悪役令嬢に成り代わったので奮闘しました。だからって貴公子と呼ばれるとは思わなかったんです

工藤麻美

初対面

「彼は俺の従弟でキャンベル家次期当主のクリストファーだ。」

あまりの美しさに呆然としている私を、ルカが紹介する。二人の目がこちらに向けられてハッとする。

「ご紹介に預かりました。クリストファー・キャンベルと申します。日頃から、従兄のルカと親しくしていただき誠に有難う御座います。」

最上の礼をして、王子からの言葉を待つ。

「顔を上げてくれ、クリストファー。」

その言葉に従い、無礼にならぬ様殿下をしっかりと見る。綺麗な碧の瞳に見つめられる。その隣に居る少年も似た目をしていた。

「第一王子、アレクサンドルだ。アレクと呼んでくれて構わない。ルカからはよく君のことを聞いていてね、会うのを楽しみにしていたよ。」

そうやって微笑む姿は可愛らしい。あと数年経てば正に王子様なのだろうな。

「光栄です。」

そうとだけ返すと殿下の隣の少年が一歩前に出た。

「ダリウス・アデスと申します。父は宰相を務めております。以後、お見知り置きを。」

そこまで言われて納得した。彼がダリウスか。

アデス公爵家は数少ない公爵家の中でも特別。その理由は簡単。王家と血が繋がっているからである。それならば王子とアデス殿の目元が似ているのも頷ける。とは言っても血縁は今ではかなり遠いらしいが。

「よろしくお願い致します。アレク殿下、ダリウス殿。」

私の答えを聞き、微笑んだ二人の顔は瓜二つ。兄弟なんじゃないかと疑うほど。しかしアレク殿下はフワフワとした金髪に対し、ダリウス殿は潤いに満ちた真っ直ぐな茶髪。

どちらも美しく、幼さから可愛らしい印章を受けるが、成長したら途轍もない程の美丈夫になるのだろう。画面の向こうの存在だったのにな‥‥。

「さぁ、そろそろワルツが始まる時間でしょう。クリスもルカも御令嬢が放って置かないでしょうから、お気をつけて下さいね。」

「それはダリウス殿も同じでしょう。私は寧ろ可愛らしいレディとお近づきになれるなら光栄ですよ。」

クスリと笑ったダリウス殿も否定をする気は無い様だ。溢れ出る色気って感じだな。10歳から何やってるんだ彼は。

「あ、あの‥‥」

一人の御令嬢が私達に近づいてきた。その目は私に向けられている。彼女に体の正面を向け、軽く礼をする。

「何か御用でしょうか?」

そう問いかければ、顔を赤くして狼狽える御令嬢。私の勘違いでなければ、この御令嬢は私に好意を向けてくださっている。それは有難く受け取ろう。

跪き、手を差し出す。彼女の瞳を見つめ軽く微笑む。

「私と踊っていただけませんか、可愛らしいレディ。」

ただでさえ赤かった顔を更に赤らめて、目を潤ませた御令嬢。少し不安になったが彼女は私に手を伸ばした。

「は、はぃ!喜んでっ!」

了承を得て、立ち上がり彼女の腰を引き寄せる。すると、周りの御令嬢からキャアッと可愛らしい悲鳴?歓声?が上がった。前世も女子校だったから女の子に囲まれるのは慣れてる。

「それでは、殿下。また‥‥。」

「ああ、ダンスが終わったら来てくれ。君とは話がしたい。」

社交辞令で言ったつもりが逆に誘われてしまった。あまり深く関わると命の危険もあると思うんだけど。

それより今は目の前の御令嬢だ。緊張で震えているのが近くに居ればよく分かる。まぁ、仕方ないか。

「緊張していらっしゃいますね。」

そう、こっそりと囁けばビクッと肩を揺らした。驚かせてしまっただろうか。

「も、申し訳ありません!お恥ずかしながら、この様な場に参るのは初めてなので‥‥。」

恥ずかしそうに俯く彼女。耳まで真っ赤だ。

「それなら、私と一緒ですね。私もパーティーに参加するのはこれが初めてで御座います。」

そう伝えると意外そうに目を丸くした。その後、安心した様に微笑む。

その瞬間、ゆったりとしたワルツが流れ出した。彼女の手を取り、体を引きつける。結構密着するんだな、やっぱり。

コロコロと表情を変える彼女は、今度はまた真っ赤になっていた。

「私はキャンベル公爵家長男の、クリストファー・キャンベルと申します。貴女のお名前をお聞かせ願いますか。」

「シーモア伯爵家次女の、リアーヌ・シーモアです。キャンベル家の方だったんですね。」

申し訳なさそうにするリアーヌ嬢。まぁ確かに数少ない公爵家の人間となれば怖気づいてしまうか。

「お気になさらず。さぁ、ダンスを楽しみましょう。」

そう言ってステップを踏み出した。

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