天才と秀才と馬鹿の話 (画像はイメージです)
第11話 悪魔降臨
★★★───────★★★────────★★★
【世界の核】
【F〇CK!してやられた!!】
【奴めゲートを使いおって!!もう一人異世界人を召喚しておったか!!】
悪魔達が口々に罵り声を上げる中、フォカロルは一人、密かに拳を強く握って喜んでいた。
(よく逃げてくれた.....!)
【まったく...素直になれないやつだな君は】
不意に後ろを振り返るとゼパルが手を頭の後ろで組み、こちらを見ていた。
序列十六位 音神 ゼパル
その幼い容姿からは想像もできない程の魔力を持ち、それを全て音に変えることで音の衝撃波を生み出すことからその名が付けられた。
【逃がすのに協力してあげたよ。君の頼みだからね】
得意げに顔を上げるゼパル。
【......そんな事を頼んだ覚えはないが】
【いや、顔に思いっきり書いてあるよ】
「はぁ〜」と小さなため息をして、ゼパルは呆れ顔で言う。
【それにしても、ホントこいつら頭大丈夫か?
仮にも七十二柱の一柱なら魔力探知くらいしっかりしろよ】
【お前ほどの魔力感知の持ち主はなかなかいないだろ。.....だが敢えて泳がせた奴もいる筈だ】
【いるに決まってるよ。序列一桁の奴らに関してはあの情緒不安定勢なんか足元に及ばないからね。
......特にバルバトスなんか、僕の感知能力を唯一上回るから、あれはわざと見逃してるね】
本当にいけ好かない奴だ。
今も見える所にいて、序列一桁の者のみ座れる十の玉座の内の一つに座っている。
序列八位 自然界の主 バルバトス
アイツの声を聞いた事のある者はあの風妖精くらいらしい。
【......絶対何か企んでる】
【それは僕らもでしょ?】
声を最低限落として話しかけてくる。
そう、俺達は主の救出計画を企てていた。
と言ってもまだまだ初期段階である。
この計画を実行する理由は二つ。
一つは、あの嘘くさい闇妖精。
正直ソロモン様の生まれ変わりと名乗る者が現れた時、我々は違和感を覚えた。
魔力は同じだ。容姿だって面影が少し残っていた。だが.....
──違う。
直感的にそう感じた。根拠なんてなかった。けれども何かが違うのだ。
いや、本当は分かっているのかもしれない。
〈やぁ、フォカロル。久しぶりだね〉
あの死んだ魚のような真っ黒な目で手を差し伸べられた時、ソロモン様と初めて会った時の事を思い出した。
〈君、名前は何ていうの?.....フォカロル、か!いやー、素晴らしい魔力だよ!!生まれてきてくれてありがとう!フォカロル!!〉
その目は新たな出会いの希望を帯びたキラキラした目だった。
だから闇妖精に手を差し伸べられた時。
戦慄した。
【お前は.....誰だ......?】
〈ん?何か言った?〉
【い、いえ、何もございません.....お帰りなさいませ、我等が主よ.....】
あの時つい発した言葉。
ゼパルがかき消してくれなければ今頃どうなってたろうか。
とにかく、アイツとソロモン様は違うんだ。
だから何者かを見極めるためというのが一つ。
二つ目は、他の悪魔と再び過ごすことに虫唾が走ったからだ。
それはゼパルも同じだし、他にもそう感じてる奴はいると思う。
ただの自己中、王様気取り、ぶりっ子......
邪魔でしかない。
俺達はただ、ソロモン様の指示だろうと
──主と一緒にいたかったんだ。
具体的な計画はまだ立てれていない。
とにかく今、主達はあの闇妖精を倒すために、魔力を蓄積していることだろう。新たな戦力も見つけているかもしれない。
俺達に出来ることは悪魔共を足止めすることだ。
そう思った矢先。
ゲートが開く音がした。
【なっ.....】
【....命令もないのに独断で行ったヤツがいるのか】
ふと先程までの気配が無いことに気づき、後ろを振り向く。
玉座にはさっき見た時には九人中六人が座っていたはずだ。
そこには空席が四つあった。そして.......
【......バルバトスはどこだ?】
最も警戒していたヤツの姿が無くなっていた。
★★★───────★★★────────★★★
【地上】
「なっ......!?」
そこには二つの影があった。
片方は俺と同じ人間の姿。
もう片方は身体が水で構成されていた。
『──ニンフ......』
俺が硬直しているとシルルがその水人間のところに飛んでいった。
『!! シルヴェストル!!』
『あんた...心配かけて......』
二人はお互いに抱き合い、シルルは涙を流し、水人間は少し申し訳なさそうな顔をしていた。
「「あのー.......!?」」
すっかりもう一人の存在を忘れていた俺が、そろ〜りと手を挙げ質問をしようとした時、そいつとハモった。
「「.............どちら様?」」
『『それ誰に言ってる?』』
もうわけが分からない。
一度落ち着いて。
『私はウンディーネ。四大精霊の内の一人よ!親しい人からはニンフって呼ばれてるわ』
ここで俺はニンフを妊婦と勘違いした。そらするだろ。
隣ではもう一人の人間が少し震えていた。同士がいて良かった....
『私はシルヴェストル。同じく四大精霊の一人よ』
「俺はハルキだ」
うん、他に言うことなんか無い。
そしてラスト一人になった。
「俺は......」
一瞬躊躇ったような素振りを見せた後、確かな決意を持って言い直す。
「俺の名前は新島慎吾。アンタらには色々聞きたいことがある」
『......? 新島.....どこかで....』
シルルが自らの記憶を探った。
その瞬間に──
──二度目の衝撃が大地を震わせた。
迷いの森が揺れる。何かの災いの予兆のように。
表現出来ない禍々しい気配を感じ、空を見上げる。
そこには純青の大空をを黒く染める暗黒の渦があった。
隣にいたサラマンダーが声を上げる。
『おいおい.....もうお出ましかよ』
その額には一筋の汗が滴っていた。
直ぐにミサキとグノームが合流する。
『どうやら...別の場所にも.....もう一体現れたようだ...』
「な、何が起きてるんだよ.....?」
俺は若干すくみながらも二人に聞く。
ミサキも真剣な眼差しで二人を見る。
『悪魔様のご登場だ。お前らは...避難しとけ』
『かつては部下だった者...決着付けるべきは......我等しかあるまい』
二人は同時に固い拳を渦に向けて掲げる。
『『 上等──戦いの幕開けだ! 』』
そうして悪魔が降ってくる。
一つは巨大な醜い鳥の姿。
そしてその上に乗る少年。
序列二十二位 怪鳥 イポス
序列四十四位 偽善者 シャックス
【ん〜?シルのヤツがいねぇなぁ?アイツがいたらテンション上がったんだがなー!クソッ!ハズレ引いちまったぜ】
【ソンナコト、ナイッ!イマワシキヤツ!ココニモフタリイルッ!!】
【こらこら、忌まわしきとか言っちゃダメだろ?仮にも元主だぜ?〈猛進の炎龍〉様に〈絶対防御〉様♪】
【タダノトカゲとタダノカタブツッッ!!】
【だから悪口言うなって!俺達は争うつもりなんざこれっぽっちもないん........】
ドゴォッッッ!!!
と音が二度鳴った。
気が付けば鳥の方が地に顔を伏せており、少年は木の枝に身体を預けていた。
『ごちゃごちゃと!!』
『五月蝿いヤツらだ.....!』
『俺は鳥の方!』
『ならば我はこのクズ』
短いやり取りの後、瞬時に二手に別れる。
【おいおい、人の話は最後まで聞こうぜ?争わずに終わればそれでイイじゃねぇか】
木の葉に蹲りながら笑顔を見せるシャックス。
『貴様....それでどれだけの命を奪った?』
【おろ?何のことかさっぱり分かんねぇな。とりあえず....そうだな。そこの人間の女をくれ】
『くだらん。遺言はそれだけか』
【生憎死ぬつもりは無いんでね、んじゃ貰ってくよ?】
いつの間にやら俺の隣にいたミサキがあの悪魔の肩に乗せられていた。
「なっ!?み、ミサキ!!」
【残念だったな、レディはちゃんと見守っとけよ!一旦引くぞイポス!!】
叫びながらサラマンダーが戦っている方へ飛んでいく。
『.........(スッ)』
グノームが手をゆっくりと上げる。
すると突如、縦数十メートル、横は数キロにも及ぶ巨大な岩肌がシャックスの前に現れた。
【嘘だろ!?詠唱もなしにこんなの...】
『ありだ』
躊躇ったのを見逃さず、瞬時に背後に回り下方向に思いっきり殴る。
宙に浮いたミサキを受け止め、シャックスが地に着地する寸前、グノームが詠唱する。
俺はこの時、いつかサラマンダーが放った言葉を思い出した。
──魔法は基本、印が必要だ。まあ詠唱でもいいが。
──達人クラスになると印がなくても発動できるようになる、威力は減るがな。
──俺の場合、印を唱えれば森を焼き尽くしかねん
そして2%の威力で大空を舞うほどの出力を出した。
つまり印、詠唱は本気中の本気。そんなのが発動したら.......!
俺が声を上げて婆さんに逃げるように言った時にはもう遅かった。
『大地 七型 巨岩──』
巨大な岩石がグノームの周囲に集まり、
『浮遊 二型 自由操作──』
それらがグノームの意思によって宙を舞う。
今も尚、遠方からグノームに集まっている岩石の数は計り知れない。
『重魔法 岩の庭園──!』
集まった全ての岩がシャックスに向けて放たれる。
シャックスに待っているのは最早死のみであった。
【ありゃりゃ、こりゃあ参ったわ】
無理矢理笑顔を作るシャックス。
【...死ぬ前に一度は、善人になってみたかったな】
岩の先端に真紅の液体が付着した。
【カベッ!カベッ!ジャマジャマ!!】
『相変わらずうるせえなあ、もうねんねしろや』
【ウルサイ!ノハ!ドッチ!!?】
『お前しかいねぇだろ......がッ!!』
拳を握りもう一度地に叩きつける。
『....できれば元主として、あんまり戦いたくねぇんだよ』
そう言いながら地に伏せているイポスに歩み寄る。
『今逃げれば見逃してやる。もう一度向かってくれば容赦はしねぇ。選びな』
【オマエハ.....ドコマデ....】
イポスは大きな翼を広げ再び空を舞う。
【ニゲナイ!スプリガンサマノタメ!ソロモンサマのタメ!!】
その目には諦めの念は一切無い。
それを見たサラマンダーはニヤッと笑い、
『そう来なくっちゃお前じゃねぇ』
サラマンダーも飛んだ。
その後の戦闘は激しいものだった。
空中で拳と鉤爪が
脚と翼が
額と額がぶつかり合った。
『んじゃま、これで終わりだ』
印を結ぶサラマンダーを見て、イポスも詠唱をして迎え撃つ準備をする。
『.....最後に一つ、言いたい事がある』
膨大な魔力を練りながらサラマンダーは独り言のように話す。
『生まれた時からさ、育ててくれて、ありがとうな。
直ぐこの戦いも終わって、楽になるから。先に行っててくれ』
その目は決意と哀れみが混じっていた。
【.....コレデオレガ、シヌトデモ?】
そう言ったイポス自身も分かっていた。この一撃を放たれれば自分は死んでしまうことに。
サラマンダーはそれを聞くとフッと笑って
『そーだな、お前のタフさだけは悪魔の中でも上の部類だったわな』
【タフサダケ....カ。サイゴマデオマエラシイ】
『じゃあ、受け取れ。これが俺の覚悟だ』
結んでいた印を解放する。
『紅炎 三型 太陽の導き──』
イポスの目の前に巨大な火球が現れ、身体を飲み込んだ。
【俺はお前の事を、息子のように思っていた】
ふと、サラマンダーの脳内に直接声が聞こえた。
それは先程までのイポスの声とは違い、とても澄んだ声だった。
【先に行ってるぞ、生きろよ。息子よ】
火球が消えた跡には、一枚の赤い翼が落ちていた。
【う、裏切るのかキサマァァァァァァ!!!!】
純白の翼に漆黒の肌と角を持つ青年。
序列四十九位 天悪魔 クロケルは地上で怒号を上げていた。
そこに対峙する姿が一つ。
大きな緑の兜が顔を隠し、身の丈程ある鎌を持っている男。
【もとより貴様等の仲間になったつもりはない。俺は俺の道を行く、それだけだ】
【ふざけた事を抜かすナッッ!!?】
【風水 九型 自然の反乱】
クロケルが剣を構え、切りかかろうと足を踏み込んだ瞬間、その剣がクロケルの胸部に突き刺さった。
【安らかに眠れ。貴様のような奴でも大地の養分にはなるだろう】
ドサッ と呆気ない音を立ててクロケルは血を流しながら息絶えた。
【......久しぶりだな、主よ】
振り返り、シルヴェストルの方を向く。
『相変わらず、忠誠心が凄いね。バルバトス』
【世界の核】
【F〇CK!してやられた!!】
【奴めゲートを使いおって!!もう一人異世界人を召喚しておったか!!】
悪魔達が口々に罵り声を上げる中、フォカロルは一人、密かに拳を強く握って喜んでいた。
(よく逃げてくれた.....!)
【まったく...素直になれないやつだな君は】
不意に後ろを振り返るとゼパルが手を頭の後ろで組み、こちらを見ていた。
序列十六位 音神 ゼパル
その幼い容姿からは想像もできない程の魔力を持ち、それを全て音に変えることで音の衝撃波を生み出すことからその名が付けられた。
【逃がすのに協力してあげたよ。君の頼みだからね】
得意げに顔を上げるゼパル。
【......そんな事を頼んだ覚えはないが】
【いや、顔に思いっきり書いてあるよ】
「はぁ〜」と小さなため息をして、ゼパルは呆れ顔で言う。
【それにしても、ホントこいつら頭大丈夫か?
仮にも七十二柱の一柱なら魔力探知くらいしっかりしろよ】
【お前ほどの魔力感知の持ち主はなかなかいないだろ。.....だが敢えて泳がせた奴もいる筈だ】
【いるに決まってるよ。序列一桁の奴らに関してはあの情緒不安定勢なんか足元に及ばないからね。
......特にバルバトスなんか、僕の感知能力を唯一上回るから、あれはわざと見逃してるね】
本当にいけ好かない奴だ。
今も見える所にいて、序列一桁の者のみ座れる十の玉座の内の一つに座っている。
序列八位 自然界の主 バルバトス
アイツの声を聞いた事のある者はあの風妖精くらいらしい。
【......絶対何か企んでる】
【それは僕らもでしょ?】
声を最低限落として話しかけてくる。
そう、俺達は主の救出計画を企てていた。
と言ってもまだまだ初期段階である。
この計画を実行する理由は二つ。
一つは、あの嘘くさい闇妖精。
正直ソロモン様の生まれ変わりと名乗る者が現れた時、我々は違和感を覚えた。
魔力は同じだ。容姿だって面影が少し残っていた。だが.....
──違う。
直感的にそう感じた。根拠なんてなかった。けれども何かが違うのだ。
いや、本当は分かっているのかもしれない。
〈やぁ、フォカロル。久しぶりだね〉
あの死んだ魚のような真っ黒な目で手を差し伸べられた時、ソロモン様と初めて会った時の事を思い出した。
〈君、名前は何ていうの?.....フォカロル、か!いやー、素晴らしい魔力だよ!!生まれてきてくれてありがとう!フォカロル!!〉
その目は新たな出会いの希望を帯びたキラキラした目だった。
だから闇妖精に手を差し伸べられた時。
戦慄した。
【お前は.....誰だ......?】
〈ん?何か言った?〉
【い、いえ、何もございません.....お帰りなさいませ、我等が主よ.....】
あの時つい発した言葉。
ゼパルがかき消してくれなければ今頃どうなってたろうか。
とにかく、アイツとソロモン様は違うんだ。
だから何者かを見極めるためというのが一つ。
二つ目は、他の悪魔と再び過ごすことに虫唾が走ったからだ。
それはゼパルも同じだし、他にもそう感じてる奴はいると思う。
ただの自己中、王様気取り、ぶりっ子......
邪魔でしかない。
俺達はただ、ソロモン様の指示だろうと
──主と一緒にいたかったんだ。
具体的な計画はまだ立てれていない。
とにかく今、主達はあの闇妖精を倒すために、魔力を蓄積していることだろう。新たな戦力も見つけているかもしれない。
俺達に出来ることは悪魔共を足止めすることだ。
そう思った矢先。
ゲートが開く音がした。
【なっ.....】
【....命令もないのに独断で行ったヤツがいるのか】
ふと先程までの気配が無いことに気づき、後ろを振り向く。
玉座にはさっき見た時には九人中六人が座っていたはずだ。
そこには空席が四つあった。そして.......
【......バルバトスはどこだ?】
最も警戒していたヤツの姿が無くなっていた。
★★★───────★★★────────★★★
【地上】
「なっ......!?」
そこには二つの影があった。
片方は俺と同じ人間の姿。
もう片方は身体が水で構成されていた。
『──ニンフ......』
俺が硬直しているとシルルがその水人間のところに飛んでいった。
『!! シルヴェストル!!』
『あんた...心配かけて......』
二人はお互いに抱き合い、シルルは涙を流し、水人間は少し申し訳なさそうな顔をしていた。
「「あのー.......!?」」
すっかりもう一人の存在を忘れていた俺が、そろ〜りと手を挙げ質問をしようとした時、そいつとハモった。
「「.............どちら様?」」
『『それ誰に言ってる?』』
もうわけが分からない。
一度落ち着いて。
『私はウンディーネ。四大精霊の内の一人よ!親しい人からはニンフって呼ばれてるわ』
ここで俺はニンフを妊婦と勘違いした。そらするだろ。
隣ではもう一人の人間が少し震えていた。同士がいて良かった....
『私はシルヴェストル。同じく四大精霊の一人よ』
「俺はハルキだ」
うん、他に言うことなんか無い。
そしてラスト一人になった。
「俺は......」
一瞬躊躇ったような素振りを見せた後、確かな決意を持って言い直す。
「俺の名前は新島慎吾。アンタらには色々聞きたいことがある」
『......? 新島.....どこかで....』
シルルが自らの記憶を探った。
その瞬間に──
──二度目の衝撃が大地を震わせた。
迷いの森が揺れる。何かの災いの予兆のように。
表現出来ない禍々しい気配を感じ、空を見上げる。
そこには純青の大空をを黒く染める暗黒の渦があった。
隣にいたサラマンダーが声を上げる。
『おいおい.....もうお出ましかよ』
その額には一筋の汗が滴っていた。
直ぐにミサキとグノームが合流する。
『どうやら...別の場所にも.....もう一体現れたようだ...』
「な、何が起きてるんだよ.....?」
俺は若干すくみながらも二人に聞く。
ミサキも真剣な眼差しで二人を見る。
『悪魔様のご登場だ。お前らは...避難しとけ』
『かつては部下だった者...決着付けるべきは......我等しかあるまい』
二人は同時に固い拳を渦に向けて掲げる。
『『 上等──戦いの幕開けだ! 』』
そうして悪魔が降ってくる。
一つは巨大な醜い鳥の姿。
そしてその上に乗る少年。
序列二十二位 怪鳥 イポス
序列四十四位 偽善者 シャックス
【ん〜?シルのヤツがいねぇなぁ?アイツがいたらテンション上がったんだがなー!クソッ!ハズレ引いちまったぜ】
【ソンナコト、ナイッ!イマワシキヤツ!ココニモフタリイルッ!!】
【こらこら、忌まわしきとか言っちゃダメだろ?仮にも元主だぜ?〈猛進の炎龍〉様に〈絶対防御〉様♪】
【タダノトカゲとタダノカタブツッッ!!】
【だから悪口言うなって!俺達は争うつもりなんざこれっぽっちもないん........】
ドゴォッッッ!!!
と音が二度鳴った。
気が付けば鳥の方が地に顔を伏せており、少年は木の枝に身体を預けていた。
『ごちゃごちゃと!!』
『五月蝿いヤツらだ.....!』
『俺は鳥の方!』
『ならば我はこのクズ』
短いやり取りの後、瞬時に二手に別れる。
【おいおい、人の話は最後まで聞こうぜ?争わずに終わればそれでイイじゃねぇか】
木の葉に蹲りながら笑顔を見せるシャックス。
『貴様....それでどれだけの命を奪った?』
【おろ?何のことかさっぱり分かんねぇな。とりあえず....そうだな。そこの人間の女をくれ】
『くだらん。遺言はそれだけか』
【生憎死ぬつもりは無いんでね、んじゃ貰ってくよ?】
いつの間にやら俺の隣にいたミサキがあの悪魔の肩に乗せられていた。
「なっ!?み、ミサキ!!」
【残念だったな、レディはちゃんと見守っとけよ!一旦引くぞイポス!!】
叫びながらサラマンダーが戦っている方へ飛んでいく。
『.........(スッ)』
グノームが手をゆっくりと上げる。
すると突如、縦数十メートル、横は数キロにも及ぶ巨大な岩肌がシャックスの前に現れた。
【嘘だろ!?詠唱もなしにこんなの...】
『ありだ』
躊躇ったのを見逃さず、瞬時に背後に回り下方向に思いっきり殴る。
宙に浮いたミサキを受け止め、シャックスが地に着地する寸前、グノームが詠唱する。
俺はこの時、いつかサラマンダーが放った言葉を思い出した。
──魔法は基本、印が必要だ。まあ詠唱でもいいが。
──達人クラスになると印がなくても発動できるようになる、威力は減るがな。
──俺の場合、印を唱えれば森を焼き尽くしかねん
そして2%の威力で大空を舞うほどの出力を出した。
つまり印、詠唱は本気中の本気。そんなのが発動したら.......!
俺が声を上げて婆さんに逃げるように言った時にはもう遅かった。
『大地 七型 巨岩──』
巨大な岩石がグノームの周囲に集まり、
『浮遊 二型 自由操作──』
それらがグノームの意思によって宙を舞う。
今も尚、遠方からグノームに集まっている岩石の数は計り知れない。
『重魔法 岩の庭園──!』
集まった全ての岩がシャックスに向けて放たれる。
シャックスに待っているのは最早死のみであった。
【ありゃりゃ、こりゃあ参ったわ】
無理矢理笑顔を作るシャックス。
【...死ぬ前に一度は、善人になってみたかったな】
岩の先端に真紅の液体が付着した。
【カベッ!カベッ!ジャマジャマ!!】
『相変わらずうるせえなあ、もうねんねしろや』
【ウルサイ!ノハ!ドッチ!!?】
『お前しかいねぇだろ......がッ!!』
拳を握りもう一度地に叩きつける。
『....できれば元主として、あんまり戦いたくねぇんだよ』
そう言いながら地に伏せているイポスに歩み寄る。
『今逃げれば見逃してやる。もう一度向かってくれば容赦はしねぇ。選びな』
【オマエハ.....ドコマデ....】
イポスは大きな翼を広げ再び空を舞う。
【ニゲナイ!スプリガンサマノタメ!ソロモンサマのタメ!!】
その目には諦めの念は一切無い。
それを見たサラマンダーはニヤッと笑い、
『そう来なくっちゃお前じゃねぇ』
サラマンダーも飛んだ。
その後の戦闘は激しいものだった。
空中で拳と鉤爪が
脚と翼が
額と額がぶつかり合った。
『んじゃま、これで終わりだ』
印を結ぶサラマンダーを見て、イポスも詠唱をして迎え撃つ準備をする。
『.....最後に一つ、言いたい事がある』
膨大な魔力を練りながらサラマンダーは独り言のように話す。
『生まれた時からさ、育ててくれて、ありがとうな。
直ぐこの戦いも終わって、楽になるから。先に行っててくれ』
その目は決意と哀れみが混じっていた。
【.....コレデオレガ、シヌトデモ?】
そう言ったイポス自身も分かっていた。この一撃を放たれれば自分は死んでしまうことに。
サラマンダーはそれを聞くとフッと笑って
『そーだな、お前のタフさだけは悪魔の中でも上の部類だったわな』
【タフサダケ....カ。サイゴマデオマエラシイ】
『じゃあ、受け取れ。これが俺の覚悟だ』
結んでいた印を解放する。
『紅炎 三型 太陽の導き──』
イポスの目の前に巨大な火球が現れ、身体を飲み込んだ。
【俺はお前の事を、息子のように思っていた】
ふと、サラマンダーの脳内に直接声が聞こえた。
それは先程までのイポスの声とは違い、とても澄んだ声だった。
【先に行ってるぞ、生きろよ。息子よ】
火球が消えた跡には、一枚の赤い翼が落ちていた。
【う、裏切るのかキサマァァァァァァ!!!!】
純白の翼に漆黒の肌と角を持つ青年。
序列四十九位 天悪魔 クロケルは地上で怒号を上げていた。
そこに対峙する姿が一つ。
大きな緑の兜が顔を隠し、身の丈程ある鎌を持っている男。
【もとより貴様等の仲間になったつもりはない。俺は俺の道を行く、それだけだ】
【ふざけた事を抜かすナッッ!!?】
【風水 九型 自然の反乱】
クロケルが剣を構え、切りかかろうと足を踏み込んだ瞬間、その剣がクロケルの胸部に突き刺さった。
【安らかに眠れ。貴様のような奴でも大地の養分にはなるだろう】
ドサッ と呆気ない音を立ててクロケルは血を流しながら息絶えた。
【......久しぶりだな、主よ】
振り返り、シルヴェストルの方を向く。
『相変わらず、忠誠心が凄いね。バルバトス』
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