剣と魔法と能無しクズと

佐々木 雄

第1章 第10話 夕食の団欒

アレンはシャルテの家の臨時的な少し小さめの椅子でテーブルの上座の方に座っていた。突然の来客なのでシャルテが幼い頃に使っていた椅子しかなかったらしい。
ちなみに、さっきのやつはカミラ家でたまにある茶番とのこと(パパさん談)。

そして、そのパパさんはアレンの左前側に座っている。パパさんはアレンの顔を見ながらニヤニヤしている。⋯⋯なに?俺の顔になんか付いてんの?正直気持ち悪いんですけど。
 
アレンはパパさんと極力目を合わせないように真っ直ぐ前を向く。
前を見ると、シャルテとテルルが、ママさんを手伝っている。⋯⋯めっちゃいい匂いが⋯⋯⋯⋯、
 
「おーい、涎垂れてるよ〜」
 
パパさんに横から指摘され我に帰り、ハッとして口元を腕で拭う。
 
パパさんはずっとニコニコしていたが、アレンのその様子を見て少し吹き出した。
アレンが少し非難的な目を向けると、
 
「いや、ごめんごめん。おかしくってつい」
 
そう謝って来るが、まだ少し笑っている。
アレンはそんなパパさんに向かって質問を投げかける。
 
「⋯⋯パパさんは、いきなり俺が来て迷惑じゃないんですか?」
 
アレンの普段の行動を知るものとしては今の発言はとても珍しいものだった。
その声色には、純粋なる疑問と、ほんの僅かな怯えがあったからだ。
 
だが、パパさんは僅かな怯えには気が付かなかった。
 
「迷惑だなんて、そんな。君の事はいつもシャルテとテルルから聞いているよ、アレン君。2人ともずっと君の話をするからどんな人かと気になっていたんだ。だから、突然とはいえ、会えてとても嬉しいと思っている」
 
2人から聞いているという言葉に目を見開き驚くアレン。そして、嬉しいと言われた事によって怯えは無くなっていき、いつもの調子のアレンに戻っていく。
 
「⋯⋯へぇー、そーですか。2人が俺の話をねぇ〜?それって俺の事好きになるフラグですよね。いやあ、2人から選ばなきゃいけないのか!悩むな〜!」
 
先程のアレンからは想像もつかない、でもいつものアレンに戻りそんな事を言い出した。
パパさんは、アレンの変わり様に一瞬驚いた顔をするが、すぐに笑い顔に戻りアレンに喋りかける。
 
「どうだいアレン君。いっそ2人とも貰ってしまうというのは⋯⋯」
 
「お、おおっ!その手があったか!でも、それはパパさんが許さないんじゃ?」
 
「いやいや、2人を幸せにするならば僕は一向に構わん!僕は過程は気にしない、結果論でいいのだ!」
 
「わ、わかりやした!お、俺、絶対2人を幸せにします、お義父さん!」
 
「よろしい!2人の愛娘の事、よろしく頼んだぞ義息子よ!」
 
「「ハーハッハッハッ!!」」
 
そうバカ騒ぎをしていると、
 
「一体何の話してたの?随分盛り上がってたみたいだけど」
 
シャルテが料理を持ってきた。
 
 
アレンは鼻息荒く、目の前に並べられた料理を眺めていた。
今晩の夕食はスープだった。スープの他にもパン、サラダ、そしてパパさんとママさんが飲むのか、ワインも置いてあった。
この世界の食卓としてはお世辞にも豪華とは言えないが、アレンには王族貴族が食べる様な食事よりも豪華に見えた。
 
「こ、こんなものを俺が食っていいのか⋯⋯じゅるっ」
 
「アレン、また涎がたれてきてるよ」
 
「仕方ねぇだろテルル!俺こんな豪華な食卓見た事ねぇぞ!」
 
「あらあら、アレン君。お世辞が上手だ事。ねぇ、あなた」
 
「うむ、ホントにちゃっかりしてるよ義息子は!」
 
「⋯⋯⋯⋯義息子?」
 
最後にシャルテが首を傾げるがアレンとパパさんはこれをスルー。

「それじゃあ、アレン君の料理を見る目が怖くなってきたから、いただきます!」
 
「「「いただきます」」」
 
「いただきまあああああーすッ!!」
 
一人だけめちゃくちゃ大声だったが、やっと食事が始まる。
 
「あ、アレン君。料理のお代わりが欲しかったらいつでも言ってね。私が入れてくるか」
 
「お代わりッ!」
 
「「早っ!?」」
 
シャルテとパパさんが驚きの声を上げテルルが苦笑する。

「アレン、ちゃんと噛んで食べないとダメだよ?喉に詰まっちゃう。私、アレンにお茶入れてくるね」
 
「おおッ!頼んだテルル!」
 
料理にがっついたまま礼をいうアレンと、そのアレンにお茶を入れるテルル。パパさんが小声で「ヒモ系と尽くし系か⋯⋯悪くない」と言うが、隣に座っているママさんにしか届かない。
ママさんは、うんうん。と頷いていた。
 
その後、アレンはパンをスープに付けて食べているシャルテを見て、
 
「そんな食い方すんのか⋯⋯」
 
「え、この食べ方おかしかった?」
 
「いや、そんな事ないと思うぞ。俺も試してみようと思っただけだ」
 
「こういう食べ方したこと無かったの?幼い頃とか」
 
そう言った瞬間、少し、ほんの少しだけアレンのスープにパンを付けようとする動きが止まった。
 
「いや、ガキの頃はこんな楽しい飯は無かったよ。誰も何も喋らねぇ。だから、こんな食い方もなかったな」
 
「⋯⋯そ、そうなんだ」
 
  
夕食が終わり、それぞれがお茶を飲んでくつろいでいる中、腹をパンパンにしたアレンが4人に向かってお礼を言う。
 
「今日はホントにありがとうございましたッ!こんな美味い飯食べたの生まれて初めてっすよ!」

「いやいや、そんな事ないよ!それにアレン君には毎日家に来て欲しいくらいだよ。夕食がとても楽しいしね!」
 
「⋯⋯⋯⋯その代わり三日分くらいあったスープが1日で無くなっちゃったけどね」
 
シャルテが小さく呟く。
アレンは少し申し訳なさそうにし、
 
「わ、悪い。流石に食いすぎちまったよな⋯⋯。あ、お礼になんかするぜ!例えば家の家政婦さんとか!」
 
「うん、いらない」
 
「ええーと、そんじゃあ勉強教えるってのはどうだ!?お前学校通ってて分かんねぇとこないのか!?」
 
「⋯⋯⋯⋯はぁ?」
 
シャルテが言ってる意味が分からないといった声を出す。テルルもパパさんママさんも少し驚いている。
 
「あなた、学校も行ってないのに私に勉強教えるっていうの?無理に決まってんでしょ?あなたじゃ無理よ」
 
当然だった。
シャルテはこの村きっての天才の白。
それに比べてアレンは学校にも行っていない灰だ。
シャルテは少し苛立ったようにそう言った。

しかし、

「いや、多分教えれると思うぞ」
 
アレンはそう言った。
 
さっきまで楽しかった空気が霧散する。シャルテが魔力を放ち始めたからだ。シャルテは驚きもあり、少し言葉を失った。
 
「⋯⋯なんですって?白の私に教えられる?灰のあなたが?笑わせるわ」
 
「だから出来るんだって、多分。何ならやるか?決闘式の勝負」
 
今度こそ、シャルテは絶句した。
 
灰が白に勝負を挑むなど、世界で初だろう。
 
「⋯⋯いいわ。やってやろうじゃないの。殺すつもりで来なさい。じゃないと死ぬわよ」
 
「本気なんて出さねぇよ。それこそ、お前も本気で来いよな。⋯⋯殺すつもりで」
 
決闘の場は村で1番大きな広間。
 
時刻は翌日の正午。
 
アレンとシャルテが決闘する事となった。
 
この大ニュースは、翌日の朝には村全員が知る事となる。

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