妖魔奇譚

トウセ

1話:狂ってしまった殺人鬼の少女

「父上…母上…毬子…ごめん…私だけ生き残っちゃって本当にごめん…」

少女は1人家族の遺体を前にそう呟いた。そしていつしか少女の家族が死んでしまった悲しみは家族を殺した誰かへの恨みへ変わってしまった。

「どうして…?どうして皆が…皆が死ななくちゃいけなかったの!?何で…何で……………あぁ…そうだ。私が皆の代わりに復讐してあげれば良いのか…」

本心では復讐しても意味が無い事など分かっていた。だがそれをただの子供が理解出来る訳が無い。

「でも女なんかじゃ復讐なんて出来ない。これからは男として生きていこう。名前も炎華じゃ駄目だ…何か考えないと…。復讐が終わるまでこの名前は捨てよう。それから胸は潰して…でも髪は母上に似て綺麗な色だからな…切るのはな…結ぶだけにしよう。」

そして少女は復讐をする為に自分を自分で殺した。










「初めまして火影様…私は華炎と申します。よく女性に間違えられますので最初に言わせていただきます。私は女性ではありません。」

少女とも言える少年はそう呟き愛想笑いとはとても思えない愛想笑いをした。炎華…いや、華炎は復讐をする為にまず自分を鍛えた。華炎には鬼の血が混じっている為相当力がある。その為努力をすればする程どんどん力はついた。流石に純血の鬼に勝てるとは言いきれないが良い試合は出来るだろうと思う程まで強くなった。そして華炎はまず家族を殺した犯人の情報を集める為に家族と暮らしていた場所の隣の領主に仕える事にした。何故隣の領地にしたかと言うと元々暮らしていた場所だと正体がバレる可能性もある。だからと言って離れすぎると情報が集まってこない可能性もある。華炎はそう考え隣の領主…火影様に仕える事を選んだのだった。それからというもの領主の所のメイドと仲良くなりメイドの紹介という事で何とか仕える事が出来る事になった。そして此処の領主は変わっていてあたらしく仕える事になった者は領主の前で一度挨拶をする事になっているらしい。普通はめんどくさがりそんな事をしないので相当変わっていると思われる。そしてとうとう挨拶をする日になり挨拶をすると

「そうか!…確かに女性と間違われるのも無理が無いな!顔も中性的だし細身な方な様だからな!華炎…これから宜しく頼むぞ!因みに華炎は戦闘は出来るか?出来ないのなら執事になるといい!」

と言い領主様は笑った。

「はい。戦闘に関してはある程度の者には勝てると思います。一応Aランク指定されている妖魔ですので。手先も器用な方ですので料理、洗濯、裁縫、掃除…その他諸々一応は出来ます。」

ランクとはその者の強さを示すもので
SSS.SS.S.A.B.C.D.E.
と分けられておりSSSが1番強いとされEが1番弱いとされる。AランクとBランクの差は大きくSSS~Aランクら高ランクと呼ばれ恐れられたりもする。B~Eランクは低ランクと呼ばれ一般市民などの者の殆どが低ランクを占めている。なのでお世辞でも強そうとは言えなさそうな少年がAランクと言った為に火影様の周りの妖魔に

「全く冗談を!」

「いくら何でもそんなに強い訳無いだろう!」

「火影様でさえもSSランクなのだぞ!それなのにお前みたいなのがAランクな訳無いだろう!火影様の前で嘘をつくとは!」

と笑われたり怒られたりした。嘘もついてないし冗談でもない。それなのに笑われたり怒られたりするので流石に少しイラッとした。なので少年は

「では此処にAランクの妖魔かそれと同等の力を持つ者を呼んで下さい。それで私がその方と戦い勝つか引き分けなら信じて頂けますよね?」

と無表情で言った。すると火影様が

「うむ…分かった!Aランクの者を連れてこい!」

と命令した。妖魔達は了解しました!と言い少しして恐らく銀狼シルバーウルフだと思われる妖魔を連れて来た。銀狼と思われる妖魔は人化していた。人化とは妖魔が人に化ける時に使うスキル又は魔法、魔術である。耳と尻尾はそのままだったのであまり人化が得意な妖魔では無いようだが人化が出来るという事はある程度の知能と強さを持っている筈だ。私は本当にAランクの妖魔なのだろうか。Sランク程の強さを持っている気がする。と思っていると銀狼と思われる妖魔に話しかけられた。

「我は銀狼である。貴殿がAランクと名乗る妖魔か?」

「ええ。そうです。貴方がAランクかそれ同等の力を持つ妖魔ですか?」

 「よく分からんが久しぶりに戦えると言う事で来ただけだ何でもいいが貴殿の事であろう。」

「私の事ですね。此処だと誤って建物を壊してしまうかもしれませんし別の場所に行きましょうか。」

「そうだな。ふむ…こちらへ来い。いい場所がある。」

少し歩くと大きな草原がありそこで戦う事になった。審判から規則を少し聞いてから準備運動をした。そして審判の初め!と言う声と同時に華炎と銀狼は駆け出した。初めに華炎は鬼化をした。鬼化とは混血の鬼のみが使えて鬼の体に近づける時に使えるスキルや魔法、魔術である。因みに周りから見たら人化を解いた様にしか見えない。鬼化をした為2本の角が生えた。銀狼は人化を解き吠えた。耳に響くがそれで怯むと攻撃されるので怯まずに武器召喚というスキルを使い金棒を出した。金棒は重い為鬼化をしないと使えないのが難点である。私は金棒を横に振り強風を出した。銀狼は高くジャンプをして強風を避けた。

「まぁこの程度は避けますよね。」

「当たり前だ。」

華炎は金棒を銀狼に向け投げた。銀狼はジャンプをして着地した直後だったので避けようとしたものの金棒は銀狼の腹を掠めた。華炎はそのまま体制を低くする為に手を着き蹴りを繰り出 した。銀狼は避けきれず思いっきり飛ばされた。

「中々やるな。我も本気を出すとしよう。」

そう言うと銀狼は金狼ゴールドウルフに進化した。恐らく進化スキルの持ち主なのだろう。進化スキルとは自身のランクを一時的に上げ別の姿に変身するスキルの事である。

「進化スキル…厄介ですね。」

華炎はそう呟くと羽織っている羽織に隠しているナイフを数本取り出し金狼に向かって投げた。しかし金狼は爪を使い叩き落とした。華炎は更にナイフを取り出し金狼に斬りかかった。金狼は爪と牙で迎え撃った。この時普通は力勝負になるのだが華炎はその状態で殆ど動かず金狼を蹴った。いや蹴ったという表現は正しく無いかもしれない。正確に言うと靴に仕込んである刃物で斬ったのだ。金狼は足に怪我を負った様だが後ろに飛び華炎から離れようとした。しかし華炎はナイフを取り出し金狼に向け投げた。今度は空中だった為しっかり手足に命中した。金狼は

「ギャイン!」

と悲痛な声をあげた。そして手足にナイフが刺さっているので歩けない為風魔法を使い攻撃をして来た。通常風魔法は緑がかるため避けようと思えば避けられるのだが風魔法を極めた者は透明の風魔法も使える。金狼は緑がかった風魔法の他に透明の風魔法を交ぜながら攻撃して来た。その為華炎は太腿や頬、腹、腕に傷を負った。華炎が身につけている服は裁着袴たっつけばかま脚絆きゃはんを除く着物や羽織などは家族から貰ってとても大事にしていた物だった。

「服が…」

華炎は怒りでどうにかなりそうになったその時憤怒のスキルが発動しそうになった。憤怒のスキルとは七つの大罪と呼ばれるスキルの1つであり怒りで心が支配されそうになると発動し怒りの対象を殺す又は対象を蹂躙するまで人格が代わってしまうスキルである。スキル発動中は基礎能力が約2倍になる。強力だが理性が一時的に無くなる。華炎は何とか憤怒のスキルが発動しない様に耐えるが耐えきれず発動してしまった。

「妾の服をよくも汚しおったな…。この犬…っ逃げ、て。わた、しから離れ、て…殺し、てし、まうか、ら…早く…!」

しかし華炎は何とか意識を保ち途切れ途切れで逃げる様に言った。戦いを見ていた者は異変に気づき逃げようとしたが金狼は犬と呼ばれた事に怒り

「この高貴なる存在我を侮辱するとは…殺してやる!」

と言い痛みも忘れて華炎に襲いかかった。次の瞬間華炎の意識は無くなり憤怒のスキルの人格…『イラira』へと入れ代わってしまっただった。

「高貴なる存在か…お前は高貴なる存在では無くただの犬であろう!」

「き、貴様ぁ!!!」

金狼は華炎に噛み付こうとした。しかし華炎は最低限な動きだけで避け金狼の尻尾を掴んだ。

「は、離せ!」

「妾に命令するでないぞ下劣な犬が。」

イラはそう言い金狼を殴り始めた。金狼は悲痛な声をあげながら

「や、めてく、れ…ヒッ…ご、ごめんなさいごめんなさい…ギャイン!やめて下さい…お願いしま…」

と金狼は怯えながら言った。しかしイラは

「死ね!死ね!この駄犬!よくも私の着物を!」

と言い殴り続けた。その時「睡眠スリープ」と言う声が聞こえイラは眠った。



「まさかここまでやるとはな…」

「ひ、火影様!この娘は今の内に殺してしまうか牢に閉じ込めましょう!危険です!」

「いや…その必要は無い。」

「な、何故です!?」

「彼女は逃げてと言っていたであろう?恐らく七つの大罪のスキル…憤怒だろう。彼女は服を大事にしていた様だった。だから攻撃により服のあちこちが切れてしまった事に怒り人格が代わったのだろう。余程怒らせなければ強いだけの普通の少女だろう。通常時でもあれ程の強さがあるのだ。手放すなど勿体無い。」

「で、ですが…!」

「ふむ…お主は俺が彼女に負ける。と言いたいのか?」

「そんな事はっ!」

「なら問題は無かろう。」

「…っ!でしたらせめて何かあっても対処出来る監視を付けましょう!」

「…分かった。そうだな…春香と夏香と秋舞と冬舞。華炎を監視しておけ。」

火影がそう言うとどこからか現れた4人の男女は

「はっ!」

と言うと何処かへと消えた。

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