勇者の冒険(仮)

あべこー

通い妻


ようやく、傷がいえると村長は意識を取り戻した。

「ん、エルザ。それにケイスケか。俺は確かゴブリンの襲われて……。って村はどうなったんだ!?」

勢いよく起き上がる村長にエルザが体を支えてやる。

「ちょっと、お父さん、治ったばかりなんだからまだ寝てなきゃだめよ」

娘の言葉を聞き、自分の身体を確かめると、刃物の切り傷がすっかりなくなっていたことに驚く。

「こんなことがあるのか。俺はいったい……」

困惑気味の父にエルザが状況を説明した。

「そうか。ケイスケが助けてくれたのか。それに治癒魔法が使えるとはやっぱし、ただもんじゃなかったな」

村長は、豪快にガハハと笑う。

その様子をみて、他の村人も一安心 しているように見えた。
他のケガ人を治療したあと、他に隠れている村人がいないか捜索した。

すると、ゴブリンから逃れたものが数十人いた。
それでも、村人で生き残ったのはケガ人を合わせても50人弱だ。もともと、100人以上いた村はほど壊滅的状況だった。

しかし、最初こそ皆悲しみに暮れたものの、皆前向きに村の復旧作業に従事した。
この世界の人はこういうのに耐性があるのかもしれないな。

俺は、また村が魔物に襲われないよう用心棒として雇われた。もっとも、王都から衛兵が派遣されるまでの間だけど。

それと村長の計らいで小さな小屋を建ててもらった。村長はもっと大きな家を建てると言っていたが、遠慮させてもらった。村の復旧の邪魔をしたくないしな。

もっとも、いつまでも村長の家に居候というわけにもいかないので寝床を作ってもらったというわけだ。
この世界の生活レベルにもだいぶ慣れてきた。商人から取り寄せてもらった生活用品で、それなりに充実していた。

さらに、最近ではエルザが仕事終わりに、うちでご飯を作ってくれる。この世界の食材を使った料理などまったく分からないのでそれは本当に助かっている。

「ほら、できたよ」

胴でできた器に注がれたスープが運ばれる。ほかには、肉やパンなどほかの村人に比べればかなり贅沢な料理だろう。

「うまそーッ!! いただきます」

「どうぞ!」

こうして一緒にエルザと食事をしているとなんだか奥さんができたみたいだ。
というかこれ実質、結婚してるのと同 じだよね? はたから見たら完全に通い妻だよな。
そう考えると急に恥ずかしく思えてくる。元の世界では彼女なんてできたことないし、結婚なんて考えたこともなかった。

でもエルザはどう思ってるんだろう。この世界ではこういうのは普通なんだろうか。いや、もしかしたら村を救ってくれたお礼でお世話してくれてるだけかもしれない。
いろいろな考えがめぐる。

「エルザは……好きな人とかいないの?」

恐る恐る聞いてみるとエルザはあきれた顔をした。

「何言ってんのよ。まったく……こういうのは鈍いのね」

エルザはそう言ってそっぽを向く。
んー。どこかデートに誘ったら来てくれるかな。というかこの世界の人ってデートとかするのかな。でも仕事で普通はそんな時間ないよ な。
すると、エルザが困った様子のケイスケを見て口を開く。

「そういえば、もうすぐ収穫祭があるの。村での収穫を祝って、したものを教会にお供えして、みんなでお祝いするの。特に若い独身の男女は見合いを兼ねて踊ったりするわ」

そこまで言うと、エルザはチラチラッとケイスケのほうを見る。
この村のことを知らない俺に対して助け船を出してくれたようだ。ここで誘わねば男じゃないよな。

「エルザ、俺と一緒に収穫祭に出てくれ」

俺はまっすぐエルザの瞳を見つめた。こんなに女性の顔をじっくり見たのは初めてかもしれない。綺麗な茶色い瞳に、きめ細かい肌、頬は紅葉のように紅く染まっている。

「し、しかたないわね。ほかに相手もいないし、出てあげてもいいわ」

なぜかここでツンデレを見せる。だが、口元はどこか緩んでいるように見えた。


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