悪役令嬢に成り代わったので奮闘しました。だからって貴公子と呼ばれるとは思わなかったんです

工藤麻美

誓い

それからもエドガーが向けるのは愛想笑いか無表情。心を許してはくれなかった。何も焦る事はない。無理に近づいて彼を傷つける方が悪いだろう。と思ってはいるが、こうも進展がないと先が不安だ。

もし彼が当主の座を狙っているとしたなら、争うのは私になる。ゲーム内ではルカだったのだろう。

エドガーが当主になった際、ルカがどうなったかは知らないがあのお父上なら良い方向ではなさそうだ。それは私にも言えよう。

「何か考え事かい?クリストファー。」

「‥‥!申し訳ありません。些細な事でございます故、お気になさらず。アレク殿下。」

今日は王家が催した茶会に招待された。ルカと共にやってきた私たちを出迎えたのは殿下とダリウス殿。これは友好関係が築けているという事だろうか。

私としては己の命に関わっている人物にそう易々と近づきたくはないものだが王家の招待を断り、我が家の恥晒しになる訳にもいかず、こうして席を共にしている。

「うーん、そうはぐらかされると気になるものだな。教えてくれないかい?」

「え‥‥。」

殿下は好奇心旺盛なようで。

「キャンベル家が養子を取りました。今はクリスと共に過ごしているようなのですが。」

「成る程。その方に問題があるのですか。」

ルカがさらっと答えた事に驚きつつもダリウス殿まで興味を持った方が重要だ。この方は怖い。

じぃっと見つめられる。答えなければずっとこのままだろう。あまり陰口のような真似はしたくないんだが

「少々元の家で問題があったそうで、我が屋敷に来ても打ち解けていないようです。」

「そうか。まぁ気にしなくて良いさ。ある程度の悶着は時間が解決してくれる。」

殿下は柔らかく微笑んだ。まぁ焦ってしまっても仕方ない。無理に迫って拒否されたらきっと今より接触は難しくなる。気長に待つ事が一番なのかもしれない。

「お心遣い感謝します。」

「構わないさ。私と君はもう友人なのだからルカのように口調も崩して構わないよ?」

「これは癖ですので。どうかご勘弁を。」

それは残念と言いながら殿下は苦笑した。

「殿下、そろそろ本題に入られては?」

ダリウス殿の言葉にふぅ、と殿下は一息ついた。

「そうだったね。最近魔物の出現頻度が高い。議会でも注視されている。」

「ああ、知っている。しかし俺たちはまだ魔法武器もない。魔物との戦闘には無関係だろう。」

「そう、"まだ"ね。私が話したいのは学園に入った後のことさ。もしかしたら私達の在学中に魔物の大量発生が起こるかもしれない。」

魔物の大量発生。私が生まれたあたりからずっと警戒されていた災害の一つ。普段は森の奥にいる魔物が街に現れるほど出現し、人々を襲う。

学園と森の距離は然程遠くなく、大量発生が起これば真っ先に餌食になるだろう。

「もしあの災害が起これば、生徒たちは安全な場所へ避難させられる。しかしそれは一般生徒のみだ。優秀な生徒は戦闘に駆り出される。そして私は優秀であろうとなかろうと王族として隠れ逃げる訳にはいかない。」

そう。現王は偉大な方とされている理由の一つはそれだ。一般的な王は戦争時、兵を己の盾の様にしている。これは大将として首を取られない様に徹しているからだ。

しかし現王はそれをよしとはしなかった。

己の国は己の手で守るべきだ。国の守りは信頼できる臣下たちに任せ、前線で自国の道を切り開いてこそ真の王だと。即位式の時に現王が国民の前で宣言した言葉だ。

そしてその意思はアレク殿下が継いでおられるのだろう。

「君たちには私と共に闘って欲しい。酷な願いだとは思う。万が一にでも君たちの戦力が低ければ魔物の餌食にされやすい。しかし今の私に信頼できる人など数少ない。まだ出会って間もないルカやクリスのことも私は信じている。そんな君たちに闘う時側にいてほしい。頼む。」

殿下は頭を下げてきた。今までゲームの中だけでシナリオ通り動いていただけの人々が何を考えて生きているかを知った。この人達をただの他人と思ってはいけない。

「もちろんだ。今更なことを言う。」

ルカが即答した。殿下がハッとして顔を上げる。ダリウス殿の探る様な視線もルカに注がれた。

「俺は将来、クリスの補佐として生きる。これでもキャンベル公爵家次期当主の補佐になると決めた俺の決意は固い。その立場からして戦闘から逃げるなど恥だ。それをなくしても、一国民としてこの国を守る権利が俺にはある。殿下と共に闘おう。」

そう言い切った従兄の目はまっすぐとしていた。

「私はきっと皆様の中では一番脆弱な人間だと自負しております。戦闘で役に立てるかも正直なところ分かりません。しかし殿下の臣下として、また側にいる一人の友人としてあなた一人で戦場に向かわせる気はありません。あなたについていくと今この場で誓いましょう。」

私も自分の気持ちを言い終わり、跪く。ルカもそれに続いた。

「アレクサンドル殿下に忠誠を誓います。そして友人として如何なる時も側に居ることを誓います。」

言い終わるとアレク殿下の笑い声が聞こえてきた。疑問に思い思わず顔を上げる。

殿下は少し浮かんだ涙を拭って微笑んでくれた。

「ありがとう。こんなに素晴らしい二人に出会えたことを神に感謝する。よろしく頼むよ。臣下としても友人としても。」

その日の茶会はそれにて終了した。

「悪役令嬢に成り代わったので奮闘しました。だからって貴公子と呼ばれるとは思わなかったんです」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

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コメント

  • 蒼田 とぉ

    めっちゃ好みです!
    あと、僭越ながらイラストを描いたのでよろしればどうぞm(_ _)m
    https://medibang.com/picture/ah1807251103279390006751930

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