薬師シャルロット
過去の軌跡(前編)
「あれは、まだ人間と亜人が手を取り合っている時代のことであった」
「亜人と人が?」
私は疑問を浮かべる。
今のこの世界はエルフとドワーフ以外の亜人は、基本的に排斥対象となっている。
ドワーフは、鉱物などから細工や武器や防具を作れる。
それは人とは比べ物にならないほどの品質で製造できることから、どこの国にも移動は許可されているし永住もすぐに許可が下りる。
何故なら、優秀な鍛冶であるドワーフがいるだけで生活基盤や軍事基盤が容易に確立できるから。
そして、エルフは長い寿命と大きな魔力、そして精神魔術を扱うことが出来るために暗殺者としても軍事部門としても、利用価値は……。
そこまで考えたところで、私は口元を覆った。
「気がついたようであるな。そう、人間は自分たちが制御できて有用だと思った種族だけを生かしている。それ以外は――」
「奴隷として扱っている。そういうことですね?」
「そうだ」
「ですけど……」
「ふむ、疑問があるのは分かる。どうして、このような話から切り出したのかということであろう?」
「はい……」
「簡単である。1000年前に異世界から召還された異世界人。その者が先代の魔王を倒した時から人以外への弾圧が始まったのだ」
「弾圧……」
私に語りかけてきた魔王さんは、遠い目をしながら私をジッと見てきた。
「そうだ」
「でも、お互いに手を取りあって生きていたのに……どうして、弾圧なんて……」
「決まっておろう? 人間というのは欲望に限りがない。他者が持っている物、他者が所有しているもの、そう言った物を欲し得ようとする。そして――得ようとした結果、それが話し合いではなく力になったとき――」
「争いになるということですね……」
私の答えに魔王さんは頷いてくる。
彼の首肯に私は、結局、地球でも異世界でも人間という生物の本質は変わらないということに、小さく溜息をつく。
戦争というのは、他人が持っている物がほしい。
それを手に入れたいから力を行使する。
そこにすべては帰結するし、それが争いを生む。
「悲しいですね」
「そうだな……。だが、争いは生物が生きていく上で避けることは出来ないものだと、私にある男は言った」
「ある男?」
「うむ、暁孝雄という男だ」
「――! そ、その人って今は?」
お父さんの名前が出てきたことで私は立ち上がる。
彼は、やっぱりと言った表情で「落ち着け、お前も王女であろう? 取り乱すのは良いとは言えぬぞ?」と、語りかけてきた。
私は、ハッと気がつき椅子に座る。
「ごめんなさい……」
「やはりな……、シャルロットよ、汝は暁孝雄を知っておるのだな?」
彼の言葉に私は頷く。
「はい、私のお父さんです……。前世の、日本の……」
「……そうか」
魔王さんは、私の言葉を聞くと「汝の父親である暁孝雄は、我らが亜人そして魔族にとっては大恩がある男だ」と呟いてきた。
「お父さんがですか?」
「うむ、初代の勇者――。こやつも異世界から召還された高校生という身分の男であったが、考えが足りず多くの罪無き亜人を惨殺していったのだ。最後には、召還された国の人間に裏切られて殺されたがな……」
「そうなのですか……。つまり、言い様に利用されて、邪魔になったから始末されたということですね」
「そうなる」
「やるせないですね」
「それでも異世界から召還された勇者は、強大な魔力と聖剣と呼ばれる古代の遺物を使って多くの罪の無き者を、その手に殺めたから同情には値しない」
「そうですか……」
突然、異世界に召還されて多くの言葉が通じる人を殺していった勇者という人間が哀れでならなかった。
まだ、高校生なのだ。
私よりも、年下の子供が、人の命を奪わされる。
それが、どれだけ辛いことが、私自身が被害にあったから分かるし理解も出来る。
どれだけ、自分が傷ついても誰かの命を奪うのだけはしたくない。
それを強要されたとしたら……。
「どうしたのだ? どうして泣く?」
「わかりません……」
気がつけば涙が溢れていた。
何度も服裾で拭くけど、途切れることがない。
「その人は、勇者は……御自分の意思で戦われたのですか?」
私の言葉に魔王さんは首を振る。
「聖教会が召還する際に隷属の術式を魔方陣に組み込んでいたのだ」
「――っ!? そ、それって!?」
「そうだ、だが……。それでも我は、許しはしない」
「……でも、そんなの……ラウリィさんも利用されて……何なのですか? 聖教会というのは!」
「人間至上主義の宗教になる」
「……それって、もしかして……」
「そうだ、人間至上主義など建前に過ぎない。聖教会が作られた理由は、亜人を排斥して、その金品を正当な理由を作り強奪するためだけに作られた邪教に過ぎないのだ」
「亜人と人が?」
私は疑問を浮かべる。
今のこの世界はエルフとドワーフ以外の亜人は、基本的に排斥対象となっている。
ドワーフは、鉱物などから細工や武器や防具を作れる。
それは人とは比べ物にならないほどの品質で製造できることから、どこの国にも移動は許可されているし永住もすぐに許可が下りる。
何故なら、優秀な鍛冶であるドワーフがいるだけで生活基盤や軍事基盤が容易に確立できるから。
そして、エルフは長い寿命と大きな魔力、そして精神魔術を扱うことが出来るために暗殺者としても軍事部門としても、利用価値は……。
そこまで考えたところで、私は口元を覆った。
「気がついたようであるな。そう、人間は自分たちが制御できて有用だと思った種族だけを生かしている。それ以外は――」
「奴隷として扱っている。そういうことですね?」
「そうだ」
「ですけど……」
「ふむ、疑問があるのは分かる。どうして、このような話から切り出したのかということであろう?」
「はい……」
「簡単である。1000年前に異世界から召還された異世界人。その者が先代の魔王を倒した時から人以外への弾圧が始まったのだ」
「弾圧……」
私に語りかけてきた魔王さんは、遠い目をしながら私をジッと見てきた。
「そうだ」
「でも、お互いに手を取りあって生きていたのに……どうして、弾圧なんて……」
「決まっておろう? 人間というのは欲望に限りがない。他者が持っている物、他者が所有しているもの、そう言った物を欲し得ようとする。そして――得ようとした結果、それが話し合いではなく力になったとき――」
「争いになるということですね……」
私の答えに魔王さんは頷いてくる。
彼の首肯に私は、結局、地球でも異世界でも人間という生物の本質は変わらないということに、小さく溜息をつく。
戦争というのは、他人が持っている物がほしい。
それを手に入れたいから力を行使する。
そこにすべては帰結するし、それが争いを生む。
「悲しいですね」
「そうだな……。だが、争いは生物が生きていく上で避けることは出来ないものだと、私にある男は言った」
「ある男?」
「うむ、暁孝雄という男だ」
「――! そ、その人って今は?」
お父さんの名前が出てきたことで私は立ち上がる。
彼は、やっぱりと言った表情で「落ち着け、お前も王女であろう? 取り乱すのは良いとは言えぬぞ?」と、語りかけてきた。
私は、ハッと気がつき椅子に座る。
「ごめんなさい……」
「やはりな……、シャルロットよ、汝は暁孝雄を知っておるのだな?」
彼の言葉に私は頷く。
「はい、私のお父さんです……。前世の、日本の……」
「……そうか」
魔王さんは、私の言葉を聞くと「汝の父親である暁孝雄は、我らが亜人そして魔族にとっては大恩がある男だ」と呟いてきた。
「お父さんがですか?」
「うむ、初代の勇者――。こやつも異世界から召還された高校生という身分の男であったが、考えが足りず多くの罪無き亜人を惨殺していったのだ。最後には、召還された国の人間に裏切られて殺されたがな……」
「そうなのですか……。つまり、言い様に利用されて、邪魔になったから始末されたということですね」
「そうなる」
「やるせないですね」
「それでも異世界から召還された勇者は、強大な魔力と聖剣と呼ばれる古代の遺物を使って多くの罪の無き者を、その手に殺めたから同情には値しない」
「そうですか……」
突然、異世界に召還されて多くの言葉が通じる人を殺していった勇者という人間が哀れでならなかった。
まだ、高校生なのだ。
私よりも、年下の子供が、人の命を奪わされる。
それが、どれだけ辛いことが、私自身が被害にあったから分かるし理解も出来る。
どれだけ、自分が傷ついても誰かの命を奪うのだけはしたくない。
それを強要されたとしたら……。
「どうしたのだ? どうして泣く?」
「わかりません……」
気がつけば涙が溢れていた。
何度も服裾で拭くけど、途切れることがない。
「その人は、勇者は……御自分の意思で戦われたのですか?」
私の言葉に魔王さんは首を振る。
「聖教会が召還する際に隷属の術式を魔方陣に組み込んでいたのだ」
「――っ!? そ、それって!?」
「そうだ、だが……。それでも我は、許しはしない」
「……でも、そんなの……ラウリィさんも利用されて……何なのですか? 聖教会というのは!」
「人間至上主義の宗教になる」
「……それって、もしかして……」
「そうだ、人間至上主義など建前に過ぎない。聖教会が作られた理由は、亜人を排斥して、その金品を正当な理由を作り強奪するためだけに作られた邪教に過ぎないのだ」
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コメント
コーブ
今も昔も此れかも宗教ってホント怖いわ~(^_^;)