薬師シャルロット

なつめ猫

迷走と真理(中編)

「どうした? そんなに我がここにいるのが気になるのか?」
 
 魔王さんの言葉に私は周囲を見渡す。
 そこでようやく、私は自分がどこに転移してきたのか理解した。
 自分が始めて転移してきた場所は、初めて魔王さんの転移で連れてきてもらった場所で――。
 
「ずいぶんと酷い顔をしておるな。話の顛末は配下を通して聞いておるが……それだけでは無いようだな」
 
 私は、魔王さんに今の自分の状況が見られてしまったことに、恥ずかしさを覚え俯いてしまう。
 目を合わせることが出来ず座りこんだまま俯いている私に呆れてしまったのか、魔王さんは大きく溜息をつくと「やれやれ……」と、言いながら私を抱き上げた。
 所謂、お姫様抱っこというやつで……。
 
「――え? あ、あの!?」
「気にすることはない。そのようなところで座っていては、南方に位置する場所と言っても風邪を引くであろう? まだ冬は終わったばかりであるからな」
「――で、でも……」
「気にすることはない。丁度、我の別荘地も近くにある。よろこべ! 人間とエルフのハーフよ、我の別荘地にいけるなど貴様を入れて10人目くらいだ」
「10人? 微妙に多いような少ないような……」
 
 私の言葉を聞いていたのか知らないけど、魔王さんは転移魔術を発動し――。
 気がつけば森の中――大きなログハウスの前に居た。
 
「あれが魔王さんの別荘?」
 
 私は、もっと大邸宅のような物を想像していただけに、少しだけ拍子抜けしてしまっていた。
 
「魔王たる我が住まう居城としては、些か小さいと思ったか?」
「そうでじゃなくて、ちょっと考えていたのとは違うなと……」
「ふむ……。まぁ我も最初から魔王と言う役職についていた訳ではないからな」
「そうなのですか――」
 
 魔王さんへと私は、疑問を投げかける。
 彼は、小さく私へ笑いかけてくると、そっと地面に私を降ろしてきた。
 
「さて、シャルロットよ。お前が、我に何が起きたのか話をしたいかどうかは別として、ここに来たということは、きちんと奉仕はしてもらうぞ?」
「――ほ、奉仕ですか!?」
 
 私は、魔王さんの奉仕という言葉に過剰に反応してしまう。
 小さい頃は、なんとも思わなかったけど大人になった私を見て欲情したということ?
 ――それは、それで……。
 嫌な気はしないような、しないような……。
 
「うむ、しばらく使ってはいないからな。掃除などは女なのだから得意であろう?」
「……そーですね」
 
 私は、魔王さんの言葉を聞きながら小さく溜息をつく。
 この魔王さんが、私を見る目とお母様を見る目が違う気がする……。
 なんかよく知らないけど、私だけは女として見られてないような……。
 
「ほら、さっさと入れ。森の中での森林浴も良いが、まだ冬が過ぎたばかりであるからな。日が沈めばすぐに寒くなるぞ?」
「……はい……」
 
 さっきまで、すごく落ち込んでいたのに魔王さんのペースに巻き込まれて色々な事を考えている暇もない。
 急かされるようにログハウスの、木製の扉を開ける。
 すると、しばらく使ってないからなのか、扉が音を立てて開いていく。
 
「ふむ……、やはり固定化の魔術が解けてしまっているな」
「固定化の魔術ですか?」
「うむ……、まぁ色々とな――」
 
 魔王さんの言った固定化の魔術。
 私は、その魔術は教えてもらったことはない。
 それに何故か分からないけど、言いたく無さそうな? そんな感じを受ける。
 
「――あっ」
「変な声を出すのではない」
 
 扉の前で、考え事をしていた私の肩を魔王さんが掴んできた。
 
「ここは魔王城と違って入り口が狭いのだ。立ち往生はいかんぞ?」
「――は、はい……」
 
 私は、頷きながら部屋の中に入る。
 部屋の中は、以外と言えば以外――。
 とても汚かった。
 
「ま、魔王さん……」
「フハハハハッハ。我は魔王! 掃除など苦手である!」
「自慢になってないです……」
 
 私は溜息をつく。
 でも、少しだけ嬉しくもあった。
 完全無欠で最強だと思っていた魔王さんにも、意外な一面があったから。
 そして、それを私に見せてくれたから……。
 
「お掃除が必要ですね」
「そうであろう? 我は今宵の食材を取ってくるとしよう」
「分かりました」
 
 何故か通い妻になったような感じ。
 魔王さんがログハウスから出ていったあと、リビングと思われる場所に堆積していた埃を風の魔術を巧みに扱い、ログハウスの外へと送り出していく。
 
 次に置かれていたバケツに生活魔法で水を作りだして水を入れたあと、手ぬぐいのような物に水を吸わせて絞ってからリビングの中を水拭きする。
 
「これって……本当に……」
 
 思ったより汚れの層が厚い。
 数年放置しただけだと、ここまではならないと思う。
 
 必死に掃除して一通りリビングの掃除が終わったあとは、寝室と思われる場所へと向かう。
 寝室も同じくらい埃が溜まっていた。
 魔術を駆使して、布団を洗い内部から熱の魔法で暖め乾かした。
 
「次は、台所――あれ? ここは……」
 
 部屋はリビングと思われる場所。
 そして寝室の2部屋。
 チラッと見たけど台所だと思われる場所。
 そして最後の部屋は……。
 
「ここは書斎?」
 
 私は、扉を開けるだけ開けた。
 部屋の壁には多くの本が所狭し本棚に置かれている。
 
「……魔王さんも色々と読んでいるのですね――えっ!?」
 
 本棚を見たあと書斎の机。
 その机の上に置かれていたものを見た瞬間、私は心臓が止まるほど驚いた。
 
「……う、うそ……」
 
 この世界に、ここに……あるわけがないものが存在していた。
 それは、前世の私とお母さん――、そしてお父さんが写っていた写真だった――。  
 
 
 
 


コメント

  • コーブ

    ええええええ~~っ!!

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