薬師シャルロット
回復魔術師(2)
何故か知らないけど――。
抱かれると胸にこみ上げてくるものが感情がある。
王妃様に、やさしく頭を撫でられるだけで、不安な気持ちが霧散していくのを感じて、まっすぐに王妃様の表情を見ることができた。
「シャルロット、もう大丈夫よ?」
王妃様が、私にやさしく微笑みかけてきてくれる。
それだけで、心が温かくなるのを感じた。
「――ルアル、体は大丈夫なのか?」
国王陛下が、王妃様の体を労わるように語りかけると、私を少し強く抱きしめてから国王陛下のほうを見て「あなた! シャルロットは、ずっと悩んでいたのではないですか? それなのに何をしているのですか!」と、強い口調で一喝していた。
「いや、私も色々と考えていてだな……」
「メロウから聞きましたよ? シャルロットが攻撃魔術を使えないことにショックを受けて会いに行かなくなったと!」
「――そ、それは違……」
「言い訳はいいです! しばらく、あなたは娘に会うのは禁止です!」
聞いている私が驚くほど、透き通った声で国王陛下に駄目出しをした王妃様は、続けざまに国王陛下に部屋から出ていくように言うと、肩を落として国王陛下は部屋から出ていった。
国王陛下が部屋から出ていって扉が閉まると、王妃様は小さく溜息をつくと、抱きしめるのを止めて膝の上に私をのっけると。
「――さて、シャルロット。それで、どうして自分で腕を切ったりしたの?」
王妃様の言葉に、私は心臓の鼓動が止まるほど、動揺してしまう。
だって、私は死ぬつもりで自分の左腕を切ったのだから。
そう考えてしまうと、先ほどまで自分自身の存在を肯定されたばかりだというのに、生き永らえてしまったことが、とても惨めに思えてきて仕方が無くなってしまう。
「ごめんなさい……」
自分が、どういった存在なのか、どうして異世界に転生してきたのか、前に存在していた本来のシャルロットは、どうなってしまったのか? 考えれば考えるほど、どうしようもなく分からなくなる。
まるで、出口のない迷宮に迷い込んでしまったようで、「ごめんなさい」という言葉以外には、相手に伝えられる言葉が見つからないし、見当たらない。
本当は、もっと上手く言葉にして相手に自分の気持ちが伝えられればいいのに、それが出来ない自分の未熟さが歯がゆい。
どうして、私はもっと頭がよくないのか。
どうして、誰でも出来るようなことが出来ないのか。
どうして、人に考えたことを伝えることが、こんなに下手なのか――。
私が何も言えずに俯いていると王妃様は、私の頭を一度撫でたあと、引き寄せて抱きしめてきた。
「そう、言えないことなのね?」
私は、王妃様の言葉に無意識の内に頷いてしまっていた。
「私のこと、嫌いになった?」
「そんなことないわ。だって、貴女は、私の娘なのだもの」
王妃様の声に、私はハッとして王妃様の顔を見る。
すると、微笑みながら、私に頬ずりしてきた。
「――あっ……ご、ごめんなさい……」
私は思わず、王妃様から離れた。
王妃様の微笑みが、暁綾香の――私のお母さんが私に向けていた微笑に似ていたから。
だとすれば……。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
私は何度も、目の前で呆然としている女性に謝る。
だって、私が前世の人格を目覚めさせたことで、王妃様の娘さんが消えてしまった可能性があるから――。
なんてことはない。
彼女が向けている笑顔だって、自分の娘に向けられている物であって、私に向けられたものではない。
「……シャルロット?」
王妃様が手を伸ばしてくる。
本当は、抱きつきたい――抱き着きたいけど……。
それは、私ではなく本来のシャルロットの役目であって、私には、その資格なんて存在しない。
だって、私は彼女の……王妃様が産んだ娘シャルロットさんの体を奪ったのだから。
でも、この体が傷つくと目の前のやさしい王妃様も傷つくことになる。
なんて、残酷だろう。
もし、私が死んだら彼女は、きっとすごく傷つく。
だったら、死んで逃れる術すら、私には存在しないことになる。
なら――。
私は、生きている限り演技をしないと……。
彼女の娘シャルロットとして、生きている間は演技をしないといけない。
それが、私の罪の償いだとしたら……。
それは、妥当なのではないだろうか?
「お母さま、ごめんなさい。ずっと部屋から出してもらえなくて、怪我をすれば部屋から出してもらえると思って――」
嘘に嘘を重ねて塗り固めて、それでも彼女の娘のふりをしないと――。
もう、誰かが傷つくのは嫌だ。
誰かを守るために――。
シャルロットの母親である彼女の思いを守るために――。
今まで多くの人を不幸にしてきた私を捨てることで誰かを幸福に出来るのなら、こんなに素晴らしいことはない。
だから――。
だから……。
「お母さま……」
――自分の気持ちに蓋をして、自分の気持ちを押し殺して笑うことにする。
そう、悲嘆に暮れる顔を、シャルロットの母親に見せたらいけない。
彼女は、私のことを知らない。
暁綾香である私のことを知らない。
だから、精一杯の笑顔を作りなら――。
「お母さま、また会いにきてもいいですか?」
「…………シャルロット……、――ええ。毎日でもいいからね。メロウに言えば連れてきてもらえるからね」
王妃様の言葉に、私は上手く彼女を騙せているのだろうかと思いながら、精一杯の笑顔を作りながら「――はい」と、はっきりと答えた。
抱かれると胸にこみ上げてくるものが感情がある。
王妃様に、やさしく頭を撫でられるだけで、不安な気持ちが霧散していくのを感じて、まっすぐに王妃様の表情を見ることができた。
「シャルロット、もう大丈夫よ?」
王妃様が、私にやさしく微笑みかけてきてくれる。
それだけで、心が温かくなるのを感じた。
「――ルアル、体は大丈夫なのか?」
国王陛下が、王妃様の体を労わるように語りかけると、私を少し強く抱きしめてから国王陛下のほうを見て「あなた! シャルロットは、ずっと悩んでいたのではないですか? それなのに何をしているのですか!」と、強い口調で一喝していた。
「いや、私も色々と考えていてだな……」
「メロウから聞きましたよ? シャルロットが攻撃魔術を使えないことにショックを受けて会いに行かなくなったと!」
「――そ、それは違……」
「言い訳はいいです! しばらく、あなたは娘に会うのは禁止です!」
聞いている私が驚くほど、透き通った声で国王陛下に駄目出しをした王妃様は、続けざまに国王陛下に部屋から出ていくように言うと、肩を落として国王陛下は部屋から出ていった。
国王陛下が部屋から出ていって扉が閉まると、王妃様は小さく溜息をつくと、抱きしめるのを止めて膝の上に私をのっけると。
「――さて、シャルロット。それで、どうして自分で腕を切ったりしたの?」
王妃様の言葉に、私は心臓の鼓動が止まるほど、動揺してしまう。
だって、私は死ぬつもりで自分の左腕を切ったのだから。
そう考えてしまうと、先ほどまで自分自身の存在を肯定されたばかりだというのに、生き永らえてしまったことが、とても惨めに思えてきて仕方が無くなってしまう。
「ごめんなさい……」
自分が、どういった存在なのか、どうして異世界に転生してきたのか、前に存在していた本来のシャルロットは、どうなってしまったのか? 考えれば考えるほど、どうしようもなく分からなくなる。
まるで、出口のない迷宮に迷い込んでしまったようで、「ごめんなさい」という言葉以外には、相手に伝えられる言葉が見つからないし、見当たらない。
本当は、もっと上手く言葉にして相手に自分の気持ちが伝えられればいいのに、それが出来ない自分の未熟さが歯がゆい。
どうして、私はもっと頭がよくないのか。
どうして、誰でも出来るようなことが出来ないのか。
どうして、人に考えたことを伝えることが、こんなに下手なのか――。
私が何も言えずに俯いていると王妃様は、私の頭を一度撫でたあと、引き寄せて抱きしめてきた。
「そう、言えないことなのね?」
私は、王妃様の言葉に無意識の内に頷いてしまっていた。
「私のこと、嫌いになった?」
「そんなことないわ。だって、貴女は、私の娘なのだもの」
王妃様の声に、私はハッとして王妃様の顔を見る。
すると、微笑みながら、私に頬ずりしてきた。
「――あっ……ご、ごめんなさい……」
私は思わず、王妃様から離れた。
王妃様の微笑みが、暁綾香の――私のお母さんが私に向けていた微笑に似ていたから。
だとすれば……。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
私は何度も、目の前で呆然としている女性に謝る。
だって、私が前世の人格を目覚めさせたことで、王妃様の娘さんが消えてしまった可能性があるから――。
なんてことはない。
彼女が向けている笑顔だって、自分の娘に向けられている物であって、私に向けられたものではない。
「……シャルロット?」
王妃様が手を伸ばしてくる。
本当は、抱きつきたい――抱き着きたいけど……。
それは、私ではなく本来のシャルロットの役目であって、私には、その資格なんて存在しない。
だって、私は彼女の……王妃様が産んだ娘シャルロットさんの体を奪ったのだから。
でも、この体が傷つくと目の前のやさしい王妃様も傷つくことになる。
なんて、残酷だろう。
もし、私が死んだら彼女は、きっとすごく傷つく。
だったら、死んで逃れる術すら、私には存在しないことになる。
なら――。
私は、生きている限り演技をしないと……。
彼女の娘シャルロットとして、生きている間は演技をしないといけない。
それが、私の罪の償いだとしたら……。
それは、妥当なのではないだろうか?
「お母さま、ごめんなさい。ずっと部屋から出してもらえなくて、怪我をすれば部屋から出してもらえると思って――」
嘘に嘘を重ねて塗り固めて、それでも彼女の娘のふりをしないと――。
もう、誰かが傷つくのは嫌だ。
誰かを守るために――。
シャルロットの母親である彼女の思いを守るために――。
今まで多くの人を不幸にしてきた私を捨てることで誰かを幸福に出来るのなら、こんなに素晴らしいことはない。
だから――。
だから……。
「お母さま……」
――自分の気持ちに蓋をして、自分の気持ちを押し殺して笑うことにする。
そう、悲嘆に暮れる顔を、シャルロットの母親に見せたらいけない。
彼女は、私のことを知らない。
暁綾香である私のことを知らない。
だから、精一杯の笑顔を作りなら――。
「お母さま、また会いにきてもいいですか?」
「…………シャルロット……、――ええ。毎日でもいいからね。メロウに言えば連れてきてもらえるからね」
王妃様の言葉に、私は上手く彼女を騙せているのだろうかと思いながら、精一杯の笑顔を作りながら「――はい」と、はっきりと答えた。
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コメント
柴衛門
「母は強し」と思ったね
コーブ
優しくて苦しいね~