薬師シャルロット

なつめ猫

思いの欠片(5)

 回復の魔術書を王妃様から受け取った私は部屋から出ると外で待っていたメロウさんが「シャルロット様、お話はお済になられたのですか?」と話かけてきた。
 私は、首を縦に振って、話が終わったことを伝える。

「それでは、お部屋に戻りましょう」
「はい」

 メロウさんに連れられて、私は隣の部屋に入る。
 本当に近い。
 隣同士とか、王妃様も人が悪い。

「はぁー……」
「どうかなさいましたか?」
「あの、メロウ。少し一人に――」
「――かしこまりました」

 いつもは、部屋から出ていくのは急用な時と、夕方以降の就寝時間だっただけに、少しだけ驚いてしまった。
 今までは、お願いをすることはしなかったけど、もっと早くに言っておけば一人の時間が作れたかもしれない。
 考えてみれば、私付きのメイドであったともしても四六時中ついているのは疲れるだろうし、仕えている主が一人にしてくださいと言ったのなら、その言葉を配慮してくれるのは普通かもしれない。

「――とにかく、これで魔術の勉強が出来るようになったということですね」

 自分に言い聞かせるようにして、ベッドの上によじ登り、一抱えある魔術書を開く。

「えっと……、この世界の人間には誰にでも微弱な魔力が存在していて、大抵は生まれた時から、その魔力量は変わらないと言われている」

 私は、他の初心者専用魔術書と同じ出だしで書かれている内容を見て少しだけ肩を落とす。
 回復魔術について、触れている本だから、もっと画期的なことが書かれていると思ったから。
 そこで、私は、ふと思い出す。
 そういえば、国王陛下は言っていた。
 幼い頃から魔力を鍛えることで魔力量を増やすことができると。

「おかしい……」

 年齢に対する魔力の増加について本に書かれている内容と、国王陛下が私に言った言葉では、明らかに矛盾がある。
 私は疑問に持ちながらも本を読み進めていく。

「えっと……魔術の属性は4つ存在していて……。そこに精神魔術と悪魔魔術があり、全部で6つの属性が存在している――と……」

 本には、精神魔術は主に精霊と契約した者が使う魔術であり幻覚や精神を司る魔術と書かれている。
 それに反するように、相手を隷属させ支配するのが悪魔魔術。

 ――そして、最後に存在するのが、どの属性にも属さない回復魔術であり、使うために必要な要素は不明と書かれていた。

「火、水、地、風は、適合さえしてれば魔力の許す限り使うことが出来ると。精神魔法は、精霊と契約する必要があるために覚えることは困難。悪魔魔術は、魔界の力ある者と契約する必要があるために人間では覚えるのは、これもまた困難と……」

 私は大きく溜息をつく。
 適合がしていなくても、私が風系の魔術である浮遊の魔術を使えた理由が書かれていなかったから。

 私は何気なく、ページを捲っていく。
 そしてある一点で、私はページを捲る手を止めた。

 回復魔術は、白き光を伴うと書かれていたから。ただ、歴史上、白き光が何故、発現しているかは不明、必要な要素も才能も不明。

「もしかして……私の魔術って……」

 ページ内を読み進めていく。
 そして、最後の方に書かれている文章を見て私は目を見張った。

 そこには、回復魔術者は例外なく、全員が若い内に亡くなっていると書かれていた。




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