薬師シャルロット
思いの欠片(4)
「ふふっ、びっくりしたのかしら?」
「ど、どうして……」
どうして、知っているのか? と言う問いかけを私がする前に、王妃様は壁の方を指差し「だって……、ここの穴から貴女のお部屋の様子が見えるもの」と語りかけてきた。
そういうと、彼女は私を抱いていた腕を解く。
私は、ベッドの上を歩いていき壁の穴を見る。
すると部屋の中の大半が見えた。
「あう……」
ど、どうしよう……。
私の部屋が丸見え――。
本棚やベッドだけではなく部屋の真ん中の熊を空中に浮かべていた場所まで見えてしまっている。
「どう? シャルロットが夜に月明かりを頼りに魔術本を読んでいたのも! ぱっちり確認しているのよ?」
「……」
四肢から力が抜けた。
立っていられない。
ずっと気をはって細心の注意を払って行動していたのに、その全てが無にされた。
必死に隠してきたのに……。
必死に隠しておいたのに!
「ひどい……ひどいです」
「ひどい? ひどいのは、隠し事をしているシャルロットでしょう?」
「――う!?」
王妃様が指摘したとおりだ。
悪いのは、全部、わたしだから。
それに……。
もう、ここまで状況証拠が集まってしまったのなら言い逃れなんて出来ない。
私は、小さく息を吸い込み気持ちを落ち着かせる。
「おかーさま……、いえ、王妃様。私は、シャルロットではありません」
「シャルロットではない? どういうことかしら?」
私の言葉が恐らくだけど、予想の範疇に収まらなかったのだろう。
彼女の瞳が、大きく見開かれたのが分かった。
それでも、もう言おうと決めたのだ。
だから……。
もう隠すことはやめる。
この後、どうなっても受け入れよう。
どんなことであっても……。
それが例え死に直結するものであったとしても。
それに、私には使いきれていない魔術がある。
魔術をある程度、使うことが出来れば6歳の体でも生きていけるかもしれない。
「私は、この世界とは異なる世界から、おそらく転生してきた人間です」
「おそらく?」
「はい、事故に巻き込まれたところまでは覚えていますので……」
「そう……」
彼女は、目を伏せると「その話し方が本来の貴女なのね?」と問いかけてきた。
私は、彼女の言葉を肯定するように「はい」と答える。
「私自身の意識が覚醒したのは、噴水に落ちた時の事でした。そして、その前の記憶が一切ありません。――ですから、王妃様の本来の子供でありましたシャルロット様の意識に関しては、何もわかりません」
私の言葉を静かに聞いている彼女を見上げながら、私はさらに言葉を紡ぐ。
「そして、私は……。自分が生きるために、お二人の子供として振る舞い王妃様と国王陛下を騙していました。ですから、どんな処罰でも受ける覚悟です」
言ってしまった。
伝えてしまった。
もう、後戻りは出来ない。
王妃様が、どのような裁量をしようと私は受け入れる。
それが、私が出来る最後のことだから。
「不思議ね? 貴女からは娘と同じ魔力を感じるのだけど、本当に他人なのかしら?」
「それは……どういう……?」
「魔力というのはね、個人それぞれで魔力の質が決まっているの。そして、魔力の質というのは魂の在り方で変わるのよ? それなのに、貴女が持つ魔力の質は、初めて娘を抱いたときに感じた魔力の質と、まったく同じものなの」
「ですが、それは体を奪ったから――」
私の問いかけに彼女は、否定を込めて「それはないわ」と頭を振ってきた。
「何を根拠に、そんなことを――」
「根拠は、あなたの親だからと言えばいいかしら? 私の娘であるシャルロットもね、よく笑う子ではあったのだけども産後、体調が悪い私は殆ど、あの子と居て上げることは出来なかったの。それでも、あの子は何も不満を言わなかったわ。信じられる? 子供が親の様子を伺って会いにこないなんて……」
「それは……」
彼女が嘘をついているようには見えない、
たしかに6歳にも満たない子供が、そんなことをするなんて信じられない。
それでも――。
「もしかしたらだけど、貴女は最初から私達の娘として生まれてきたのかも知れないわね」
「それは、あまりにもこじつけが……」
「魔力の質から見ても、それが一番、納得いくことだと思うわよ? それに、教会でも人の魂は輪廻を繰り返すとも言われているもの。今回は、たまたま記憶と人格をのこしたまま私の娘として転生してきた可能性も捨てきれないでしょう?」
「ですが、それでも――」
「すぐに答えを出しなさいとは言わないわ。クレイクにも黙っておいてあげるから、でも一つだけ約束してほしいことがあるの」
「約束ですか?」
「――ええ、それは自分を偽らないでほしいの。シャルロットも、今、思えば何かをずっと我慢しているようだった。でも、聞く前にシャルロットは……」
そう呟くと、彼女は目を伏せてしまう。
何て声をかけたらいいのか分からないし、私は、どう立ち振る舞ったらいいのか分からない。
それでも彼女がそれを望むのなら――。
「わかりました。王妃様の前では、そのように――」
最後まで言い切る前に、彼女は私を抱き寄せてくると「王妃様ではなく、お母さま! ね? 分かったわね?」と語りかけてきた。
なるほど……。
親子なのに王妃様と話かけていたら不自然極まりない。
「お母様、わかりました。以後、気をつけます」
「少し、硬いわね……、もうすこし甘えてくれてもいいのだけど……」
彼女は、ようやく私に微笑みかけてきたけど、どこか陰りがあるようで――。
それはそうだよね。
中身が、まったくの別人なのに。
きっと、彼女が言っていた元のシャルロットの話だって、作り話かもしれないし。
ううん、きっと作り話に違いない。
そう考えたほうが、整合性は取れる。
「それで、今日のお話というのは――」
「ええ、貴女の一度、話をしたいと思っていたから。あとね、この本を持っていきなさい」
「これは……回復魔術入門書?」
「興味があったのでしょう? 貴女が空中に熊のぬいぐるみを浮かべていたから回復魔術に適正があるとは思わないけど、無理をしたらダメよ?」
「ありがとうございます」
頭を下げる。
彼女は、私が実の子供でないと分かっていても別の人間の記憶と人格をもったまま転生してきたと理解しているはずなのに、それを受け入れてもいいと言っている。
でも、私には――。
それが出来るかどうか分からない。
こうして、最初の、私として母親である王妃様との話し合いは終わった。
「ど、どうして……」
どうして、知っているのか? と言う問いかけを私がする前に、王妃様は壁の方を指差し「だって……、ここの穴から貴女のお部屋の様子が見えるもの」と語りかけてきた。
そういうと、彼女は私を抱いていた腕を解く。
私は、ベッドの上を歩いていき壁の穴を見る。
すると部屋の中の大半が見えた。
「あう……」
ど、どうしよう……。
私の部屋が丸見え――。
本棚やベッドだけではなく部屋の真ん中の熊を空中に浮かべていた場所まで見えてしまっている。
「どう? シャルロットが夜に月明かりを頼りに魔術本を読んでいたのも! ぱっちり確認しているのよ?」
「……」
四肢から力が抜けた。
立っていられない。
ずっと気をはって細心の注意を払って行動していたのに、その全てが無にされた。
必死に隠してきたのに……。
必死に隠しておいたのに!
「ひどい……ひどいです」
「ひどい? ひどいのは、隠し事をしているシャルロットでしょう?」
「――う!?」
王妃様が指摘したとおりだ。
悪いのは、全部、わたしだから。
それに……。
もう、ここまで状況証拠が集まってしまったのなら言い逃れなんて出来ない。
私は、小さく息を吸い込み気持ちを落ち着かせる。
「おかーさま……、いえ、王妃様。私は、シャルロットではありません」
「シャルロットではない? どういうことかしら?」
私の言葉が恐らくだけど、予想の範疇に収まらなかったのだろう。
彼女の瞳が、大きく見開かれたのが分かった。
それでも、もう言おうと決めたのだ。
だから……。
もう隠すことはやめる。
この後、どうなっても受け入れよう。
どんなことであっても……。
それが例え死に直結するものであったとしても。
それに、私には使いきれていない魔術がある。
魔術をある程度、使うことが出来れば6歳の体でも生きていけるかもしれない。
「私は、この世界とは異なる世界から、おそらく転生してきた人間です」
「おそらく?」
「はい、事故に巻き込まれたところまでは覚えていますので……」
「そう……」
彼女は、目を伏せると「その話し方が本来の貴女なのね?」と問いかけてきた。
私は、彼女の言葉を肯定するように「はい」と答える。
「私自身の意識が覚醒したのは、噴水に落ちた時の事でした。そして、その前の記憶が一切ありません。――ですから、王妃様の本来の子供でありましたシャルロット様の意識に関しては、何もわかりません」
私の言葉を静かに聞いている彼女を見上げながら、私はさらに言葉を紡ぐ。
「そして、私は……。自分が生きるために、お二人の子供として振る舞い王妃様と国王陛下を騙していました。ですから、どんな処罰でも受ける覚悟です」
言ってしまった。
伝えてしまった。
もう、後戻りは出来ない。
王妃様が、どのような裁量をしようと私は受け入れる。
それが、私が出来る最後のことだから。
「不思議ね? 貴女からは娘と同じ魔力を感じるのだけど、本当に他人なのかしら?」
「それは……どういう……?」
「魔力というのはね、個人それぞれで魔力の質が決まっているの。そして、魔力の質というのは魂の在り方で変わるのよ? それなのに、貴女が持つ魔力の質は、初めて娘を抱いたときに感じた魔力の質と、まったく同じものなの」
「ですが、それは体を奪ったから――」
私の問いかけに彼女は、否定を込めて「それはないわ」と頭を振ってきた。
「何を根拠に、そんなことを――」
「根拠は、あなたの親だからと言えばいいかしら? 私の娘であるシャルロットもね、よく笑う子ではあったのだけども産後、体調が悪い私は殆ど、あの子と居て上げることは出来なかったの。それでも、あの子は何も不満を言わなかったわ。信じられる? 子供が親の様子を伺って会いにこないなんて……」
「それは……」
彼女が嘘をついているようには見えない、
たしかに6歳にも満たない子供が、そんなことをするなんて信じられない。
それでも――。
「もしかしたらだけど、貴女は最初から私達の娘として生まれてきたのかも知れないわね」
「それは、あまりにもこじつけが……」
「魔力の質から見ても、それが一番、納得いくことだと思うわよ? それに、教会でも人の魂は輪廻を繰り返すとも言われているもの。今回は、たまたま記憶と人格をのこしたまま私の娘として転生してきた可能性も捨てきれないでしょう?」
「ですが、それでも――」
「すぐに答えを出しなさいとは言わないわ。クレイクにも黙っておいてあげるから、でも一つだけ約束してほしいことがあるの」
「約束ですか?」
「――ええ、それは自分を偽らないでほしいの。シャルロットも、今、思えば何かをずっと我慢しているようだった。でも、聞く前にシャルロットは……」
そう呟くと、彼女は目を伏せてしまう。
何て声をかけたらいいのか分からないし、私は、どう立ち振る舞ったらいいのか分からない。
それでも彼女がそれを望むのなら――。
「わかりました。王妃様の前では、そのように――」
最後まで言い切る前に、彼女は私を抱き寄せてくると「王妃様ではなく、お母さま! ね? 分かったわね?」と語りかけてきた。
なるほど……。
親子なのに王妃様と話かけていたら不自然極まりない。
「お母様、わかりました。以後、気をつけます」
「少し、硬いわね……、もうすこし甘えてくれてもいいのだけど……」
彼女は、ようやく私に微笑みかけてきたけど、どこか陰りがあるようで――。
それはそうだよね。
中身が、まったくの別人なのに。
きっと、彼女が言っていた元のシャルロットの話だって、作り話かもしれないし。
ううん、きっと作り話に違いない。
そう考えたほうが、整合性は取れる。
「それで、今日のお話というのは――」
「ええ、貴女の一度、話をしたいと思っていたから。あとね、この本を持っていきなさい」
「これは……回復魔術入門書?」
「興味があったのでしょう? 貴女が空中に熊のぬいぐるみを浮かべていたから回復魔術に適正があるとは思わないけど、無理をしたらダメよ?」
「ありがとうございます」
頭を下げる。
彼女は、私が実の子供でないと分かっていても別の人間の記憶と人格をもったまま転生してきたと理解しているはずなのに、それを受け入れてもいいと言っている。
でも、私には――。
それが出来るかどうか分からない。
こうして、最初の、私として母親である王妃様との話し合いは終わった。
コメント
コーブ
おぉー、こう来たか~(≧▽≦)とりあえず最初の真実が伝えられてスッキリしたよ♪