天才と秀才と馬鹿の話 (画像はイメージです)

つんつくん准将

第14話 覚醒点

《うーむ.....そうだなぁ、全員やっちゃうと面白くないから.....》

暗闇で一つ動く物陰。

《どれにしようかな...決めた、この人にしよう♪︎》

それ・・はイキイキとした顔で、唯一光を発している物に触れる。

そして、いとも容易く。

《はい、消去っと♪︎》

世界の摂理に干渉したのだった。




「は...?兄さん......?」

目の前の光景をまず疑う。


『タケル......?』


──俺は異世界に来ているはずで。

──兄さんは向こうの世界にいるはずで。


──兄さんは、死んだ筈で.....


『タケルッッ!!しっかりしろ!!』


あれ?死んでないじゃないか、何を言ってんだ俺は?

だって俺がこの世界に来てからも後ろに.....

あれ、いない?

兄さんはとっくの昔に死んでたのか?
だとしたらなんで死んだんだっけ?

あれ、思い出せない。


「気をしっかり持て!!...まずい、このままじゃと...!」


“お前の.....”



“お前の、せいで.....”



なんだ、兄さん。また後ろにいたのかよ?

何を呟いてんだ?



「タケル!?どうしたの!!ねぇ!」



“俺は、恨んでる”



何をだよ。今日は様子がおかしいぜ?




“お前が....”



「私の目を見てよ!!タケル!!!!」




















































“お前が、俺を殺したんだ”




ダメだ。
これじゃダメだ。

呼びかけるんだ。

もっと....もっと!もっと!!


「返事してよッッ!!!!」


だがそれでも。
帰ってくるのは風の音だけだった。

お婆ちゃんがこちらに駆け寄ってくる。

「ミサキ、よく聞け。このままじゃとタケルが死ぬやもしれん」

その顔は、冗談を言っているような顔じゃなかった。

「何故かは知らんが、タケルの魔力が急に喪失した。何者かの仕業なのか...そんな事はどうでもよい。
ミサキ、今からオヌシの魔力を抜き取る。それをタケルに補充するから、協力してくれ」

答えは勿論Yesだ。

「なら早速始めるぞい。気を失うかもしれんが、なんとか耐えてくれ...」

視界の端では師匠たちが、倒れてる人の方に行って治療している。あちらは任せてもよさそう.....

「ひゃっ!?」

ビクンッと体が跳ねる。
お婆ちゃんが私の魔力を吸ってるんだ。

なんだか.....内側から魂が抜かれるような...!
痛い、辛い...
それでも、やらなきゃ。

──タケルを、守らなきゃ。




「──ここは.....?」

気が付くと俺は真っ白なだだっ広い部屋に仰向けに寝ていた。

起き上がって周りを見渡す。

「どうなってんだ?さっきまで俺は.....」


キィィィィィィィィィィ──


突如、不快な音と共に頭に痛みが走る。

俺はある事に気付く。いや、起きた時から気付いていた。


自分の事以外、何も覚えていないことに。


「おいおい、どーなってんだ...?」


確認しよう。

俺の名前は新島武。
十七歳のDT。
変態と自負している。

うん、覚えてる。だが....

「友達がいた事は分かってる。けども顔も名前も思い出せねぇんだよなぁ.....」

頭を悩ませていたその時。



『──汝、力ヲ欲スル者ヨ』



何かが、俺に語りかけた。

「んなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

当然ビビリの俺は一目散に逃げる。

『......汝、哀レナ者ヨ』

そこには実態が掴めない大きな光があった。
モヤモヤとしたその身体は、だが俺の身長を遥かに上回っていた。


『汝、過去ヲ消シサラレシ者ヨ』


ビビっていた俺もこの言葉に反応する。


「...なんでお前が俺の記憶が無いことを知ってんだ」


『返シテ、欲シイカ?』


「当たり前だ、お前が奪ったんならはよ返せ」


『......契約、成立』


──は?


『汝ヲ正式ニ我ガ主ト見倣ス』

「い、いやいやいや!ちょっと待て!!」

主?何の話だよ!?


すると光魔人(タケル命名)は会話に手を交えだした。

『我、汝ヘ、記憶、返ス。汝、我ガ、主』

「What do you mean?」(何言ってんだお前?)

『...........言語解読、完了』

「......?」

『I return a memory to you.(我記憶汝ヘ返ス)
and you are made my center.(故ニ汝我ガ主)』

「よし、分かった。とりあえず普通に喋ろう」


──一旦落ち着いて。

「とりあえず、俺の質問に答えてくれるか?」

光魔人はコクリと頷く。

「じゃあ、まず一つ目。ここは何処なんだ?」

『此処ハ汝ノ精神世界』

「精神世界っつーと、まあ俺の中ってことかい」

『左様』

「じゃあなんでお前はここにいんの?」

『我、汝ノ眷属ナリ』

「へ?」

光魔人は数枚の紙を俺に渡した。

一番上の紙には大きく“解説”と書かれてあった。

.......説明書?

「用意周到だな...」

それを開いて内容に目を通す。


【眷属】
世にある概念が生命体として現れたもの。
その姿は他の生命体には視認できない。
しかし、例外として他の生命体に眷属が宿った場合、その二個体間のみの互いの干渉は可能である。


「つまりなんだ?お前は何らかの概念だったけどなんか生き物になってて、俺に付き纏ったってか?」

『似テ非ナル。我、常ニ汝ノ精神世界ニ存在』

「...生まれた瞬間から俺の中にいたってか」

『左様』

「それは俺が元の世界に居た時からか?」

『否。我等眷属ハ何時如何ナル場合モ、時空ノ超越ハ不可能』

「じゃあ俺がこっち来てからなんだな」

俺は再び説明書に目を通す。
続きにはこう書かれていた。


なお、眷属の主になった者は必然的にその眷属の特性等の力を受ける。


「何?お前、俺になんか力くれんの?」

『我、過去ニ汝ヘ認知サセタリ』

そういや力がどうたらとか言ってたな。

「他にも色々聞きたいけど、とりあえずこれで一区切りにするわ。
お前は、なんの概念なんだ...?」


正直俺は、光魔人を舐めていた。
どうせモノマネが上手くなるとかかなとか。
そんなノリだった。

だからこそ驚いた。こいつの正体が.....



『──我、“光”ノ概念ヨリ生マレシ者』



まさか、属性そのものの概念だったなんて。




「......!?」

「ど、どうしたの....?お婆ちゃん....」

私は魔力の吸収にどうにか耐えていた。

「タケルの魔力が回復....いや、以前より上昇しておる.....?」

「私の、魔力のおかげ....?」

「それもあるじゃろうが....この魔力の質はまさか....」


その時、タケルの身体を白い光が包んだ。


「やはりそうか...タケル、お主は......!」

「凄く...優しい光......」

ガーゴイルに襲われた時と同じだ。
この暖かい魔力......

『なっ.....!?』

『おいおい、タケルよぉ...マジかお前』

師匠たちがこんなに驚いているのを見るのは初めてだ。

もう一人の方を診ていた他の四大精霊の人たちもこちらを向き、顔に汗を流していた。




『光の属性眷属、龍神ベレヌスじゃねぇか.....!!』







そうだ。

兄として弟を

俺があいつを見なきゃ

誰があいつを見てやれる?

俺しかいないんだ。

俺しか.....俺しか.....


「思い詰めすぎだっての、兄さん」


ふと、弟の声がした。

「......タケル?」

「あぁ、俺だよ。まさか生きてたなんてな」

「..........違う」

「へ?」

「俺は確かに死んだ筈だ。なのに、なんで.....」

「さあ?知らねぇな。でもさ、別にいいんじゃねぇか?」

「え?」

「生きてんなら、次死なねぇようにすればいい。ただそれだけじゃないのか?」

「何言ってんだ...?お前は俺の死んだ理由を知らないのか?」

「あぁ、知ってるよ。現実に耐えきれなくなったんだろ」

「.........お前は、誰だ?」

俺の弟は、タケルは嘘をつくようなヤツじゃない。

「そっちこそ何言ってんだよ兄さん。俺は俺だろ?」

「あいつは...タケルは、心優しい俺の自慢の弟だ。んな事人に言うような奴じゃねぇ」

俺が死んだ理由が自分自身って事も分かってるはずだ。まあ大半は俺の心の弱さだが。

だが俺は死後、タケルの事を見ていたんだ。
嘆き悲しみ、俺や父さん、母さんの幻を見ているところを。

「..............................」

「お前は...誰なんだ?」

「......ちぇーっ、バレちゃったか〜」

弟の姿をしたそれ・・は段々と姿を変え....



『さあ、話をしようか』


青い鎧を煌めかせる少女がそこに立っていた。





一同がタケルに目を奪われていた時、逆方向から新たな光が彼らを照らした。

『えっ!?』

『シンゴの身体が光に包まれて...回復していってる...!?』

それは他の三人の人間にも異常さが認知できた。

青く光るシンゴの身体は、段々と血行がよくなっていった。

そんな中、ミサキがはっと声を上げる。

「そういえば....タケルが倒れる前、あの人の事を兄さんって....」

その言葉にアリサとハルキが驚く。

「なんという......」

「あの人たち、凄いんだな...」


グノームとサラマンダーも同じリアクションだった。

しかし、彼らは知っていたのだ。
その光が何なのかを。

『兄弟揃ってなんて奴等だよ』

『弟は...龍神ベレヌスを宿し.....』

その声には感嘆と恐怖が混じっていた。



『兄は...海神ノアを宿している.....だと....?』



この場の誰もがその言葉に息を呑む。

『ちょちょ!!どういう事よ!?』

『私もその名は知らないわね』

唯一、四大精霊の中で他世界との交渉を担当し、様々な神を知っている者、グノーム。
そしてその簡単な手伝いをしていたサラマンダー。

『俺達もつい最近知ったんだよ。どうにも、俺達には感知できない力がお前らの世界で働いてる〜って親切な神がその名前まで教えてくれてさ』

『それから...何も害が無かったから...放置していた...』

『でも気になるから、何か手掛かりが無いかちょっと地上に降りたりして色々探してたんだよ。んじゃあある村にそれらしき伝承があったんだ』

『そこに書いてあったのが.....五元素の眷属神だった...』

『黙っててすまん!!でもお前らなら血眼になって探すだろ?それが嫌だったんだ』


人間三人は何を言っているのかあまり分からなかった。
アリサは長生きしているからか、頭を抱え記憶を探っている。

『それでアイツらに宿ったってわけだ。ったく、こんな偶然あるかよ』


──ドクンッ


ハルキの胸の奥で、何かが蠢いた。
だがそれを知るものは誰もいなかった。




暫くすると、二人を包む光が弱まってきた。

と、その時。

「ぁ......」

タケルが小さな呻き声を上げながら起き上が....

「タケルぅ──!!!」

ミサキが飛びついた。


「心配かけないでよー!!!何がどうでって全部説明してもらうからねー!!」


それと同時にシンゴが起き上が.....

『シンゴぉ──!!!』

ニンフが飛びついた。

『心配かけんじゃないわよー!!仮にも私に呼び出された人間でしょ!!?』



そうして異世界で再会を果たした兄弟は....



──ドサッ.....


再び仰向けに倒れたのだった。

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