薬師シャルロット
回復魔術師(1)
暁綾香は、一人っ子として、普通の家庭に生まれた。
両親は仲睦まじく一人っ子である綾香は、両親に大切に育てられた。
ただ、彼女は普通の人よりも不運に見舞われることが多く、小さな頃からよく怪我をしていた。
勉強も運動も得意ではなく、唯一の趣味と言えば読書をして妄想にふける事くらい。
本の中でなら自分は、同年代の子供よりも劣っている現実から目を背けることが出来たから。
物語の主人公に自分を重ね合わせて読むことで、たくさんの冒険を、恋が出来たから。
そして、そんな彼女の趣味を両親が否定することはなく、やさしく見守っていたが、人は自分が理解できないモノを恐れ排除する。
小学校で、本ばかり読んでクラスの人間と交流を持てない彼女は、自然と苛めの対象になってしまい、周りから孤立したことで、さらに読書にのめり込み、多くの知識を蓄えていった。
結果から言えば、綾香は学校で常に1番の成績をテストで取ってしまう。
ただ、それは周りから理解されなかった彼女が、逃げたことで手に入れた物であって彼女が幸福だったのかと問われたなら、それは彼女にとって不幸であったとも言えた。
何故なら、綾香の成績を妬む人間は大勢いて、そのことでより多くの軋轢を生んでしまったのだから。
不幸だったのは、綾香は人よりも劣っていた自分が主人公として楽しめる読書が好きなだけの平凡で普通な子供で、「天才」ではなかったことで、そして、そんな綾香のことを学校の先生も実の両親も理解しようとはしなかった。
誰も、綾香のことを理解せず理解しようとせず、そして綾香自身も他人を理解しようとはしなかった。
これが、もっと機転が利く社会人であったのなら違ったかもしれない。
そして――。
そんな毎日に突然、不幸が舞い込んだ。
いつものように市民図書館で本を借りていた綾香は、突然に振り出した雨により足止めされてしまったのだ。
綾香は小さい頃から体が弱く、よく熱を出す子供であり、勉強も出来て親の言うことも素直に聞く子供であった。
当然、親は一人っ子の娘を大事にする。
だからこそ、家に傘を忘れたので遅くなると連絡を入れたあと、たまたま休みであった綾香の父親が、車で彼女を向かえに言ったのは自然と言えた。
その結末が、誰も望んでいない物であったとしても――。
私は、自分が歩んできた道のりを、人生をただ、呆然と傍観者のように眺めていた。
本当は分かっていた。
私が、あの日に雨が降ると知っていたら、お父さんが死ぬことも無かったということも。
そして、お父さんが死んでから家計が苦しくなってお母さんに迷惑をかけることも無かったということも――。
よく考えれば分かることだった。
自分が主人公となれる、なれたかも知れない、そんなあるかもしれない、ありえたかもしれない作られた世界に、自らが作った世界に逃げ込んで誰かに理解してもらおうなんて、そんな虫のいい話なんて無いのに。
そんなことで誰かの感心を、興味を、優しさを向けられるのは、それは物語の主人公くらいで、現実は、そんなに甘くなんてない。
だから、お父さんにもお母さんにも迷惑をかけたのは、必然であって偶然ではない。
ただ、自分の理想を、ただ、ひたすらに追いかけただけに過ぎない。
誰にも理解されず、誰にも理解されようともしない。
その結果が、愛情を注いでくれた父親の死であり、私を育てるために仕事をして倒れた母親であった。
だから、私は決めたのだ。
なるべく、母親の負担にならないように国公立の高校に進学して、卒業したら進学ではなく就職をして、少しでも私が作った罪を償おうと――。
「そう、そして私は、就職が決まった」
目の前で流れる暁綾香の記憶を見ながら膝を抱えて、一人言葉を紡ぐ。
私の言葉は、静かに溶けるように儚げに消える。
私は膝を折り曲げたまま、周囲を見渡す。
目に入ったのは、暗いどこまでも黒く濁った世界で。
「私に、相応しい世界――」
そう、誰かを不幸にすることしか出来ない。
せっかく育ててもらったのに、恩返しすら出来ずに死んでしまった。
本当に、私は愚かで生きている価値すらない。
だから、お父さんが死んでから、時折、口ずさんでいた言葉がつい出てしまう。
それは「死にたい」と、言う言葉。
誰かを不幸にすることしか出来ないなら、死んでしまえば誰も不幸にすることなんてない。
そして自分が傷つくこともない。
だから、私は死にたい。
だから、もう消え去りたい。
私は、ゆっくりと、今いる世界に、淀んだ世界に身を任せようと横になろうとしたところで体が、ふと軽くなったことに気がついた。
それと同時に、急速に意識が希薄になっていく。
「シャルロット! 起きて! シャルロット!」
私の名前を呼ぶ声が聞こえる。
ゆっくりと瞼を開けると、そこには大きな青い瞳に涙を浮かべながら必死に私へ語りかけてくる女性の姿があった。
容姿は、とても綺麗で儚げな印象。
「駄目よ! 絶対に死んだら!」
「ルアル! もう、これ以上は君の体が!」
「この子は、私達の子供だもの! 私の体なんて、どうでもいいわ!」
私の左腕を、右手でやさしく握りながら左手で額に手を当ててくる女性は、国王陛下の言葉に耳を傾けようとせず、必死に私に語りかけてくる。
「帰ってきなさい。シャルロット、貴女が死んだらとても悲しいわ。だから、帰ってきて!」
悲痛な叫びが、涙声で語りかけてくる言葉が、私を、私の存在を肯定してくれているかのよう。
本来だったら、私なんて生きている価値なんてないのに。
誰かを不幸にすることしかできないのに。
それでも、誰かが――。
私が死んだら、誰かが傷つくなら……。
それは、間違っているかもしれない。
「……お母さま……」
私は、掠れたような声で言葉を紡ぐ。
何となくだけど、目の前のシャルロットの母親には、「お母さま」という言葉を素直に伝えることが出来た。
「シャルロット!」
私に名前を呼ばれたことに気がついた王妃様は、大粒の涙を零しながら、私をやさしく、それでいて強く抱きしめてくれた。
両親は仲睦まじく一人っ子である綾香は、両親に大切に育てられた。
ただ、彼女は普通の人よりも不運に見舞われることが多く、小さな頃からよく怪我をしていた。
勉強も運動も得意ではなく、唯一の趣味と言えば読書をして妄想にふける事くらい。
本の中でなら自分は、同年代の子供よりも劣っている現実から目を背けることが出来たから。
物語の主人公に自分を重ね合わせて読むことで、たくさんの冒険を、恋が出来たから。
そして、そんな彼女の趣味を両親が否定することはなく、やさしく見守っていたが、人は自分が理解できないモノを恐れ排除する。
小学校で、本ばかり読んでクラスの人間と交流を持てない彼女は、自然と苛めの対象になってしまい、周りから孤立したことで、さらに読書にのめり込み、多くの知識を蓄えていった。
結果から言えば、綾香は学校で常に1番の成績をテストで取ってしまう。
ただ、それは周りから理解されなかった彼女が、逃げたことで手に入れた物であって彼女が幸福だったのかと問われたなら、それは彼女にとって不幸であったとも言えた。
何故なら、綾香の成績を妬む人間は大勢いて、そのことでより多くの軋轢を生んでしまったのだから。
不幸だったのは、綾香は人よりも劣っていた自分が主人公として楽しめる読書が好きなだけの平凡で普通な子供で、「天才」ではなかったことで、そして、そんな綾香のことを学校の先生も実の両親も理解しようとはしなかった。
誰も、綾香のことを理解せず理解しようとせず、そして綾香自身も他人を理解しようとはしなかった。
これが、もっと機転が利く社会人であったのなら違ったかもしれない。
そして――。
そんな毎日に突然、不幸が舞い込んだ。
いつものように市民図書館で本を借りていた綾香は、突然に振り出した雨により足止めされてしまったのだ。
綾香は小さい頃から体が弱く、よく熱を出す子供であり、勉強も出来て親の言うことも素直に聞く子供であった。
当然、親は一人っ子の娘を大事にする。
だからこそ、家に傘を忘れたので遅くなると連絡を入れたあと、たまたま休みであった綾香の父親が、車で彼女を向かえに言ったのは自然と言えた。
その結末が、誰も望んでいない物であったとしても――。
私は、自分が歩んできた道のりを、人生をただ、呆然と傍観者のように眺めていた。
本当は分かっていた。
私が、あの日に雨が降ると知っていたら、お父さんが死ぬことも無かったということも。
そして、お父さんが死んでから家計が苦しくなってお母さんに迷惑をかけることも無かったということも――。
よく考えれば分かることだった。
自分が主人公となれる、なれたかも知れない、そんなあるかもしれない、ありえたかもしれない作られた世界に、自らが作った世界に逃げ込んで誰かに理解してもらおうなんて、そんな虫のいい話なんて無いのに。
そんなことで誰かの感心を、興味を、優しさを向けられるのは、それは物語の主人公くらいで、現実は、そんなに甘くなんてない。
だから、お父さんにもお母さんにも迷惑をかけたのは、必然であって偶然ではない。
ただ、自分の理想を、ただ、ひたすらに追いかけただけに過ぎない。
誰にも理解されず、誰にも理解されようともしない。
その結果が、愛情を注いでくれた父親の死であり、私を育てるために仕事をして倒れた母親であった。
だから、私は決めたのだ。
なるべく、母親の負担にならないように国公立の高校に進学して、卒業したら進学ではなく就職をして、少しでも私が作った罪を償おうと――。
「そう、そして私は、就職が決まった」
目の前で流れる暁綾香の記憶を見ながら膝を抱えて、一人言葉を紡ぐ。
私の言葉は、静かに溶けるように儚げに消える。
私は膝を折り曲げたまま、周囲を見渡す。
目に入ったのは、暗いどこまでも黒く濁った世界で。
「私に、相応しい世界――」
そう、誰かを不幸にすることしか出来ない。
せっかく育ててもらったのに、恩返しすら出来ずに死んでしまった。
本当に、私は愚かで生きている価値すらない。
だから、お父さんが死んでから、時折、口ずさんでいた言葉がつい出てしまう。
それは「死にたい」と、言う言葉。
誰かを不幸にすることしか出来ないなら、死んでしまえば誰も不幸にすることなんてない。
そして自分が傷つくこともない。
だから、私は死にたい。
だから、もう消え去りたい。
私は、ゆっくりと、今いる世界に、淀んだ世界に身を任せようと横になろうとしたところで体が、ふと軽くなったことに気がついた。
それと同時に、急速に意識が希薄になっていく。
「シャルロット! 起きて! シャルロット!」
私の名前を呼ぶ声が聞こえる。
ゆっくりと瞼を開けると、そこには大きな青い瞳に涙を浮かべながら必死に私へ語りかけてくる女性の姿があった。
容姿は、とても綺麗で儚げな印象。
「駄目よ! 絶対に死んだら!」
「ルアル! もう、これ以上は君の体が!」
「この子は、私達の子供だもの! 私の体なんて、どうでもいいわ!」
私の左腕を、右手でやさしく握りながら左手で額に手を当ててくる女性は、国王陛下の言葉に耳を傾けようとせず、必死に私に語りかけてくる。
「帰ってきなさい。シャルロット、貴女が死んだらとても悲しいわ。だから、帰ってきて!」
悲痛な叫びが、涙声で語りかけてくる言葉が、私を、私の存在を肯定してくれているかのよう。
本来だったら、私なんて生きている価値なんてないのに。
誰かを不幸にすることしかできないのに。
それでも、誰かが――。
私が死んだら、誰かが傷つくなら……。
それは、間違っているかもしれない。
「……お母さま……」
私は、掠れたような声で言葉を紡ぐ。
何となくだけど、目の前のシャルロットの母親には、「お母さま」という言葉を素直に伝えることが出来た。
「シャルロット!」
私に名前を呼ばれたことに気がついた王妃様は、大粒の涙を零しながら、私をやさしく、それでいて強く抱きしめてくれた。
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コメント
コーブ
クソッ!!迂闊にも泣かされちまったぜ・・・・(T△T)
クルクルさん/kurukuru san
自分と同じ( ´ A ` 。 ) グ ス ン