悪役令嬢に成り代わったので奮闘しました。だからって貴公子と呼ばれるとは思わなかったんです

工藤麻美

令嬢の決意

いつも通り普通に過ごしていた。侍女に起こされ支度をしてお父様とお母様に挨拶する。それから朝食をとり、庭に出て考え事をしているときだった。ふと、妹は今日は遊びに誘ってこないのかなどと考え、そして疑問を抱いた。

妹?何故そんな事を考えたのか、私にも分からなかった。私はこのキャンベル家の一人娘であり妹など居ないはず。
そこまで考えて、それを忘れようとした瞬間、驚く量の情報が流れ込んできた。

___ちゃん‥‥‥ねぇちゃん

「お姉ちゃん!」


「どうしたの由梨、そんなに慌てて‥‥」

いきなり私の部屋に駆け込んできたのは妹の由梨。明るくて活発な中学二年生。私の言葉を聞くと頬を膨らませた。

「もぉ!忘れたの?今日は由梨と一緒にゲームするって約束したでしょ!ほら早く!」

由梨は私の腕を引っ張ってテレビの前のソファに座ると、ゲーム機に電源を入れた。

「このゲームに出てくる王子様、すっごくかっこいいんだよ!お姉ちゃん、彼氏作る気ないならせめてゲームだけでも恋愛しなよ!」

それは方向性が違うような気がしたけれど、まあ可愛い妹の誘いだし断る理由もない。私達姉妹は他の家の姉妹より仲が良いと思う。自分で言うのもなんだが、妹はかなりのお姉ちゃん子だから可愛くて、ついつい甘やかしてしまう。

「ねぇこのアレクサンドル王子、超カッコよくない!?最近のゲームでは腹黒王子とか色々出てるけど私はやっぱり王道の甘々な王子が良いなーっ。」

妹が指差す画面に映るのは金髪碧眼のまさに王子。御伽噺にでも出てきそうなその見た目は確かに女性ファンにも好かれるだろうな。

ゲームを進めていくうちにヒロインを虐める女の子が出てきた。こちらは綺麗に巻かれた銀髪、吊り上がった紫色の目。この子も綺麗な顔をしてる。まぁ王子の優しそうな顔とは違い、気が強くてプライドの高い感じがするけど。

「あーっ出たこのキャラ。こいつ王子の婚約者なんだけどさー、つくづく邪魔してくるんだよね。名前が___」

「クリスティーネ・キャンベル‥‥!?」

あの日、妹が言った名前を口にする。それは確かに私の名前だった。側に付いている侍女が訝しげにこちらを見ている。当たり前だ、自分の主人がいきなり自身の名前を言って驚いたのだから。

こんな事、現実にあるんだ。そう思いながら自室のベッドに倒れこんだ。

あの後、侍女は誤魔化して今後について策を練った。どうにかして婚約を避けないと私の未来は絶望的だ。よくて追放、悪くて死刑だから。ゾッとする。

ここは公爵家だ。確かに王子婚約者候補に挙がってもおかしくは無い。だが逆に公爵家だ。本来、無理に玉の輿に乗る必要もない。しかし、それも覆される。

もう一度言うが私はこのキャンベル家の一人娘だ。兄も弟も居ない。元来、この国では爵位を継ぐのは男子とされる。つまり、私の家には次期当主が居ないのだ。

そこで私が王妃になればキャンベル家の当主が領地経済に慣れていない親戚達でも、王族の加護でなんとかやっていける。だからクリスティーネは王子の婚約者となったのだ。まぁ、1番の理由はクリスティーネが王子にゾッコンだったからだろうけども。

改善策が見当たらない。大体、そんなにゆっくりと考えている暇は無い。今私の家は荒れているから。

その原因は先程も話した次期当主にある。私のお父様とお母様は運が悪く、中々子供に恵まれなかったらしい。そしてやっと産まれたのも私、クリスティーネだ。

次期当主を産めないなんて出来損ないだ、と父方の親戚はお母様を罵った。お父様は気にするなと言ったけれども精神の弱いお母様は壊れてしまった。私を見ると、貴女が男の子だったら良かったのに‥‥と私に言ってくる始末だ。

その分お父様はとても愛してくれた。仕事で不在の事が多いが、帰ってくるとたくさんのお土産と他の領地の話を私にくれた。だから不幸という訳では無かった。

けれど、母親の愛情が要らなかった訳でも無い。母に冷たくされるのは子供の私にとっては耐え難いものだった。それがクリスティーネをあんな悪役令嬢にした原因だろう。

ヒロインに王子を取られるのに納得がいかないのも分かる。身分だってクリスティーネの方が断然上。嫉妬していたのも認めざるを得ない。だが一番は、只々怖かったのだ。王子の愛情を取られるのが。

ならば、まずはこの家庭状況を改善するのが先だろう。どうすれば良い‥‥次期当主をこれから産めと頼む訳にもいかない。そんなのはお母様にただ圧力をかけるだけだ。ならば次期当主を作る‥‥いや、私が成るんだ。次期当主に!

それがこの世界に来て私が最初にした決意。




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