勇者の冒険(仮)

あべこー

収穫祭


収穫祭は午後から始まった。
収穫の儀式のあと、いつもより豪華な夕食が村中にふるまわれた。それから、数時間祭りは続き、日が暮れてからは中央に置かれた薪に火がつけられる。

すると、領主が呼んだのであろう、楽器を持った集団が奏でるメロディーに村全体が包まれる。そこには年配の夫婦や若夫婦、婚姻を決めた男女などが躍り始めた。ミニ舞踏会といったところか。皆、同じように踊っており、いったいどこで習っていたのか疑問だったが。

そして、俺はエルザのところへ足を運ぶ。
彼女は大きな焚き火がよく見える、広場から見て、最前列にいた。ほかの若い女性も最前列に座らされていた。男性が誘いやすいようにという村人たちの配慮なのかもしれない。

最前列の女性がつぎつぎと男性に誘われる中、茶色の髪の少女は、体育 すわりをして顔を伏せていた。中央で燃え盛る炎で茶色の髪が映え、いつもより余計に人目を引く。

あぁ、なんか緊張してきたな。俺がフラフラとしているから彼女を待たせてしまった。俺から誘ったくせにそりゃないよな。
俺は自分のおこないに反省しつつも彼女に近づき声をかけようとする。
すると俺よりも先に別の男が話しかけた。

「こんにちは。エルザさん、よろしければご一緒にどうですか?」

どこかで見たことのある二十代後半の男性が彼女に言い寄る。
しかし、当の本人は顔を伏せたままだった。
男はその反応にいらだち見せるとどこかへ去った。
彼女は今年で17って言ってたっけ。この村ではもう結婚してもいいくらいの年齢らしいが、きっと今までもこうやって相手をはねのけていたに違いない。
エルザに近づき、声をかけた。

「エルザッ! 待たせてごめ、」

「おそいッ!!」

俺が話し終える前に、彼女の言葉が返ってきた。
キッっとにらむ瞳には涙が浮かんでいた。

「す、すいませんでしたぁ」

すかさず、土下座をかまし、彼女の許しをこう。

「まったく、私これでもモテるのよ。私が他の男のところに行ってもいいのかしら」

彼女はぷいっと顔をそむける。

「それは嫌だ。ほんとにごめん。エルザ、もしよかったら俺と一緒に踊ってくれないか?」

俺は、立ち上がり彼女に手を差し伸べた。

「ほんとにもう、仕方ないわね」

彼女はあきれた様子で彼の手をとる。その顔には先ほどまでの怒りは消え、炎に照らされているせいか、頬がほんのり赤く染まっ て見えた。

音楽隊による演奏が村中に響く中、俺たどたどしくステップを踏む。

「あ、俺ダンスとかまったくできなくて……」

「そうだろうと思ったわ。でもみんなそんなものよ。庶民のお祭りだもの。」

そういいつつ、エルザは華麗なステップを見せ、人目を引いていた。
俺は初めてのダンスだったがなんとかエルザに合わせた。

「さっきはホントにごめん。なんか祭りの流れが分からなくて、フラフラしてたら遅れちゃった」

俺はここにきて、言い訳をして謝った。

「もういいわ。よく考えればケイスケ君はこの村に来て数日しか経ってないものね。無理ないわ。ねね、前はどんな国を旅したの?」
エルザは興味津々の様子で聞いてくる。

踊っていることでいつもより顔が近く、エルザにドキドキしてしまう。
俺は顔をそむけて答えた。

「あ、えっと。この村が最初の村なんだ。でも、俺の国はずっと遠くにある」
「そっか。長旅だったのね」

今ので納得してもらえたようだ。エルザはそのまま話を続ける。

「ねえ、ケイスケ君さえよければ、ずっとこの村に居て」
どこか熱の込もった表情を向けて言う。
二人はしばらく見つめ合い、沈黙が流れる。そして、ケイスケは口を開く。


「え、えっと。エルザが一緒に居てくれたら、この村に住んでもいいかも」

ケイスケは恥ずかしそうに言う。
その言葉に一瞬嬉しそうな顔を見せたが、イタズラな笑みを浮かべ彼に言う。

「ふーん、私はこの村にずっといるから、一緒と言えば一緒よね」

「ち、ちが。えっと、一緒にっていうのは、毎日、俺と一緒に暮らして、楽しいときは一緒に笑って、苦しいことはお互い助け合っていきたい。あと、子供もできたら……」

とそこまで言うと、わかったわかったと顔を真っ赤にして止められた。

「子供……ほしいの? それって結婚してくれるってこと?」

茶色の瞳は俺を上目遣いで見つめる。

「うん。俺、精いっぱい頑張ってエルザのこと幸せにする。だから、俺と結婚してほしい」

俺は一世一代の告白を彼女に放った。

「なによ、にぶちん男かと思ったらちゃんと分かってるじゃない」

彼女は嬉しそうに微笑むと、ウットリした表情で答える。

「はい、よろこんで」


この日、俺は人生初の彼女……をすっ飛ばして婚約者ができた。
彼女との出会いを幸せに感じていたが、世界では異変が起き始めたことはこのとき、俺は知る由もなかった。

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