天才と秀才と馬鹿の話 (画像はイメージです)

つんつくん准将

第17話 昔話と受け継がれる心

 腐敗した大地。

 燃え盛る業火。

 陽の光を遮る黒雲。

 深い、深い谷の底は

 雲が無かろうが光が届くことはない。

 ここは、深淵の幽谷。

 この土地の呼び名がもう一つ。それは、どの種族にも共通している。

 この世界の知的生命体は、口を揃えて...いや、言語を話せない生物ですら、その低い知能でこう思っているはずだ。


──〈天と獄の境界〉と。


 そのような場所に、普通生物など居るはずもない。

──は。

 
 「あーあ、早く帰ってこねぇかなぁ、ボス♪」

 声が、反響する。

 「なぁ、お前もそう思わねぇか?」

 「うん、うん!」

 影が二つ。厄災が二つ。

 
──かつて、この地は緑豊かな草原であったそうな。

──かつて、この地で戦が起こったそうな。

──曰く、神々の戦乱。曰く、最初で最後の破滅。

──天使ヴィーナス虐殺救いを。女神ヴァルキリー祝福狂気を。自然ウルズ消滅やり直しを。それぞれの意思に狂おしいほど従順に従った。

──そして、青年ソロモン終焉黒雲を。神々を操っていた“太陽”の形をした“混沌カオス”を空の彼方へと封じ込めた。

──かくして、神々は正気に戻り、それぞれの世界へと......神々は己の愚行を悔やみ、戦地を豊かな大地へ再び戻そうとした。しかし、混沌に侵食されてしまった大地を蘇らせる事は、自然ウルズでもできなかった。


 これが、この土地の伝説として残されている物語。
 後にこの戦乱は〈天地戦アマジイクサ〉と呼ばれた。
 そうしてできたのが〈深淵の幽谷〉。


──さて、昔話が少し長くなってしまった。話を元に戻そう。


 伝説に出てくる神々、その内の二体。

 彼らは不運にも、混沌に心と身体を侵食された。

 いや、彼ら自身は幸運・・だと思っている。


──彼らの名前は、双子アダムとイヴ

 生命の創世者として崇められている一対の神。
──だがそれはもう昔の話。

 今は混沌の魔獣に仕えし五の下僕の内の二人。

 「あの時はさ、退屈だったよな」
 「そうだよね、そうだよね!」

 「でもさ、戦の時は楽しかったよな♪」
 「たっくさん、殺せたね!!」

 「ボスがまた今度、戦を起こしてくれるってさ!
──俺、今すっげぇ楽しみ♪」
 「右に同じっっ!」

 双子は微笑み合いながら欲望を語る。

──と、その時。彼らの前に巨大な獣が現れた。

 「なぁに?君も、ボスに汚されたの?」
 「そうっぽいな♪」

 三つ首の狼──が三つ。計九の顔を持つ奇形種キメラ
 「えーっ、ちょっと気持ち悪いなぁ....」
 「確かに、でも姿は好きだぜ♪なんかカッケェ!」

 グルルルル....という警戒音が七つほど聞こえた。
 その声が谷に響き渡る。

 「うるせぇぞ犬っころ♪今なら見逃すぜぃ?」
 「兄ちゃんかっくいー!」

 尚も余裕綽々な様子に狼は激怒し、鉤爪で薙ぎ払う。
 その攻撃は無情に、双子の身体を足先だけを残して消し飛ばした。

──と、狼が認識した時には、自らの頭が一つになっていた。

 「ガァッ!?」


 「──何が起こったのか?って顔だねぇ♪」
 「──これだから殺しはやめられないっ」

 潰したはずの双子が、一つとなった視界に映る。

 「「死んじゃえっ!」」

 先ほどの薙ぎ払いとは比べ物にならない衝撃が、幽谷を揺らした。




 「待ってんのも退屈だしさ〜、ボス迎えに行かね?」
 「さんせいさんせーい!!」

 アダムが〈千里眼〉を開く。

 「ねぇねぇ、ボスは今何処にいるの?」
 「ちょっと待てよマイシスター♪探してっから」

 ボロボロに朽ちた肉片の上でまた笑い合う。

 「みっつーっけた♪」
 「何処!?何処なの!?」

 「なかなか面白い所にいるじゃねぇか、楽しそうだな♪」
 「じゃあさじゃあさ!私たちも行こうよっ!」
 「はじめっからそのつもりだぜ♪」
 「わーい!殺学旅行だぁーい!」

 霧がかった幽谷には、二人の笑い声だけが響いていた。




【じゃあ行くよっ!!】
【いつでも準備は出来てる...!】

【──ここだっ!!!】


 シュッ....っと短い音が聞こえた時には、俺達は巨大な扉の前にいた。

【ここが.....〈精霊の間〉】
【僕らが反乱を起こした時しか入った事ないね。ちゃんと見るのは初めてだよ】

 俺とバアルはあの後、どうにか醜い妖精スプリガンの隙を突きここへと飛び込んで来た。
 気配が無い.....幸い俺達の場所は知られていないようだ。

【さっさと地上へ降りるぞ】
【あぁ、勘づかれたら不味いからね。サッ!って入ってシュバッ!って行こう】
【その効果音はなんなんだ】

 しかしバアルは気にもせず、じゃあと話を戻す。

【せーので開くよ。はいっ、せーのっ!!!】


──ゴォォォオン.....と音が響く。


〈──やあ、待ってたよ〉

 俺達は円卓に足を組み、座っている妖精が居ることに目を疑った。だがそれも一瞬の事。

 転移門に即座に駆け出す、がしかし。

〈待って待って、逃がすとでも思ってるの?〉

 気がついた時には円卓の上には姿がなく、背後に回り手を掴まれていた。

 ここで逃げられなければ、確実に死ぬ。そう本能が告げていた。
 
──ここで、死ぬのか?戦うこともできず、逃げることすらできずに。

──ゼパルは溜めていた魔力を解放してまで、奥の手を使ってまで一時を凌いでくれた。

──俺も、それに.....応えるべきだろうがッッ!!!


 【──出てこいッ!!海神の下僕リヴァイアサン!!】

 刹那、掴まれていた腕から一匹の水龍が姿を現し、妖精の腕を噛み砕く。

〈っ....!?〉

【ゼパル!走るぞ!!】
【う、うん!!】

 走りながら後ろを見ると、今なお水龍は妖精の腕を噛み砕き、肩にまで登っていた。

〈──ふざけた真似を......!〉

 そんな声が聞こえた頃には、俺達は転送門の目の前まで来ていた。
 
【逃げ切れるッ!!】
【手を貸して、フォカロル!!最後の力を使うよ!】

 ゼパルが音を置き去りにする速さで、俺の手を引っ張った。

【......行けるッ!!!】


──その時、目の前の空間が歪んだ。

 そこに現れたのは、まだ動けないはずのバティン。

 〈空間女王〉の異名を持つ悪魔。
 能力は、〈空間転移〉。見える場所ならば一瞬でそこに転移できる。また、対象を自分の作ったゲートを通すことができる。
 だが〈精霊の間〉の扉は閉まっており、俺達を見ることは不可能なはずだ。

【ゼパル、どうするん......】

【構わず突っ切る!!理由を考えてる暇なんかない!!!】

 だがバティンがそれを許さない。俺達はバティンのゲートの中へといざなわれた。


──終わった。もう逃げることは叶わない。
──足掻きに足掻いたが、もうここまでか........。ニンフ、もう一度お前に会いたかっ.....



【何言ってんだい。早く行ってきな】



 それは、間違いなくバティンの声。


 ゲートを通った後に俺達がいたのは、転移門の内側だった。


【あんたらに賭けたよ。いつかコイツをぶちのめしてやってくれ】

【なっ、バティン...!?】

 一瞬バティンが何をしたのか分からなかった。凍結した思考を解凍したのは、ゼパルの言葉だった。

【バティン....君が僕達をここへ....?】

 そう、他でもないバティン自身が、転移門の内側へと俺達をワープさせたのだ。


〈ば.....バティン!!!貴様ッッッ!!!!〉


 ようやく水龍から解放されたスプリガンが、鬼の形相でこちらへと飛んでくる。

【早く行きなっ!!】

【だがバティン!お前はっ....】

【アンタたちに心を動かされたよ。アタシもアンタたちみたいに、少しは足掻いてやるさ。逃げ足だけは速いからね!】

【ダメだ、バティン!いくらお前でも逃げ切れっ...】

【──フォカロル、行こう】

 ゼパルの顔が横に振られ、転移門が白く光る。
 その白い光の先で、未だにバティンはこちらを見て微笑んでいた。

 本当は分かってる。バティンも俺もゼパルも、まともに戦っては命を落とす事を。

 だが、諦めきれない自分がいる。手を伸ばし、身体を前へ進ませようとするが、ゼパルに止められる。

【お前っ──】
【覚悟を無駄にする気か?あの時のサラマンダーのように】

 あの日、ニンフが一人、俺達に向かい合った日。サラマンダーは俺と同じように助けようとし、それを残りの二人の妖精によって止められた。

【行きたいならば行けばいい。バティンの覚悟を無駄にしたいなら】

 何も出来なかった。届かなかった。

【きっとバティンも、ニンフと同じように無事帰ってくるさ】

【そう、だな.....】

 だが、信じる事はできる。

【絶対に、生きて帰ってこい!!バティン!!!】


【──もちのろんよ!】

 そうして転移門は、更なる光に包まれた。




 どうもおはこんばんちわ!つんつくん准将です!
 今回もお読み頂きありがとうございます!!
 
 そして、今日はこの場をお借りしてお礼を申し上げたいと思います!!
 気が付けば、一話投稿当時の目標だったフォロワー50人を優に超え、66人!!総合で70人もの方々にフォローして頂いておりました!!
 本当に感謝感激ですっ!!文も内容もまだまだ未熟者な僕ですが、どうか今後も付き合って頂けると嬉しいです!!!


 それと、あと一週間と少しで受験がありますので、再び投稿は遅くなります(勉強しろ)。それが終われば、また書きまくりたいと思っておりますので!皆様どうか宜しくお願いします!!m(*_ _)m

 次回は長らく保管されていたAnother Storyを投稿します!お楽しみに!!

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