悪役令嬢に成り代わったので奮闘しました。だからって貴公子と呼ばれるとは思わなかったんです
これから
母上が出て行った後、私はいつも通り父上の向かい側の席に座った。
「良いのか、クリスティーネ。」
父上は重く引きずる様な声でそう言った。今この部屋には私と父上と秘書のアラン殿しか居らず、ユーリは部屋の外に居る。父上のその言葉で部屋は静寂に包まれた。
なんで、とかやめろ、などと言わなかったのは父上も今この状況をよく理解しているからである。外交長官を務める父上は頭の回転が速く、私にとっての誇りだった。そして家族の中で唯一、クリスティーネに無条件の愛を注いでくれた。
「はい、もう今しかないのです。幸い、親族の方々にも私の存在はまだ知られてはいません。それに今なら父上と私、そして信頼できる部下以外を欺く事が出来ますから。」
屋敷の使用人達はずっと前からこの屋敷にいる訳ではない。まだキャンベル家の人間と話した事のない者、この家の知らない者達だけだ。ならば、クリスティーネは違う領地に行ったと説明すれば誰も疑問を持たない。
「それに、母上ももう限界でしょう。これ以上あの人を追い詰めれば壊れてしまいます。」
「‥‥男として生き続ける事が出来るか?」
「はい。」
「途中でやめるのは無理だぞ?それでも本当に?」
「はい、承知しております。」
はっきりと父上の目を見てそう言えば強張った父上の顔がいくらか緩んだ。そしてその瞳は悲しそうに揺れた。
「すまない。お前に背負わせてしまうことになって。」
父上は私にそう言って頭を下げた。初めて見た父上の謝罪。それを見て私は慌てて声を上げた。
「おやめください!父上の非ではありません!」
そう言えば父上はゆっくりと顔を上げて、そして目尻を下げ笑った。
「ありがとう。お前は優しい子に育ってくれた。父として、本当に嬉しい。令息として、これからやらなければならない事は沢山ある。決して怠るな。」
「承知致しました。」
「じゃあ食事をしよう。好きなだけお食べ。」
立派な当主としての話が終わったら、今度は子供に優しい父親になった。場を弁え、私のことを考えてくれる父が私は大好きだ。
いただきます、そう心の中で唱え食事にありつく。やはり公爵家と言うべきか、一流の味がする。父上から仕事先の話を聞き、アラン殿からはまた違った目線から見た話を聞いた。
食事が終わり一息ついた後、私は考えた。まず今年度末に開かれるパーティーまでに私は礼儀作法、ダンスについて叩き込まなければならない。他に公爵令息として剣術も学ばなければならない。剣術を学ぶ相手は‥‥
「お呼びでしょうか。おじょ‥‥坊っちゃま。」
「ああ、ルドルフか。急に呼び出してすまない。父上から話は聞いているな?」
部屋に入ってきたのはルドルフ・バトラー。私が幼い頃からこの屋敷に仕えている三人のうちの一人。あと二人は先程も居たアラン殿とユーリ。
「はい、旦那様から知らされた時は大層驚きました。ですが、私が仕えるのは貴方様のみ。例え貴方が何を偽ろうとも貴方様をお守りします。」
こんな具合で、彼は何故か私に忠誠を誓っている。理由は知らない。教えてくれと言っても曖昧に微笑んで誤魔化されるだけだ。
私の従者である彼は元は騎士である。従者になるのは勿体ないと言われるほどの実力者であったとは聞かされていた。納得せざるを得ない鍛え上げられた肉体とその目に宿る強い決意。彼には何度も頼ってしまった。
「私はこれから剣術を学ばなければならない。従者ではなく師として、私に剣を教えてくれるか?」
彼の褐色の瞳を見つめる。すると彼は礼をして勇ましく答えた。
「このルドルフ。全力をもって教えさせていただきます。」
 
「お手柔らかに。」
私は屋敷を出ないからと、ルドルフはしばらく辺境の地へ赴いていた。だから久しぶりの会話だが相変わらずの様でどこか安心した。
「良いのか、クリスティーネ。」
父上は重く引きずる様な声でそう言った。今この部屋には私と父上と秘書のアラン殿しか居らず、ユーリは部屋の外に居る。父上のその言葉で部屋は静寂に包まれた。
なんで、とかやめろ、などと言わなかったのは父上も今この状況をよく理解しているからである。外交長官を務める父上は頭の回転が速く、私にとっての誇りだった。そして家族の中で唯一、クリスティーネに無条件の愛を注いでくれた。
「はい、もう今しかないのです。幸い、親族の方々にも私の存在はまだ知られてはいません。それに今なら父上と私、そして信頼できる部下以外を欺く事が出来ますから。」
屋敷の使用人達はずっと前からこの屋敷にいる訳ではない。まだキャンベル家の人間と話した事のない者、この家の知らない者達だけだ。ならば、クリスティーネは違う領地に行ったと説明すれば誰も疑問を持たない。
「それに、母上ももう限界でしょう。これ以上あの人を追い詰めれば壊れてしまいます。」
「‥‥男として生き続ける事が出来るか?」
「はい。」
「途中でやめるのは無理だぞ?それでも本当に?」
「はい、承知しております。」
はっきりと父上の目を見てそう言えば強張った父上の顔がいくらか緩んだ。そしてその瞳は悲しそうに揺れた。
「すまない。お前に背負わせてしまうことになって。」
父上は私にそう言って頭を下げた。初めて見た父上の謝罪。それを見て私は慌てて声を上げた。
「おやめください!父上の非ではありません!」
そう言えば父上はゆっくりと顔を上げて、そして目尻を下げ笑った。
「ありがとう。お前は優しい子に育ってくれた。父として、本当に嬉しい。令息として、これからやらなければならない事は沢山ある。決して怠るな。」
「承知致しました。」
「じゃあ食事をしよう。好きなだけお食べ。」
立派な当主としての話が終わったら、今度は子供に優しい父親になった。場を弁え、私のことを考えてくれる父が私は大好きだ。
いただきます、そう心の中で唱え食事にありつく。やはり公爵家と言うべきか、一流の味がする。父上から仕事先の話を聞き、アラン殿からはまた違った目線から見た話を聞いた。
食事が終わり一息ついた後、私は考えた。まず今年度末に開かれるパーティーまでに私は礼儀作法、ダンスについて叩き込まなければならない。他に公爵令息として剣術も学ばなければならない。剣術を学ぶ相手は‥‥
「お呼びでしょうか。おじょ‥‥坊っちゃま。」
「ああ、ルドルフか。急に呼び出してすまない。父上から話は聞いているな?」
部屋に入ってきたのはルドルフ・バトラー。私が幼い頃からこの屋敷に仕えている三人のうちの一人。あと二人は先程も居たアラン殿とユーリ。
「はい、旦那様から知らされた時は大層驚きました。ですが、私が仕えるのは貴方様のみ。例え貴方が何を偽ろうとも貴方様をお守りします。」
こんな具合で、彼は何故か私に忠誠を誓っている。理由は知らない。教えてくれと言っても曖昧に微笑んで誤魔化されるだけだ。
私の従者である彼は元は騎士である。従者になるのは勿体ないと言われるほどの実力者であったとは聞かされていた。納得せざるを得ない鍛え上げられた肉体とその目に宿る強い決意。彼には何度も頼ってしまった。
「私はこれから剣術を学ばなければならない。従者ではなく師として、私に剣を教えてくれるか?」
彼の褐色の瞳を見つめる。すると彼は礼をして勇ましく答えた。
「このルドルフ。全力をもって教えさせていただきます。」
 
「お手柔らかに。」
私は屋敷を出ないからと、ルドルフはしばらく辺境の地へ赴いていた。だから久しぶりの会話だが相変わらずの様でどこか安心した。
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