薬師シャルロット

なつめ猫

王妃の告白

 王妃様は、私を両手で抱かかえると歩き始めた。
 そして、ベッドに上がると、私を膝の上に乗せて頭を撫でてきた。
 なんだか……ずっと子供扱いされているというより、おもちゃ扱いされているような――。

「あ、あの……お母さま、私はいい大人ですので……」
「ええー……、だって、私が起こしたときに、ママッ! と呼んでいたのに?」
「え!? わ、私……そ、そんなこと言っていましたか?」
「言っていたわよ?」

 王妃様は、私の頭を撫でながら語りかけてくる。
 ――やばい。
 全然、記憶にない。

「あのね、ずっと貴女は、私に対して――ううん、クレイクやアレス、そしてメロウに対して誤解をしているようだから、言っておくわね」

 どうやら王妃様は、本題の話を切り出そうとしている。
 私は、静かに頷く。
 彼女は、一体、私に何を言いたいのか……。

「私が、隣国エルフが治める大森林国アルフの王女ということは知っているわよね?」
「大森林国と言うのは初めて聞きました」
「そう、それでね――、メロウは、クレベルト王国に嫁ぐときに着いてきてくれた子なの。元々、継承権が第9位だった私は、そんなに重要視されてなくてね。馴れ初めは、また今度説明するけどね? でも、メロウは信用できる子よ? だから、安心して食事をすればいいわ」
「……でも、毒とか……」

 自分の表層意識が読まれていたのなら、態々、隠す必要もない。
 だったら、言葉にした方がいい。

「それは大丈夫。エルフは精霊と契約して精神魔法を扱うことが出来るから。あの子は、精霊に命令して、あなたに害がある物質かどうかを見定めることが出来るの」
「……」

 普通のメイドさんだと思っていたら、とても優秀なメイドさんでしたという落ちですか……。

「それとアレスはね。厳しい試験を潜り抜けてきた兵士だから、身元もシッカリとしているから安心していいわ」
「そうですか……」
「それとエンハーサは、王宮薬師だから、何かあったら聞けば何でも教えてくれるわ」
「はい」
「最後に、クレイクだけどね……」

 シャルロットの父親であり国王陛下の名前が出てきた。
 私は唾を飲み込む。
 彼だけは、いまだに良く分からないから。

「クレイクは、いまの貴女にどうやって向かい合っていいか分かっていないの。だって――、私のように回復魔術で貴女の表層記憶を読み取ることでも出来ないから。それにね、クレイクは貴女を大事に思っているわ、でも少し付き合い方というか、そのへん苦手なだけなの」
「――え? 苦手? あれでですか?」

 私は、魔力適正が判明するまで毎日のように部屋に来ていた国王陛下のことを思い出す。
 彼が私に向けてきていた笑顔をどう見たら付き合いが苦手だと思えるのだろう?

「そう、クレイクは感情を伝えるのが苦手だから――、あとは……、最後に貴女の適正は娘と同じ回復魔術。でも、絶対に使ったらダメ。何が起きても何があっても……、それは自分の命を削ることにもなるから」

 そこで王妃様は、言葉を止めると私を抱きしめてきた。
 でも、その抱きしめ方に力が入っていない気がする。

「貴女には、本当に申し訳ないと思っているわ。本当はね、娘は助からない病を持っていたの……」

 突然、王妃様は、私に語りかけてきた。
 いきなりの言葉に理解がおいつかない。

「娘は、魂が磨耗するという病をもっていたの」
「魂が磨耗?」
「ええ、回復魔術師がどうして短命なのか……それは、魂の力を消費して回復魔術を使うから――」
「そして、娘は回復魔術に適正を持っていた。そしてね……それは自動的に発動してしまっていたの。だから……娘はすぐに体調を崩したりしていたの。必死に助けようとしたわ。でも助けることはできなかった。だから――魂の波長が合う人を呼んだの」
「それって……」

 私は、振り向く。
 王妃様のほうを――。

「本当は……本当は……娘の魂に力を与えるためだけに、誰か知らない人の魂を得ようとしたの。でも――」

 え? つまり……。
 私が、ここに来たのって……。

「失敗して、貴女が眼を覚ましたの――本当にごめんなさい……貴女にも人生があったというのに……」

 私が、この世界に――。
 私が、この世界で目覚めた原因は、王妃様が私を償還したから?

「それって――」

 言葉が震える。
 だって、それってまるで――。
 自分の娘を助けるために、私を生贄に――。
 でも、私には鉄骨が落ちてきたから、もう死んで――。
 でも、その魂を与えるってことしなかったのなら、事故も起きなかった可能性だって……。

「どういうことですか? どうして……そんな大事な話を、今、ここで私に話すんですか?」

 分からない。
 王妃様の言った言葉の内容が、言葉の意味が、言葉が重くて――。
 頭の中で整理がつかない。

「本当にごめんなさい――」

 それだけ呟くと、王妃様はベッドの上で力なく横たわった。

 


コメント

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    う~~~ん う~~~ん

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