薬師シャルロット

なつめ猫

王女様、散策をする

「――アレス殿!」

 私が、どう動こうと考えていると、叫び声が聞こえてきた。
 そっと、草むらの中に体を隠しながら、様子を伺っていると「メロウがシャルロット様に閉じ込められておりました」という声が聞こえてきた。
 思ったより……。
 ううん、思っていたよりずっと早く私のことが回りに知られてしまった。

「どうしよう……」

 本当に、どうしよう。
 すごい大事になっている気がする。

「わかった! もしかしたら……」

 私は、草むらの中でアレスさんが、どんな考えに至ったのか、その答えを聞くために静かにしていると、「何者かに操られた可能性があるな!」と、強い口調で断定していた。

 それを見て、私は思った。
 ここの城は、もっと客観的に物事を見ることが出来ないのかと。
 まぁ、私が誰かに操られているなら、それはそれでいいかもしれないけど……。

 罪とかそういう面で――。

「アレス殿。操られているというのは?」
「これは、あくまでも予想だが……最近のシャルロット様は、様子がおかしかった。しかも、あれを見てくれ」
「――あれは!?」

 アレスさんが、私が破壊した女神像を指差し「石像を何も前兆を起こさず破壊するなど、どんな魔術でも不可能だ! もしかしたら……」と、なにやら持論を展開していて――。

「なるほど! たしかに! 尖塔の部屋である鍵を閉めて部屋を出るなんて6歳の子供が考えられるわけがありません!」

 アレスさんの持論に頷きながら兵士が、なにやら考察を述べてきている。

「それにだ! 攻撃魔術を習っていない者が石像を破壊できるなんて……あやしいだろう? もしかしたら魔王の手先がルアル様の命を狙って入り込んでいるのかもしれない! シャルロット様をすぐに探すんだ!」

 アレスさんの命令に、周囲の騎士や兵士達が散っていく。
 私は、それを見ながら妄想豊かな人たちだなと思いつつ、草むらの中を移動する。

「それにしても、魔王ですか……また、とんでもない世界に転生してきたものですね」

 私は、一人呟きながら中庭の草むらを這い進んでいく。
 中庭を一周したところで、私はうつぶせになりながら考える。
 出入り口は3箇所。

 一つは、建物の中に通じる道。
 一つは、建物と建物の間に通じる道。
 一つは、塔に戻る道。

「選ぶのは、とりあえず……どこの建物から来たのが分からないから……」

 建物と建物の間に通じる道を進む。
 すると高い壁が見えてきた。
 私の身長からして、正確な高さは、今一判別はつかないけど、それでも、かなり高いというのだけは分かった。
 周囲を見渡して、これから、どうしたら? と思っていたところで声が気こてくる。
 すぐに近くの草むらに飛び込んで様子を見ていると話し声が聞こえてきた。

「シャルロット様はいたか? いや、王妃様のところにも向かってはいないそうだ」
「メロウの話だと、シャルロット様は母君に会いに行かれると部屋から出たらしいが……」
「とにかくだ、クレイク国王陛下からのお達しでシャルロット様は、王妃様には絶対に合わせてはならないということだ」
「それは、どうしてだ?」
「俺もよくは知らないが、王妃様は回復魔術の使いすぎで、助かることはないとのことだ」

 二人の騎士らしき人影は、私が聞いているのも気がつかず話し合いながら、前を通り過ぎていった。
 それにしても、かなり有力な情報を得ることが出来た。
 おそらく、メロウさんは、王妃が助からないことを知っていたのかもしれない。
 ただ、よけいな心配をかけさせないようにと配慮した結果、嘘をついた可能性も否めない。

 問題は、私が助けるまでは死なないでおいてほしいんだけど……。

 そうしないと復讐をすることができないし――。



コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品