竜の巫女と光剣使いの剣聖譚
第11話「決意と約束の剣」
太陽が沈もうとして、辺りは茜色に照らされている夕方。
アイルは妹のアリーと、村の子供たちがワーウルフに拐われたと野菜屋のオービックに知らされてから現在に至るまで、村の長フォクスの家へ来ていた。
アイルの他にも拐われた子供達の親や、若い青年たち。フォクスと同じくらいの歳の爺さん達がフォクスの家に集まった。
「それじゃ駄目なんだ!今すぐにでも助けに行かなきゃいけない!」
親達の代表らしき1人の男が机を勢いよく叩いてそう怒鳴った。事が大事であるので、かなり顔を赤くしている。
「しかし、無策で魔物の巣食う森に入るのも危険じゃ。それにもう日が暮れる。夜は魔物が活性化する時間帯じゃ。どれだけ怪我人が出るか分からん」
村の老人の1人がそう言う。
「だからって!俺たちの子供を!見捨てるって言うのか!?」
「そうは言っておらんじゃろう。何も考えずに入ったら危ないと言っておるのじゃ!」
タノンの炎が起こってからこのタノン村では平和が続いていた。少し事件があっても、大した事は起きず、殺人窃盗などの事件は一度たりとも起きはしなかったのだ。
そのため、村人達はこの緊急の事態に対処するのを遅れている。
「皆んな落ち着けよ。今は言い争っている暇はないはずだぞ!」
アイルがまるで子供のように言い争っている大人達に向けてそう言った。するとあんなにうるさかった室内は静まり返った。
「たしかに子供達は心配だ。できる限り救助に行きたい。でもだからって俺たちが無策に森に飛び込んで怪我や死人が出たらどうするんだよ。それじゃ元も子もないじゃないか」
「そ、そうだな...」
「あぁ、アイルの言う通りだ」
何とか大人達を説得できたアイルは、振り返り、フォクスを見つめた。するとフォクスはコクリと頷いて大人達に言った。
「皆の思うことも分かる。こう言う対処が遅れたのも、これまでタノンが平和だったからじゃ」
フォクスの言葉は続いた。
「この数年間。あの炎の夜からワシらは皆んなで協力して困難を乗り越えてきた。今回だって協力して、子供達を助けようじゃないか」
おぉー!!と大人達は声を挙げた。
「ひとまず、大人は5人1組に分かれてくれ!そして各組それぞれ西と東と南に分かれて捜索する。俺はテトと北を探す。武器はテトの倉庫にある剣と槍を使ってくれ!」
「お、おいおい。アイルとテトの2人だけでって。大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ!アイルはもう子供じゃないし、十分強い。それに怪我したらボクが回復魔法で治してあげるから」
「頼んだぜ!テト!」
「あぁ、任せてよ!アイル!」
にっ、と目を合わせて笑うテトとアイル。横で見ていたルナはどこか不満気だ。
「ん?どうしたんだ?ルナ」
「何で私は待機なのよ〜」
「さっきも言ったように、この村の件で君を巻き込むわけにはいかない。だから大人しく待っていてくれ」
「むぅ〜。私だって戦えるし!回復魔法できるし!アリーちゃん助けたいし!」
「嬉しいよ。でもダメだ。頼む待っていてくれ。アリーは必ず俺が連れて帰るから」
そう言ってアイルはフォクスに呼ばれた事を思い出して、フォクスに尋ねる。
「爺ちゃん、何か用があったんじゃないのか?」
深々と椅子に座り込んだフォクスはアイルの目を数秒じっと睨むと、付いて来なさい。と言い、立ち上がり、部屋の奥にあるフォクスの私室へと向かう。
「ここに入れてもらえるなんて。思ってもいなかったなあ。どうしたんだよ。いきなり」
もう暗くなり始めた窓の外を見つめ、フォクスはアイルに背中を見せている。
「なにを強がっている」
「へ?強がってる?俺が?」
「そうじゃ。ワシが分かっていなかったとでも思っておるのか?」
心の内を見透かされたようで背中に冷や汗をかいた。
「お主ら兄妹を育てたのはワシじゃ。そのくらい見ていてわかるぞ」
「あぁ、ほんとはとても怖い。今アリーが危ない目に遭っていて、アリーの身に何かあったかと思うと気がどうにかなってしまいそうだ」
意識しないように強がっていた事をフォクスに見抜かれ、抑えていた手の震えが現れる。
想像が現実になったらどうしよう。
アリーがいなくなったら。
俺は、どうなってしまうんだ? 
そういう不安ばかりを考えてしまう。しっかりしなきゃダメだ。俺はお兄ちゃんなんだから、と自分に言い聞かせても体は正直だ。
するとフォクスが目の前まで来てアイルの肩に手を置いた。
「アイル。お主はあの日から随分と強く逞しく、大きくなった。魔物を一人で倒せるくらいにな。そんな成長をワシは近くで見ていて幸せじゃった」
フォクスは優しい声で囁いた。
「お主らはワシの家族じゃ。血が繋がっていようとなかろうとそんなのは関係ない。ワシもアリーが心配じゃ。だが、こんな時こそ家族のワシらがアリーを助けなきゃいかん。そうじゃろ?」
「うん。そうだ」
「なら剣を振れ!立ち向かえ!お主の持つその確かな意思があれば、誰だって救うことは可能じゃ。それともお主の持つ意思は半端でそれができないものか?」
「それは、違う!俺は人を、大切な人を守りたい!もう、誰も失いたくない!」
「ならば自身の恐怖に打ち勝つのじゃ!お主ならできる」
するとフォクスは私室の端にある机の上から一振りの剣を取った。
黄金色を纏う鞘に、光り輝く宝石を剣鍔に埋め込まれた、十の守護者光竜ファフニールの加護を受ける伝説の武器。
「これは....」
「ワシがずっと預かっていたのじゃ。この剣はきっとお主に応えて、力を貸してくれるであろう」
「爺ちゃん...」
「アイル、頼む。アリーを、ワシらの家族を助けて来てくれ」
少し震えた声だった。
よく見るとフォクスも指が少し震えていた。
「あぁ、必ず。無事に皆んなで帰ってくる!」
伝説の片手剣を背中に背負うようにかけて、胸を張ってフォクスに宣言する。
いつのまにか恐怖は消えて、震えも治ったようだ。
太陽は静かに沈んで月の銀色の光が辺りを照らす。
森の前に準備が完了した大人達が集まった。各班に二本の松明を与え、3組とアイル・テトのグループに分かれてアイルが大きな声で言う
「皆んな!もう一度言うが森にはワーウルフが沢山いる!油断しないように、危険になったらすぐに退避するんだ!」
大人達の目はギラギラと輝いていた。
「そんじゃ行こう!俺達の家族を助けに!」
おおおおー!!!と、雄叫びを挙げてそれぞれ東西南北の森へと進む。
「行くぞテト!必ずアリーを助ける!」
「あぁ、怪我したら言ってよね!」
「フゥム。やはり動きましたか。しかし、哀れデスネ、たかが村民の大人が集まったくらいでこの調教師の使い魔達に勝てると思っているのですか?ヒヒヒヒヒ」
夜の森の奥にある洞窟に一人のフードの男。やけに長いもみあげを指でくるくるしながらニヤニヤと笑っていた。
「我々の目的は竜の巫女。邪魔する輩は全て殺す!ヒェッヒェッヒェ!」
気味の悪い笑い方を洞窟内に響かせた男は、高笑いを絶え間なく、冷たく響かせ続けた。
アイルは妹のアリーと、村の子供たちがワーウルフに拐われたと野菜屋のオービックに知らされてから現在に至るまで、村の長フォクスの家へ来ていた。
アイルの他にも拐われた子供達の親や、若い青年たち。フォクスと同じくらいの歳の爺さん達がフォクスの家に集まった。
「それじゃ駄目なんだ!今すぐにでも助けに行かなきゃいけない!」
親達の代表らしき1人の男が机を勢いよく叩いてそう怒鳴った。事が大事であるので、かなり顔を赤くしている。
「しかし、無策で魔物の巣食う森に入るのも危険じゃ。それにもう日が暮れる。夜は魔物が活性化する時間帯じゃ。どれだけ怪我人が出るか分からん」
村の老人の1人がそう言う。
「だからって!俺たちの子供を!見捨てるって言うのか!?」
「そうは言っておらんじゃろう。何も考えずに入ったら危ないと言っておるのじゃ!」
タノンの炎が起こってからこのタノン村では平和が続いていた。少し事件があっても、大した事は起きず、殺人窃盗などの事件は一度たりとも起きはしなかったのだ。
そのため、村人達はこの緊急の事態に対処するのを遅れている。
「皆んな落ち着けよ。今は言い争っている暇はないはずだぞ!」
アイルがまるで子供のように言い争っている大人達に向けてそう言った。するとあんなにうるさかった室内は静まり返った。
「たしかに子供達は心配だ。できる限り救助に行きたい。でもだからって俺たちが無策に森に飛び込んで怪我や死人が出たらどうするんだよ。それじゃ元も子もないじゃないか」
「そ、そうだな...」
「あぁ、アイルの言う通りだ」
何とか大人達を説得できたアイルは、振り返り、フォクスを見つめた。するとフォクスはコクリと頷いて大人達に言った。
「皆の思うことも分かる。こう言う対処が遅れたのも、これまでタノンが平和だったからじゃ」
フォクスの言葉は続いた。
「この数年間。あの炎の夜からワシらは皆んなで協力して困難を乗り越えてきた。今回だって協力して、子供達を助けようじゃないか」
おぉー!!と大人達は声を挙げた。
「ひとまず、大人は5人1組に分かれてくれ!そして各組それぞれ西と東と南に分かれて捜索する。俺はテトと北を探す。武器はテトの倉庫にある剣と槍を使ってくれ!」
「お、おいおい。アイルとテトの2人だけでって。大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ!アイルはもう子供じゃないし、十分強い。それに怪我したらボクが回復魔法で治してあげるから」
「頼んだぜ!テト!」
「あぁ、任せてよ!アイル!」
にっ、と目を合わせて笑うテトとアイル。横で見ていたルナはどこか不満気だ。
「ん?どうしたんだ?ルナ」
「何で私は待機なのよ〜」
「さっきも言ったように、この村の件で君を巻き込むわけにはいかない。だから大人しく待っていてくれ」
「むぅ〜。私だって戦えるし!回復魔法できるし!アリーちゃん助けたいし!」
「嬉しいよ。でもダメだ。頼む待っていてくれ。アリーは必ず俺が連れて帰るから」
そう言ってアイルはフォクスに呼ばれた事を思い出して、フォクスに尋ねる。
「爺ちゃん、何か用があったんじゃないのか?」
深々と椅子に座り込んだフォクスはアイルの目を数秒じっと睨むと、付いて来なさい。と言い、立ち上がり、部屋の奥にあるフォクスの私室へと向かう。
「ここに入れてもらえるなんて。思ってもいなかったなあ。どうしたんだよ。いきなり」
もう暗くなり始めた窓の外を見つめ、フォクスはアイルに背中を見せている。
「なにを強がっている」
「へ?強がってる?俺が?」
「そうじゃ。ワシが分かっていなかったとでも思っておるのか?」
心の内を見透かされたようで背中に冷や汗をかいた。
「お主ら兄妹を育てたのはワシじゃ。そのくらい見ていてわかるぞ」
「あぁ、ほんとはとても怖い。今アリーが危ない目に遭っていて、アリーの身に何かあったかと思うと気がどうにかなってしまいそうだ」
意識しないように強がっていた事をフォクスに見抜かれ、抑えていた手の震えが現れる。
想像が現実になったらどうしよう。
アリーがいなくなったら。
俺は、どうなってしまうんだ? 
そういう不安ばかりを考えてしまう。しっかりしなきゃダメだ。俺はお兄ちゃんなんだから、と自分に言い聞かせても体は正直だ。
するとフォクスが目の前まで来てアイルの肩に手を置いた。
「アイル。お主はあの日から随分と強く逞しく、大きくなった。魔物を一人で倒せるくらいにな。そんな成長をワシは近くで見ていて幸せじゃった」
フォクスは優しい声で囁いた。
「お主らはワシの家族じゃ。血が繋がっていようとなかろうとそんなのは関係ない。ワシもアリーが心配じゃ。だが、こんな時こそ家族のワシらがアリーを助けなきゃいかん。そうじゃろ?」
「うん。そうだ」
「なら剣を振れ!立ち向かえ!お主の持つその確かな意思があれば、誰だって救うことは可能じゃ。それともお主の持つ意思は半端でそれができないものか?」
「それは、違う!俺は人を、大切な人を守りたい!もう、誰も失いたくない!」
「ならば自身の恐怖に打ち勝つのじゃ!お主ならできる」
するとフォクスは私室の端にある机の上から一振りの剣を取った。
黄金色を纏う鞘に、光り輝く宝石を剣鍔に埋め込まれた、十の守護者光竜ファフニールの加護を受ける伝説の武器。
「これは....」
「ワシがずっと預かっていたのじゃ。この剣はきっとお主に応えて、力を貸してくれるであろう」
「爺ちゃん...」
「アイル、頼む。アリーを、ワシらの家族を助けて来てくれ」
少し震えた声だった。
よく見るとフォクスも指が少し震えていた。
「あぁ、必ず。無事に皆んなで帰ってくる!」
伝説の片手剣を背中に背負うようにかけて、胸を張ってフォクスに宣言する。
いつのまにか恐怖は消えて、震えも治ったようだ。
太陽は静かに沈んで月の銀色の光が辺りを照らす。
森の前に準備が完了した大人達が集まった。各班に二本の松明を与え、3組とアイル・テトのグループに分かれてアイルが大きな声で言う
「皆んな!もう一度言うが森にはワーウルフが沢山いる!油断しないように、危険になったらすぐに退避するんだ!」
大人達の目はギラギラと輝いていた。
「そんじゃ行こう!俺達の家族を助けに!」
おおおおー!!!と、雄叫びを挙げてそれぞれ東西南北の森へと進む。
「行くぞテト!必ずアリーを助ける!」
「あぁ、怪我したら言ってよね!」
「フゥム。やはり動きましたか。しかし、哀れデスネ、たかが村民の大人が集まったくらいでこの調教師の使い魔達に勝てると思っているのですか?ヒヒヒヒヒ」
夜の森の奥にある洞窟に一人のフードの男。やけに長いもみあげを指でくるくるしながらニヤニヤと笑っていた。
「我々の目的は竜の巫女。邪魔する輩は全て殺す!ヒェッヒェッヒェ!」
気味の悪い笑い方を洞窟内に響かせた男は、高笑いを絶え間なく、冷たく響かせ続けた。
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