだからね」
そう言われた零は少しムッとしたように見えた。
零「ま、お前みたいな男っぽい女、好きになる奴いねーからな」
「あれ?知らないの? 由美、結構モテるんだよ?」
ショートカットの髪を揺らし、横から口を挟んできたのは由美がいつも一緒にいる萌花だ。
萌花「この間だって、後輩くんに告られてたもんねー、由美?」
由美「だからもえ、あれは違うって言ったじゃん…」
微かに頬を赤らめ、謙遜する由美。
萌花「だから、早めに取っとかないと、誰かに取られちゃうかもよ?」
由美には聞こえないようにこっそり零に耳打ちする。
零「なんで俺に言うんだよ」
萌花「別にー」
萌花も翔もからかうのが好きだ、このテンションは2時間目まで続きそうだな、と思いながら席に着こうとした。
不意に袖を引かれる。
由美「部活終わったら西門にいてよ?」
零「りょーかい、遅れないようにする」
そう言い終えると由美も自らの席に着く。
今日は水曜日だった。
零は小さい頃から必ず水曜日に由美の家に行く。
勉強会をしたり、雑談をしたりなど他愛もないことをするだけなのだが、零には由美がその時一番楽しそうに見えるのだ。
自己満かもしれないのだが、これも幼馴染の特権なのかとか考え、頷いていたりした。
もうかなり昔のことだが、由美の両親は由美が10歳の時に交通事故で亡くなってしまった。
笑顔が消えかかっていた由美を元気づける為に幼い頃の零は、いつもより早く学校が終わり、1時間も早く帰れる水曜日に由美の家を訪れていた。
それが習慣づけられたのか、高2になってもまだ続いている。
若干嬉しさもあるのだが、どことなくもどかしい。
そんな事を考えているうちに、チャイムが鳴った。
零「…あ、シャーペン借りるの忘れてた」
零は間抜けな独り言を呟き頬杖をついた。

放課後までの時間はそれほど長くはないように感じられた。
翔「よっしゃー!終わったー」
背伸びをしながら大声ではしゃぐ翔を一瞥し、やれやれとでも言わんばかりの呆れ顔になる。
翔「お前今めんどくさいって思っただろ」
零「そんなこと思ってねーよ!」
翔「嘘つけ、顔に書いてあんぞ」
話を真面目に聞かなさそうな零を翔が小突く。
零「とりあえず早く部活いこーぜ、準備しないとだし」
翔「そんなの後輩に任せとけばいいじゃん」
零「いいだろ別に、俺は早く練習したいの」
へいへいと翔が言い、つまらなさそうな顔をして零の後ろを歩く。
その様子をじっと見ていた由美を萌花が現実に引き戻す。
萌花「…美…由美?」
由美「…あ!ごめんボーッとしてた…なに?」
萌花「また零くん見てたのー?飽きないねー」
由美「だから違うってば、零とは幼馴染なだけだって」
萌花「へー…幼馴染なだけ、ねー…」
由美「もー、もえったらそういう話好きだよね」
少し頬を膨らませ、怒っているように見せているようだが、萌花にはハムスターのモノマネにしか見えない。
萌花「幼馴染ってなんかありそうだし、相手が零くんだし」
由美「ん?どういう事?」
萌花「由美もそーいうの鈍いよね、零くん前体育館裏に呼び出されたり、ラブレターとか貰ったりしてるの見たよ私」
由美は少し考え込み、有り得ないなと言わんばかりに手を振り否定する。
由美「ないない!だって皆が言うほどハイスペック人間じゃないよ、零は」
萌花「私的には高身長でバスケ部エースって言優良物件にしか見えないけど」
由美「あ、もうこんな時間だし、行ってくるね!」
萌花「上手く話を切り上げたなー…ま、今度生徒会が無い時に質問攻めにしよーっと」
萌花は悪巧みをし、満足そうな顔をして帰路につこうとした。

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