悪役令嬢に成り代わったので奮闘しました。だからって貴公子と呼ばれるとは思わなかったんです

工藤麻美

友人の友人

ゆったりとしたワルツ。煌びやかな会場に華やかなドレスを纏った貴婦人。そして談笑という名の情報交換に没頭する爵位のある者たち。

どれもいつも通り。退屈してしまった。

この国の第一王子である私は、人と話さなくとも積極的にパーティーには参加せねばならない。

それでも、経験を積むためということで出席する令息も居る。私と同じ年頃だって多い。そこで何人かの友人が出来た。

「いかがなさいましたか、殿下。」

宰相の息子であるダリウス・アデス。彼は私の幼馴染。父は宰相として私の父上を常日頃から支えている。また、ダリウス自身も幼いながらにその才能を発揮し、社交界では注目の的だ。

「いや、ルーカスが今日は出席すると聞いていたから探していたんだが、まだのようだな。」

会場に見当たらない知り合い。ルーカス・キャンベルはパーティーで出来た私の友人の一人である。今日は他の友人は来れないと聞いていたから、彼を見つけたらすぐに私の部屋に移ろうと思っていたんだが‥‥。

「おや、いらっしゃいましたよ。今着いたばかりの様ですが。」

ダリウスが入り口付近を指す。そこには確かに黒髪にワインレッドの瞳を持った友人が立っていた。辺りを見渡して私を見つけると小走りで近づいて来る。

「殿下、すまない遅れてしまって。」

「構わないさ。さぁダリウスも一緒に私の部屋で茶を楽しもう。ずっと待っていたんだから。」

憂鬱な気分を晴らしてくれるのは友人達。両親には次期国王として厳しく育てられ、使用人達とも極力関わらなかった私は、人と関わるのは友人が初めての様なものでとても大切だった。

だから友人には幸せになって欲しいし、私に何か出来るならしてあげたい。ダリウスは次期宰相になる事を誇りに思っているし、淡々とした性格の彼はちょっとやそっとでは崩れない。

問題はルーカスだった。彼は私とダリウスにのみ秘密を打ち明けてくれた。自分は当主の義弟と娼婦の間に産まれた子なのだと。

それでもそんなことはどうにも出来る程、彼は優秀だった。この事についての相談にはいつも君は優秀だからいずれ当主になれると答えていたが、前回聞いた話でそうもいかなくなった。

「実は、当主の令息に会うんだ。」

それを聞いた瞬間、私もダリウスも何も言えなくなった。いくら優秀でも、当主の令息を差し置いて次期当主になどなれない。ルーカスももうすぐ自分の身に起こる困難に、酷く困惑していた。

あれからどうなったのかと心配していたが、彼に変化はない。問題は無かったのか、あるいはそう取り繕っているだけで、実際は綱渡りの様な状況に苛まれているのか。

「それで、キャンベル公爵の御令息との面会はどうでしたか?」

しれっとした顔でダリウスは尋ねた。彼は基本的に優しくてニコニコしているが、回りくどいことは好きじゃない。単刀直入なのが彼のやり方であり、私はそれが少々心配でもある。

いきなり答えづらい質問をされたルーカスがどんな反応をするかと思っていたが彼の顔は綻んでいた。

私は目を見張った。隣でダリウスの息を呑む声も聞こえる。ルーカスは基本的に冷静沈着で表情を崩さない。私達のことは嫌いでなくとも、今まで笑ってくれることは無かったのに。

「凄く、変わった奴だった。俺は思わず奴に不満をぶつけてしまったんだが、そしたら説教されてな。考えが広がった気がしたんだ。だから俺は次期当主である彼奴の補佐になろうと思っている。」

語っている令息の事を余程信頼しているのだろう。ルーカスは話している時終始笑顔だった。本人はおそらくそのことに気づいていない様だったけれど。

「そうか。それなら安心した。君が進むべき道を見つけられたんだね。」

そう聞くと力強く頷かれた。

「それで、その御令息はパーティーには参加なされないのですか?」

ダリウスの言葉にルーカスは少しだけ顔を曇らせる。

「なんでも、殿下のお目に触れられる様な状態ではない。まだ作法の勉強をしなくてはならない。とか言っている。俺から見た奴は、はっきり言って完璧だったとも思うが。」

「向上心の高い人なんだろう。気にしないでくれ。君の大切な友人なんだ。気長に待つさ。だからちゃんと紹介してくれよ。」

「勿論だ。」

そうして私達はいつも通りお互いの事を話し始めた。

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