薬師シャルロット
エピローグ~薬師シャルロット~
転移魔術を発動した後、私が立っていた場所は、クレベルト王国から出てきてずっと暮らしていた建物の目の前だった。
何度も深呼吸を繰り返す。
自分がこれからしないといけないこと、やりたいことが見つかったから。
それに繋がる道筋は、魔王さんは教えてはくれなかった。
だけど、きっと……。
魔王さんは、私が自分で見つけることが出来ると思っていたと思う。
そう思いたい。
だって、彼は私のことを愛弟子と言ってくれたのだから。
胸元に手を置く。
自分の心臓の鼓動が手から痛いくらい伝わってくるのが分かる。
私は、自分が住んでいた建物の扉を開けていく。
ラウリィさんが来てから、建物のあちらこちらに手が加えられたこともあり、音も立てずに扉は内側へと開いていく。
「アヤカ!」
扉が開いてラウリィさんの姿が見えたと思ったら、彼は一瞬、呆けたあと私の名前を呼んで強く抱きしめてきた。
「痛いです」
「あっ!? す、すまない……」
謝罪をしながらもラウリィさんは、私を離そうとしない。
それと同時に、私はラウリィさんに強く想われているんだなと実感がわいてくる。
「シャルロット様、申し訳ありませぬ。ルアル王妃様が昏睡した事実について嘘を申し上げてしまいまして…・・・」
私は、エンハーサさんの言葉に頭を振るう。
だって、それは私のことを思って、ついてくれた嘘だから……。
そう、優しい嘘であって――。
きっと、あの時に事実を知らされていたら私は、耐えられなかったと思うから。
「いいの、それよりも二人には伝えたいことがあるの」
私の言葉に、ラウリィさんもエンハーサさんも神妙な面持ちで首肯してくれる。
そして時間は掛かったけど、私は前世の自分のこと、そしてお母さんのことやお父さんのことを包み隠さず語った。
「そうでしたか……なるほど、それなら納得できますな」
エンハーサさんは、仕切りに合点がいきましたと頷いている。
そしてラウリィさんと言えば――。
「別の世界か――。俄かには信じがたいが……嘘ではないのだろうな」
「はい――」
「正直、話が想像を超えていて何と応えていいか分からない」
ラウリィさんは、座ったまま額に手を当てて困惑した表情を見せている。
彼の気持ちは分かる。
転生していなければ、私だって、滑稽な話だと思ってしまうから。
それでも、隠していたことを伝えることが出来て、自己満足かもしれないけど気分はスッキリとしていた。
「それで――これから、どうするのですかな?」
エンハーサさんは、これからの身の振り方について問いかけてきた。
「私は、自分が掛けたお母さんの精神魔法を解除するために、強い精霊を求めて旅をしたいと思います」
私の決意が伝わったのか、エンハーサさんは小さく溜息をつくと「そうですか……」と、呟いてくる。
「君は――」
そんな時、沈黙を保っていたラウリィさんが顔を上げて「君は、この世界がどれだけ危険なのか分かっていない。それでも旅をしようと思うのか?」と、語りかけてきた。
「はい! それが私のやりたいことですから」
「――決意は変わらないのだな?」
「はい」
「そうか……」
どうやらラウリィさんは、納得してくれたようで――。
「エンハーサさん」
「はい、シャルロット様……それともアヤカ様? どちらでお呼びすれば?」
「シャルロットで構いません。それに……異世界から召還される人間が勇者だとしたら、アヤカという名前は、日本人らしく分かりやすいですから。逆に危険です」
「わかりました」
「エンハーサさんにお願いしたいことがあります」
「お願いとは?」
「お願いですが、私が強い精霊と契約して、お母様を助けることをクレベルト王国のアズルト宰相にお伝えください」
「なるほど……、つまり大森林国アルフを含めた別ルートで王妃様を助ける術を探し出すということですな?」
「はい、お願いできますでしょうか?」
「ハッ、このエンハーサ。必ずや伝えておきましょう」
これで、今、私が出来ることは終わった。
あとは旅立ちの支度をするだけ――。
話を終わらせ旅立ちの用意できたのは、翌日であった。
薬師として、各地を回って情報を集める。
そして精霊を見つけて契約するのが私の当面の目標。
「行ってきます」
私は、数年間暮らしていた自分の部屋の扉を閉めて階段を下りていく。
階段を下りると、エンハーサさんが待っていた。
彼も荷物を背負っている。
おそらく、私が出立してから、クレベルト王国に向かうのだろう。
「シャルロット様、これで私のお役目も終わりですな」
彼の言葉に私は頭を振るう。
人に役目なんて、そんなのは存在しない。
あるのは自分が、どうしたいのか何をしたいのかという事だけ。
そこに、何かしらの役目なんて存在していたらいけないと思う。
「いいえ、エンハーサさん。今まで不甲斐ない私のために、ご助力を長年頂けたことを感謝いたします」
私は頭を下げる。
本当に、たくさんのことを彼からは学んだし、私はたくさんの人に支えられて、今を生きていることに、ようやく気がついたから。
気がついてしまえば、本当にたいしたことじゃないのに。
そう、人は一人では生きてはいない。
大勢の人、見知らぬ多くの人の想いや感情や行動に影響されて、少しずつ変化して前へと歩みを進めている。
私は、前世では体は大人だったかもしれない。
でも、心は子供のままで――。
自分の殻に閉じこもっていただけの駄々を捏ねているだけの子供だった。
見渡せば多くのことが、多くの景色が見えていたというのに、それに気がつかなかった。
「何故か知りませぬが、ずいぶんと急に大人になられましたな」
「大人ですか……、大人というのは何なのでしょう?」
私は、まだ大人という存在が、どういうものなのかはっきりと理解はしていない。
それでも、分かる事は自分の道は自分で切り開くしかないということ。
エンハーサさんは、私の問いかけに「さて、私にも答えはありませんが……」と、一呼吸置いたあと「自分の行動に責任を持つことでしょうな」と語りかけてきた。
彼の言葉に私は頷く。
だって、その責任というのは彼が――魔王さんがいつも言っていたことだから。
自分の行動と言動に責任を持てるかどうか。
それが子供と大人の違いなのかも知れないから。
「それでは、シャルロット様……」
「はい、エンハーサさんもお気をつけて」
私は、アトリエの扉を開ける。
そして外に出ると「ずいぶんと遅いな」と、男性に話かけられた。
その人は――。
「ラウリィさん、どうかしたのですか?」
ラウリィさんも荷物を背負って外に立っていた。
「もしかして、ラウリィさんも旅に行かれるのですか?」
「ああ、旅にいく」
「そうですか、お気をつけてくださいね」
勇者である彼には、聖教会と帝政国から裏切られたといっても何かしらの伝手があるのだろう。
きっと、大変かもしれないけど、がんばってほしい。
半年以上、一緒に暮らした見知った仲なのだから。
「それでは、お達者で!」
私は手を振りながら、転移魔術を発動させようとすると、彼は突然慌てだした。
はて? 私は何かおかしなことを言ってしまったのでしょうか?
「おい! 俺も一緒に旅に付き添うから! 何を一人で行こうとしているんだ?」
「――え? そうなのですか? てっきり、どこかに仕官されるものかと……」
「まったく、いい加減気がつけよ。俺はお前が好きなんだよ! 惚れた女が旅にいくなら! 目的があるなら! 助けるのが男の役目だろう?」
「……そ、そうなのですか…・・・」
ちょっと私には理解できないけど、男心は複雑なのかも知れないですね。
それにしても、これからの旅に男性が着いてくるというのは…・・・。
「ラウリィさんは、草食系に近いから大丈夫でしょうか?」
私は首を傾げながら彼に手を伸ばす。
そんな私の手を彼が掴むのを確認すると転移魔術を発動させる。
まずは、向かう先に――。
そう……。
――まずは向かう場所は思い出の場所。
「――あ、忘れていましたけど、旅の途中で肉食系になったら置いていきますから、気をつけてくださいね?」
「肉食系とか草食系とか、俺にはお前が何を言っているのか分からないのだが?」
彼の言葉に私は微笑みを返した。
何度も深呼吸を繰り返す。
自分がこれからしないといけないこと、やりたいことが見つかったから。
それに繋がる道筋は、魔王さんは教えてはくれなかった。
だけど、きっと……。
魔王さんは、私が自分で見つけることが出来ると思っていたと思う。
そう思いたい。
だって、彼は私のことを愛弟子と言ってくれたのだから。
胸元に手を置く。
自分の心臓の鼓動が手から痛いくらい伝わってくるのが分かる。
私は、自分が住んでいた建物の扉を開けていく。
ラウリィさんが来てから、建物のあちらこちらに手が加えられたこともあり、音も立てずに扉は内側へと開いていく。
「アヤカ!」
扉が開いてラウリィさんの姿が見えたと思ったら、彼は一瞬、呆けたあと私の名前を呼んで強く抱きしめてきた。
「痛いです」
「あっ!? す、すまない……」
謝罪をしながらもラウリィさんは、私を離そうとしない。
それと同時に、私はラウリィさんに強く想われているんだなと実感がわいてくる。
「シャルロット様、申し訳ありませぬ。ルアル王妃様が昏睡した事実について嘘を申し上げてしまいまして…・・・」
私は、エンハーサさんの言葉に頭を振るう。
だって、それは私のことを思って、ついてくれた嘘だから……。
そう、優しい嘘であって――。
きっと、あの時に事実を知らされていたら私は、耐えられなかったと思うから。
「いいの、それよりも二人には伝えたいことがあるの」
私の言葉に、ラウリィさんもエンハーサさんも神妙な面持ちで首肯してくれる。
そして時間は掛かったけど、私は前世の自分のこと、そしてお母さんのことやお父さんのことを包み隠さず語った。
「そうでしたか……なるほど、それなら納得できますな」
エンハーサさんは、仕切りに合点がいきましたと頷いている。
そしてラウリィさんと言えば――。
「別の世界か――。俄かには信じがたいが……嘘ではないのだろうな」
「はい――」
「正直、話が想像を超えていて何と応えていいか分からない」
ラウリィさんは、座ったまま額に手を当てて困惑した表情を見せている。
彼の気持ちは分かる。
転生していなければ、私だって、滑稽な話だと思ってしまうから。
それでも、隠していたことを伝えることが出来て、自己満足かもしれないけど気分はスッキリとしていた。
「それで――これから、どうするのですかな?」
エンハーサさんは、これからの身の振り方について問いかけてきた。
「私は、自分が掛けたお母さんの精神魔法を解除するために、強い精霊を求めて旅をしたいと思います」
私の決意が伝わったのか、エンハーサさんは小さく溜息をつくと「そうですか……」と、呟いてくる。
「君は――」
そんな時、沈黙を保っていたラウリィさんが顔を上げて「君は、この世界がどれだけ危険なのか分かっていない。それでも旅をしようと思うのか?」と、語りかけてきた。
「はい! それが私のやりたいことですから」
「――決意は変わらないのだな?」
「はい」
「そうか……」
どうやらラウリィさんは、納得してくれたようで――。
「エンハーサさん」
「はい、シャルロット様……それともアヤカ様? どちらでお呼びすれば?」
「シャルロットで構いません。それに……異世界から召還される人間が勇者だとしたら、アヤカという名前は、日本人らしく分かりやすいですから。逆に危険です」
「わかりました」
「エンハーサさんにお願いしたいことがあります」
「お願いとは?」
「お願いですが、私が強い精霊と契約して、お母様を助けることをクレベルト王国のアズルト宰相にお伝えください」
「なるほど……、つまり大森林国アルフを含めた別ルートで王妃様を助ける術を探し出すということですな?」
「はい、お願いできますでしょうか?」
「ハッ、このエンハーサ。必ずや伝えておきましょう」
これで、今、私が出来ることは終わった。
あとは旅立ちの支度をするだけ――。
話を終わらせ旅立ちの用意できたのは、翌日であった。
薬師として、各地を回って情報を集める。
そして精霊を見つけて契約するのが私の当面の目標。
「行ってきます」
私は、数年間暮らしていた自分の部屋の扉を閉めて階段を下りていく。
階段を下りると、エンハーサさんが待っていた。
彼も荷物を背負っている。
おそらく、私が出立してから、クレベルト王国に向かうのだろう。
「シャルロット様、これで私のお役目も終わりですな」
彼の言葉に私は頭を振るう。
人に役目なんて、そんなのは存在しない。
あるのは自分が、どうしたいのか何をしたいのかという事だけ。
そこに、何かしらの役目なんて存在していたらいけないと思う。
「いいえ、エンハーサさん。今まで不甲斐ない私のために、ご助力を長年頂けたことを感謝いたします」
私は頭を下げる。
本当に、たくさんのことを彼からは学んだし、私はたくさんの人に支えられて、今を生きていることに、ようやく気がついたから。
気がついてしまえば、本当にたいしたことじゃないのに。
そう、人は一人では生きてはいない。
大勢の人、見知らぬ多くの人の想いや感情や行動に影響されて、少しずつ変化して前へと歩みを進めている。
私は、前世では体は大人だったかもしれない。
でも、心は子供のままで――。
自分の殻に閉じこもっていただけの駄々を捏ねているだけの子供だった。
見渡せば多くのことが、多くの景色が見えていたというのに、それに気がつかなかった。
「何故か知りませぬが、ずいぶんと急に大人になられましたな」
「大人ですか……、大人というのは何なのでしょう?」
私は、まだ大人という存在が、どういうものなのかはっきりと理解はしていない。
それでも、分かる事は自分の道は自分で切り開くしかないということ。
エンハーサさんは、私の問いかけに「さて、私にも答えはありませんが……」と、一呼吸置いたあと「自分の行動に責任を持つことでしょうな」と語りかけてきた。
彼の言葉に私は頷く。
だって、その責任というのは彼が――魔王さんがいつも言っていたことだから。
自分の行動と言動に責任を持てるかどうか。
それが子供と大人の違いなのかも知れないから。
「それでは、シャルロット様……」
「はい、エンハーサさんもお気をつけて」
私は、アトリエの扉を開ける。
そして外に出ると「ずいぶんと遅いな」と、男性に話かけられた。
その人は――。
「ラウリィさん、どうかしたのですか?」
ラウリィさんも荷物を背負って外に立っていた。
「もしかして、ラウリィさんも旅に行かれるのですか?」
「ああ、旅にいく」
「そうですか、お気をつけてくださいね」
勇者である彼には、聖教会と帝政国から裏切られたといっても何かしらの伝手があるのだろう。
きっと、大変かもしれないけど、がんばってほしい。
半年以上、一緒に暮らした見知った仲なのだから。
「それでは、お達者で!」
私は手を振りながら、転移魔術を発動させようとすると、彼は突然慌てだした。
はて? 私は何かおかしなことを言ってしまったのでしょうか?
「おい! 俺も一緒に旅に付き添うから! 何を一人で行こうとしているんだ?」
「――え? そうなのですか? てっきり、どこかに仕官されるものかと……」
「まったく、いい加減気がつけよ。俺はお前が好きなんだよ! 惚れた女が旅にいくなら! 目的があるなら! 助けるのが男の役目だろう?」
「……そ、そうなのですか…・・・」
ちょっと私には理解できないけど、男心は複雑なのかも知れないですね。
それにしても、これからの旅に男性が着いてくるというのは…・・・。
「ラウリィさんは、草食系に近いから大丈夫でしょうか?」
私は首を傾げながら彼に手を伸ばす。
そんな私の手を彼が掴むのを確認すると転移魔術を発動させる。
まずは、向かう先に――。
そう……。
――まずは向かう場所は思い出の場所。
「――あ、忘れていましたけど、旅の途中で肉食系になったら置いていきますから、気をつけてくださいね?」
「肉食系とか草食系とか、俺にはお前が何を言っているのか分からないのだが?」
彼の言葉に私は微笑みを返した。
コメント
コーブ
面白かったです♪ラストもスッキリして気持ち良く読み終えられました!!(≧▽≦)
コーブ
この子、割りと天然だよね(笑)
なつめ猫
薬師シャルロットについては、フェアリーキスかアイリス大賞に出すため、書き直して小説家になろうやノベルバ様やアルファポリス様に同時投稿をする予定です。
そのため、幼児虐待とかは排除して恋愛+生産特化型に生まれ変わる予定です。