悪役令嬢に成り代わったので奮闘しました。だからって貴公子と呼ばれるとは思わなかったんです

工藤麻美

心配事

あのパーティーの後、殿下やダリウス殿から手紙が来た。これは毎回のことの様でルカからも

「これがあの二人の普通だ。目をつけられたわけでもないから気にするな。」

とのことだった。内容もやはり先日のパーティーのこと。ダリウス殿からはこれからも殿下をよろしくと書かれていた。なんやかんやで殿下のこと大好きなんじゃないかな。

殿下はというと、ダリウス殿の叱責から助け舟を出してくれたことのお礼、自身と友になってくれたことのお礼だった。なんていうか‥‥ゲームでも思ったけれど物腰の低い第一王子だな。権力をひけらかすような人間よりずっとマシだ。

さて、あと五年と迫った学園の入学式。そのことばかりに気を取られていた私はとても重要なことを忘れていたらしい。でなければ険しい顔の父と父の執務室で向かい合うことは無い。

「養子をとった。」

父よ、その一言だけで私に全てを察しろというのですか。普通の子供なら無理ですよ。しかし私なら分かります。ええ、あの彼が来るんですよね?

養子は男の子。つまりは私の義弟になる人物。女しか産まれないこのキャンベル家の後継者として養子にとられた彼は私の親戚である。しかし、ルカの様に近しい者でもない。顔も合わせたことのない末端の家の五男。なんだ五男って。両親元気だね。

長男から四男までは至って普通の子だったらしい。全員私より年上で学園にも入学している方々だ。しかし五男だけは私の一個下。

普通、学園に入るまで大きな魔法は使えない。火属性なら火を出す。水属性なら水を出す。風属性なら風を吹かせる。の様なものだ。しかし五男は入学する前に魔力の暴走を起こした。

その結果家では化け物と呼ばれ、下町に売られそうなところを父上が養子として引き取ったそうだ。彼の名前はエドガー。攻略対象者である。

本来ゲームでエドガールートに進んだ時だけ、彼がキャンベル家当主となる。それはハッピーエンドもバッドエンドも同じこと。つまり彼はキャンベル家当主の座を狙っていたことになる。ルカとは仲が悪いのだろうか。

まぁその次期当主の座には、本来エドガーをいじめ酷い火傷まで負わせるという役目の私が座っているわけだが。暗殺されたりとかしないよな。

彼の最もの注意点は属性である。魔法ではなく、キャラの。

エドガーは俗に言うヤンデレ?らしい。妹と一緒に攻略過程を見ていたがバッドエンドの彼は途轍もなく恐ろしい者だった。

家族に見放され、養子になって訪れた家では姉に虐げられ、腫れ物の様に扱われた彼は愛に飢えた。そういうのは大抵チャラ男かヤンデレになるらしい。

漸くヒロインと出会い愛を手に入れたエドガーは二度とそれを手放したくないからと彼女を監禁する。そして数年後二人で命を絶っていた。ヒロインが同意していたかは知らないが。

まぁ兎に角その弟にどう接するのかだ。もし幼少期は普通の少年ならば普通に接すれば良い。しかし性格がひん曲がっていた場合、どうするのが良いんだろう。

万が一ヒロインとエドガーが恋に落ちたら、次期当主の座は私ではなくエドガーになる。それだけならば良いが邪魔者として排除される恐れもある。

いくら前世の知識があるからといって、まだよく分かっていないこの世界で一人で暮らしていける自信なんて無いのだから、それは勘弁だなぁ。

「今部屋の前に呼び出して居る。会ってくれるな?」

「勿論ですよ。」

さぁいよいよご対面といこうか。

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