薬師シャルロット

なつめ猫

チート魔術師(2)

「ラウリィさん?」

 私は首を傾げると、彼は私の肩を強く掴んできた。

「――痛ッ!」

 普段の私の身体能力は一般女性と変わりない。
 そのことで、体を鍛えている男性に強く掴まれると痛い。

「――す、すまない。そ、それよりもアヤカ、君はどうして回復魔術が使える?」
「――え!?」

 私は、ラウリィさんの言葉に驚き思わず、彼の表情を見てしまった。
 そこには、戸惑いの色が色濃く浮かび上がっているように見える。

「これは、回復魔術なんかでは……」
「いや、間違いない。回復魔術は一定の効果を発揮するときに白い光を発する! 効果が殆どでない時の回復魔術の時では、本当に僅かな無色の光しか発しない」
「それは……私の家に代々続く――」
「クレベルト王宮薬師……」
「――!」
「その表情……、どうやら、俺の考えに間違いはないようだな。エンハーサと言う名は、クレベルト王宮薬師と聞いたことがあった。ただ、彼は5年前に王宮から行方を晦ましている。最初は、同性同名かと思ったが……、薬師という仕事が、そんなに簡単に出来るわけがない」

 間違いない。
 彼は、私の正体に気がついている。
 なんてこと……。
 私、あれほどエンハーサさんに、気をつけるように言われていたのに――。

「――ッ!? ア、アヤカ?」

 私は、無意識のうちに身体強化魔術を発動させ肩を掴んでいた彼の手を振り払うと、数歩だけ彼から離れていた。

「ラウリィさん……、私の正体を暴いて、そして聖教会に私を売るつもりですか? 私に優しくしたのは、声を掛けたのは、私のことを調べるためだったのですか?」
「何を言って――」

 彼は、すごく動揺している。
 おそらくだけど、やっぱりエンハーサさんの言っていたとおり……。

「ラウリィさんは、聖教会関係者もしくはお知り合いに聖教会関係者の方がいらっしゃいますよね?」
「な!?」
「私、知っています! ラウリィさんが聖教会の印を持っていることを! 貴方を最初に看病したときに、亜人を弾圧している聖教会の印を見たのです!」
「そ、それは……」

 ラウリィさんが何かを言う前に、私は首を否定的な意味合いをこめて左右に振る。
 いつか、こんな日がくると思っていた。
 私の正体が判明して、平穏な日々が崩される日が来ることを。

「いいです。ラウリィさんが正体を隠していたのは、私に身分が自分の招待が知られて警戒されるのを恐れたからですよね?」
「――それはあるが、だが!」
「やっぱり、そうなのですか……」

 私は、痛いほど心が締め付けられる。
 ラウリィさんは、そんなことをする人じゃないと思っていただけに私は、すごくショックで――。

「お父さまも、メロウさんも皆、笑顔で私に接してきて……、私を利用するだけ利用して最後には裏切って――」
「アヤカ……?」

 まだ、私の綾香という名前を呼んでいる彼のことを、涙で濡れた視界で睨みつける。

「どうせ、ラウリィ=ベルナンドという名前も偽名なのでしょう? 狙いは何ですか? 私の回復魔術ですか!」
「落ち着け!」
「もういやっ! 痛いのも苦しいもの傷つくもの嫌っ!」

 私は蹲って、記憶の奥底から浮かびあがってくる虐待された記憶に体を震わせる。
 また、同じことをされたら、たぶん自分を保っていられない。
 あんなことをされるくらいなら、いっその事、殺して――。

「君が何を勘違いしているかわからないが! クソッ! 俺の言葉が届かないのか!? 魔力が暴走して――」

 誰かの焦燥感が含まれた声が聞こえてくるけど、何を言っているのか全然、わからない。
 体の内側が熱くなっていって意識が遠のく。
 直感的にわかる。
 自分の魔力が爆発するということが――。
 でも、もう……。
 生きていても苦しいだけなら――。

 そう、諦めかけたところで頬を叩かれた。
 一瞬だけ意識が、頬の痛みで呼び戻されて――。

「――んんんっ!?」

 気がつけば、ラウリィさんに接吻されていた。
 咥内を蹂躙するようなディープキス。
 いきなりなことに動転してしまって魔力を上手く扱うこともできない。
 何度も彼の胸を叩いたところでようやく、口と口が離れていく。

「いきなり何をするんですか! 最低!」
「ようやく意識が戻ったか――」

 彼はホッとした表情をしていたけど、私はもうどうしようもないほど気持ちが混乱していた。

「私に死なれたら聖教会として困るから助けたのですか?」
「違う!」
「なら、どうして私を助けたのですか!?」
「君が好きだからだ!」
「そんな言葉! 信じられるわけないです!」
「はぁ……、分かった。本当に信じてもらえるかどうかは知らないが、俺は勇者ラウリィ=ベルナンドと言う。聖教会の印は、勇者として活動していたときに聖女から貰ったものだ」

 彼は、少しだけ沈んだ声で、自分の事を語り始めた。

  

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