悪役令嬢に成り代わったので奮闘しました。だからって貴公子と呼ばれるとは思わなかったんです

工藤麻美

視線

「随分と、女性に慣れていらっしゃいますね。クリストファー殿は。」

私の隣に居たダリウスが、少々不機嫌そうに言った。確かに、まだ10歳だというのに女性がどうすれば喜ぶのかをよく分かっている。クリスが将来、好色漢にでも成ってしまっては困る。

クリスは恐らく御父上の跡を継いで外交長官となる。そんな外交長官が浮ついた話ばかりでは、他国からの信頼も得難い。ダリウスも次期宰相として心配しているんだろう。

「ああ。本当に変わった奴だ。大きなパーティーに参加するのは今回が初めてだと聞いて居たのに、まるで緊張していない。」

「えっ、初めてなのかい?」

ルーカスの言葉が信じられなくて、思わず聞き返すが彼は迷わず頷いた。

「まぁ、良いでしょう。私もそろそろダンスに参加せねばなりません。ここで失礼致します。では。」

ダリウスは颯爽と人混みに紛れて行った。彼のことだからどうせ、有力な貴族の御令嬢と踊るのだろうな。彼らしい。

「ルーカスは行かないのかい?」

ずっとダンスホールを眺めている彼に言えば、困った様な表情をされた。

「あまり、人と踊るということが得意では無いんだ。出来ることなら踊らないでいたい。」

無表情なルーカスは、人と関わるのがあまり好きではなかったんだろうか。確かに、多くの人といるところは見たことがない。代わりに、一人で壁にもたれかかっている所はよく見る。

「アレク殿下こそ、行かないのか。」

「私は良い。王族とも慣れば皆、怖気付いて近寄ろうとして来ない。学園に入る頃にはきっと囲まれていると思うけど。」

まだ幼い彼らは、私の怒りを買わないことで精一杯。それを恐れずに近づいていて来てくれた一人がルーカスだ。ダリウスは警戒していたけれど、私は折角ならクリストファーとも仲良くなりたい。

一際目立つ銀の髪の彼を横目で見て、フッと微笑んだ。友人が一人、増えることを願おう。出来ることならばダリウスとも友人になってほしい。

にしても男だというのが疑わしいくらい綺麗だな、彼は。我が国では同性婚というのは積極的ではないが、もし認められていたなら彼は婚約を求められる側だっただろうに。

いっそのこと、女として産まれた方が幸せだったのではとすら思える。それほどまでに彼は中性的で美しい顔立ちだった。

「っ‥‥」

思わず観察する様に見入っていると、彼はこちらの視線に気づいたらしい。とろける様な微笑みを浮かべ、まるで周りに大輪の薔薇でも咲いている様だった。

‥‥これは注意すべきだな。






先程からリアーヌ嬢と踊っているのだが、何者かの視線を感じる。彼女にバレない様に視線の主を探しているのだが、中々見当たらない。

なんとなく、数分前まで自分が居た場所に目を向ける。興味なさそうに会場を見ているルカ。彼はいつもこんな感じなんだろう。さて、アレク殿下は‥‥。

サファイアの様な瞳がこちらに向けられている。優しげな目元からは威圧感は感じない。それでも堂々とした彼の目は射抜かれる様で思わずたじろぐ。

視線の正体は彼だったか。緊張を誤魔化す様に微笑むと目を逸らされた。なんだったんだ一体。


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