薬師シャルロット

なつめ猫

勇者がやってきました(2)

「――あれは……」

 私は、薬屋アヤカの扉前に倒れている男性に小走りで近づく。
 そして、心の中で解析を念じる。
 すると、すぐに男性の容態が頭の中に流れ込んできた。

「先生、四肢の骨折にアバラの骨も何本か折れています。それに内臓も何箇所か――」

 視界に表示される状態をエンハーサさんに伝えると彼は顔色を変えて頷いてくる。
 エンハーサさんは、倒れこんでいる男性を仰向けにすると「アヤカ様、担架を――」と、指示を出してきた。
 私は、頷きアトリエの中に入り布と木で作られた担架を脇に抱え外に出る。
 外に出ると、エンハーサさんの顔色が優れない。

「……これは助かりませんな」
「――え?」
「折れた肋骨が、アヤカ様の言われていたとおり体内の器官に刺さっているのでしょう」
「――あっ!」

 エンハーサさんの言葉に、私は自分がやってしまった失態に気がついた。
 この世界には、いまだに開腹手術といったモノが存在しない。
 よって内臓が傷ついた場合、ほぼ助からないし、それは盲腸であっても例外はなく、病気になった場合、助かる可能性が表情に高いのだ。

「もって数時間と言うところでしょう」
「そう……ですか……」

 私は、脇に抱えていた担架を広げる。
 担架も私が前世の記憶を掬い上げて作った物。
 たぶん、世界広しといえど、この獣人の村にしかないと思う。

「それでも、こんな所に置いておくわけにはいきますまい」

 エンハーサさんの言葉に頷く。
 二人で1階の居間を片付けて担架に乗せていた男性を下ろす。
 すると、エンハーサさんは水を沸かすように私に指示してきた。

「アヤカ様、この者。どうやらクレベルト王国を通ったようです」
「クレベルト王国を?」

 振り向くとエンハーサさんは、男性が腰に下げていた巾着袋を開けて中身をチェックしていた。
 どうやら、隠れ村である獣人が住む場所へ、どうして人間が来たのか気になっているようで――。

「――これは!?」
「どうかしたのですか?」

 私は、生活魔法で水を出したあと、薪に火をつけて鉄鍋を暖めながら、エンハーサさんのほうを見ながら問いかけた。

「この者、どうやら教会関係者のようです」
「聖教会のですか?」
「――間違いないかと……」

 エンハーサさんは、私の元まで来ると銀で作られた十字のクロスを差し出してくる。
 受け取るとかなりの比重があるのか重い。

「聖教会の方が、どうして、こんな辺境な場所に――」
「それは分かりませんが……、只一つ言えますのは、この男の怪我は少なくとも人為的なものが感じられます」
「人為的……でも、これは少し、やりすぎのような……」
「そうですな。ですが――」
「とりあえず、それはこの方が語りたくなったら伺うと致しましょう」
「それでは、やはり――」
「はい、回復魔術を使います。助けられる命なら救い上げないといけません。丁度、彼は気を失っているようですから――」

 人に見られると不味いけど――。
 患者も気を失っているなら問題ない。
 要はバレなければ問題ない理論。

「解析」

 私は、男性に近づくと容態を詳しく見ていく。
 折れた肋骨が肺に刺さっていて四肢の骨に数箇所ヒビが入っていて、左腕も折れている。
 だいたいの容態が確認できたところで、私は男性の胸に手を当て回復魔術を発動させた。



 何度か体を揺さぶられる。
 瞼をゆっくりと開けると、私はベッドの上で寝ていた。

「アヤカ様、無理な魔法は寿命を縮めると言われていませんでしたか?」

 エンハーサさんが私のことを心配して注意してきてくれた。

「ごめんなさい――」

 肋骨を回復の魔術で修復するのに思ったよりも多く魔力を消費してしまった。
 そのほかの怪我についてもある程度、塞ぐことは出来たけど――。

「男性は、どうされましたか?」
「まだ眠っておられます」
「そうですか……」

 どうやら、私が回復魔術をかけた方は大丈夫みたい。
 私は、ベッドから降りると菜の花に近い品種で染め上げられた黄色のワンピースを頭から被る。
 そしてセミロングまで伸ばしている髪の毛を首後ろあたりで一括りにしたあと背中に流す。
 そして白いエプロンを着てから1階へ続く階段を下りていく。
 1階へ降りると、数歩で居間があり簡易的に作られたベッドの上で男性が規則正しい寝息を立てていた。
 階段から降りた際に床が少しだけ軋み音を上げる。
 すると、男性の眉が少しだけ動き、ゆっくりと瞼を開けていく。
 彼は、私の方を見ると「ここは……君は……女神?」と語りかけてきた。





コメント

  • コーブ

    女神さまぁぁ~(≧▽≦)

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