悪役令嬢に成り代わったので奮闘しました。だからって貴公子と呼ばれるとは思わなかったんです

工藤麻美

パーティー

今私の目の前で開かれているパーティーの主役が、自分だと言うことが信じられない。

広い会場に多くの人間。その目はこちらを見ているがあまり心地いいものでも無かった。どうにか私にすり寄ろうとする商人の目。次期当主は誰かという好奇心の目。こういうのはまだ良い。問題は他である。

キャンベル家に敵意をもつ者、そして親族の中にも居る次期当主の座を狙う者。ここは王都の中心部だから近辺に貴族も多く、だからこそ人が多い。

「酷いじゃない、クリスチアン。ちゃんと男の子が産まれたのなら母上に教えてくれなくては‥‥。」

この人が私の御祖母様、リコリス夫人。真っ赤な口紅が印象的な人だ。今は父上と満足げに話している。

「申し訳ありません。母上を驚かせたかったので。」

「まあ、悪戯っ子なのは変わらないのね。エリーネも良くやったわ。」

「光栄でございますお義母様。」

父上との話が終わったようで、リコリス夫人はこちらに視線を移した。

「それにしても、孫というのは本当に可愛いのね。名前を教えてちょうだい?」

男を誘惑するかの様なその声は、あまり好印象を抱けるものではなかった。しかしそういう訳にもいかないので、私は笑みを貼り付けて挨拶をした。

「クリストファー・キャンベルと申します。この度は御祖母様にお会いすることができて光栄です。ずっと‥‥心待ちにしておりました!」

そう告げていつもより子供らしく、あざとく振る舞えば夫人は気分が良くなったのか、笑みを深めて私に手を伸ばした。

「まあ!クリスチアンの幼い頃によく似ているわね。私も貴方の顔が見れて嬉しいわ。」

私の頬に触れ目もとに指をすべらせる。ゾクッと寒気と冷や汗が私を襲った。出来ることなら今すぐにでもこの手を払いのけたいのだが、必死に耐えるしかない。

「くすぐったいです。御祖母様。」

「ふふっ‥‥まだ良いじゃなぁい。と言いたいところだけれど、今日は挨拶しなければならないお客様が多いから、またゆっくりお茶でもしましょうね。」

「はい、是非!」

私の返事に満足した様に最後頬を一撫でして、夫人は人混みの中に消えた。そういえば祖父は来ないのか、まあ会いたい訳ではないけど。

「やあ、義兄さん!」

急に父に声をかけてきた男性。"にいさん"とは言ったが父と風貌は似ていない。吊り目の父と対照的なタレ目だ。なら義理の兄弟‥‥。

そこまで考えて確信した。私の目の前に現れた少年によって。

「息子のルーカスだ。先々月、誕生日を迎えて10歳になった。そちらのお子さんと同い年だろう?」

やはり彼はルーカスの父親、つまり私の叔父にあたる人物。血は繋がっていないが。

「ああ。親戚に同じ年の子が居て安心したよ。これで学園に行っても安心だな。」

そうか、学園に入ったらルーカスとは同級生になるのか。そこからゲームが始まるんだよなぁ。

「クリス。こちら私の義弟のリチャードとその息子のルーカス君だ。」

父に紹介され、一歩前に出て二人の正面に立つ。

「クリストファー・キャンベルです。どうぞよろしく。」

「ルーカス・キャンベルだ。よろしく。」

出来るだけ愛想よく振る舞ったつもりだが、相手はそれだけいいふいっとそっぽを向いてしまった。

‥‥可愛くない。

「親睦を深めるためにも二人で話してきたらどうだい?」

叔父の言葉に思わず目を見張る。今日の主役は不本意ながら私だ。だから私は当主である父と挨拶に回らなければならない。けれど父は叔父の言葉に賛成し、私とルーカスを送り出した。

「クリス、薔薇園に案内してあげなさい。」

そう言われると逆らえないので大人しく従い、ルーカスの腕を引く。すると彼はビクッと体を震わせた。やっと子供らしい反応したな。

「行きましょう?ルーカス。」

相手が小さく頷いたので私は歩き出す。そしてどういうつもりなのかと父上の方を見やる。

「‥‥っ」

すると叔父がこちらを冷たい目で見ていた。先程からは想像がつかない顔で。顔からして私がそちらを見ているのは気づいていない様だけど。

それよりも声を出しそうになったのは父上の顔だ。普段とはまるで違う、冷たい印象の顔を最大限生かしたかの様な表情で叔父を睨みつけていた。勿論、叔父は気づいていない。

怖い!父上怖いです!

心の中で叫んでみるも伝わるはずもなく目をそらした。


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