たたかえ!グレートファントム10号 プレイバック

山本正純

すごうで。ルン博士登場

「博士。本当ですか? グレートファントム10号が出動するかもしれないって」
噂を聞きつけたケンが研究室に飛び込んでくる。研究所の中には、博士の他に、見知らぬ白衣を着た少女が一人。
ショートボブの短い黒髪、前髪を右に分けた髪型が特徴的で背は低い。初対面な少女はジッとケンの姿を見つめた。
博士は研究所に招いた少女の反応を気にせず、堂々とした姿勢で説明を始める。
「ああ。学会で面白い研究をしている博士に出会ってなぁ。彼女の研究を応用したら、グレートファントム10号が出動して、街の平和を守るのも簡単かもしれない」
「そんなにスゴイんですか? こんな女の子の研究」
「まだ実践していないが、彼女の言うことを聞けば、そうなるらしい。ということで、紹介しよう。マーフィーの法則の研究をしていて、幾つもの研究所経営を立て直してきた天才、ルン博士だ」
博士に紹介され、ルス博士は一歩を踏み出す。
「よろしくなのです」
「早速で申し訳ないけど、マーフィーの法則って何ですか?」
率直なケンの疑問を聞き、ルンは首を縦に動かした。
「失敗する可能性があるならば、必ず失敗するという考え方なのです」
簡単な説明の後、ルス博士は机の上に置かれた厚い書類に触れる。
「この書類には、グレートファントム10号が出動できなかった理由がまとめられているのです。先程目を通してハッキリしたのです。9割はマーフィーの法則が原因だからって」
「つまり、裏を返せばその9割の対策をすれば、90%の確率で出動できるということだな」
ルン博士の説明を聞きながら、研究所の博士が呟く。それに反応して、ルスは頷いた。
「そうなのです。ということで、改革を始めるのです。先程も言いましたが、失敗する可能性があったら、確実に失敗します。即ち、失敗する可能性を潰すことができれば、グレートファントム10号を出動させることも可能なはずです」
いくつもの研究所を立て直してきた天才の説得力がある発言を聞き、ケンは妙な胸騒ぎを覚えた。それとは裏腹に、博士は喜んでいる。
「ルン博士。一体どのくらいで、グレートファントム10号を動かせるのかね?」
「早くて一週間以内です。この研究所の巨大ロボットを出動させてみせます」
「ケン君。良かったな。最速で一週間後には、グレートファントム10号で街の平和を守ることができるそうだ」
念願の初出動まであと少し。博士はケンと喜びを分かち合おうとした。しかし、ケンは暗い顔。心配になった博士は、ケンに再度声をかけてみる。
「ケン君。どうしたのかね?」
博士の疑問がケンの頭の上をグルグル回った。博士が言うように、もう少しでグレートファントム10号が街の平和を守る夢が達成される。嬉しいはずなのに、何故か嬉しくない。
そんな彼は、ルン博士の言葉を思い出した。
『失敗する可能性があったら、確実に失敗します』
やっと気持ちの正体に気が付いたケンは、強い視線でルス博士に迫った。
「間違っています」
この発言を聞き、博士は慌てた。
「ケン君。失礼じゃないかね?」
博士の声を聞いても、ケンは自身の想いを伝える。
「ルン博士。失敗する可能性があったら、確実に失敗します。だから、失敗する可能性を潰していきます。この考えは理解できますが、納得できません。なぜなら、この考えには挑戦する勇気が含まれていないからです」
「挑戦する勇気?」
ルス博士の復唱の後、ケンは首を縦に動かした。
「そうです。これまでグレートファントム10号は一度も出動できませんでした。だけど、俺は今度こそ出動できると信じています。失敗する可能性があったら、確実に失敗すると言われても、俺は挑戦します」
ケンの熱い想いを聞いて、ルンはこの研究所の巨大ロボットが出動できなかった原因をまとめたレポートを破り捨てる。
「面白いです。この研究所を立て直す話、なかったことにします。この研究所は幸せです。こんなに熱いパイロットがいるのだから」
ルン博士は、そのまま研究所から立ち去った。
こうしてグレートファントム10号を出動させる夢は大きく遠ざかった。

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