努力は才能、才能は堕落

ゆーD

第8話


ピーンポーンパーンポーン。
「1年次生Sクラス神木大虎くん。理事長室まで来るように」
ピーンポーンパーンポーン。

 大虎はこんな不幸な日があっていいのかと思うほどに絶望していた。
 入学初日、学校に来て南会長に腕を組まれ周りに睨まれつつ生徒会入会の条件をこなし、今度は1年次生全員の相手、そして今度は理事長室に呼び出しだと?
 いくらなんでも不幸過ぎる。
 それでいて先ほどの1年次生全員の相手は明らかに裏があると見るべき行為だ。
 あれが後ほどどのような影響を及ぼすのかと思うとそれだけで全身が震える。

 溜息をつきながら理事長室に向かうと理事長室の前に南会長がいるのが見えたがその時点で嫌な予感しかしない。
 だって南会長の父親はこの学校の創設者であり理事長だ。
 変にお願いされて断れないようなことだった場合洒落にならない程にまずい。
 聞いた話によると理事長はかなりの親バカで娘のことになると譲らない性格だそうだ。

「大虎くん!お父さんから話しあるからちゃんと聞いてね!ね?」
「なんでそんなに嬉しそうなんですか」
「えぇ?そんなことないよ?ふふーん」
 やばい。これは本格的にやばい。
 明らかに嫌な予感しかしないしこんなに嬉しそうにしてる様子をみるとそれなりにあちらの条件が通ったことになる。
 そして短いながらも見てきた南会長あるあるで自己中が発動している可能性が高い。
 それを鑑みると理事長室のドアをノックするのすらためらわれるしいっそこのまま帰ってしまうのもありではないかと思えてくる。

 しかしこの南会長の嬉しそうな顔を見てるとそれをするのはもっとためらわれるしこれを背水の陣と言うのかと今つくづく納得した。

 今更引いてもおそらく意味は無いため仕方なく理事長室をノックすると中から入れと一言があった。

「失礼します。1年次生Sクラス神木大虎です。要件を伺いにきました」
「ふむ、まずはそこに座ってくれ、そこから話そう」
「いえ、失礼ですがこの椅子拘束用の椅子ですね?隠してるようですが隠されていない。そしてこの部屋ならば普通対面の椅子を用意するべきだ。それなのにわざわざ違和感を与えるような配置。何が狙いですか?」
「さすがというべきかな?軍特殊部隊闇光ナンバー2の神木くん?」
 その瞬間大虎は殺気を極限まで高めた。
 それこそここの学生でも一瞬で気絶するような程に。
 だがそれでも理事長は諸共しない。
 大虎は隙を伺っても隙という隙が見当たらないのだ。
 それどころか殺気をこちらにも返してきた。
 それも大虎と同等のものを。

「何が狙いだ?俺の正体を知ってるなら今すぐ俺を殺ってしまおうって手か?」
「まさか。なんで闇光創設者である私が君を殺さなければいけないんだ?」
「・・・・・・は?どういうことだ?」
「そのまんまの意味だよ。私が軍にいる頃にステージ2~3の優秀な人材をかき集めて作った闇光。
 当時はまだかき集めただけだっからそれほどの力はなかったが時間が経つと君みたいな化け物も育成できるなんてな」
 そう言われ大虎は殺気を収めた。
「そういう事でしたか。今までの御無礼誠に申し訳ありませんでした。あなたがあの南芳樹様であったとは見ず知らず」
「急にかしこまらんでもいい。ただなぜ君がこの学校に入学したのか聞きたい。娘から強くお願いされても断ることは可能なはずだ。それなのにどうしてこのステージ5以上が入学時の暗黙のルールになっているこの学校に入学しようと思ったのか、それだけは聞かせて欲しい。それが軍の意向であるならば私は君を退学にすることも厭わないつもりだ」
「いえ、軍の意向とかではなくただ自分の意思で入学しました。
 この世界にはやはりステージ格差があります。
 僕も昔から蔑まれて生活していました。
 だからというべきなのでしょうか、この格差を埋めるために僕自身が見本となってこの低ステージを引っ張っていける存在になりたい。
 そう思い入学しました。ただ初日からやりすぎてしまったとは反省しています」
 これは嘘ではなく本心で思ってる事だ。
 ステージ格差が1違うだけでも対応は変わるしそれが魔法を使えない人々だったらその対応の差は歴然だ。
 ただそういう人がいるというだけで皆が皆そういう訳では無い。
 あの生徒会のメンバーのようにすぐさま受け入れてくれるような人もいれば学年での対決になったときの皆の対応もあるというだけだ。

「そういうことならこの学校で学べばいい。
 ただ君のステージランクでは使えない魔法が多々ある。
 君は『吸収』で今までの相手の技を盗んできたのだろうが生徒相手にそれは使わせることは出来ない。
 ただ初級魔法の応用をするだけでそれは上級魔法に早変わりできる。
 君もそういうことは闇光のほうで学んだかもしれないがあれは人を殺すための技だ。
 無力化を目的とする今の年齢では使ってはいけない。
 だから私自身が教えてやる。君と同じくステージ2だからな。よろしく頼む」
「僕を疑わないんですか?しかも理事長はステージ8とお聞きしたことがありますが」
「疑うもなにも闇光のメンバーはそういうことを考えてるやつも多い。その中でも君は志が高かった。それだけだろう?
 そしてステージランクはこの地位につくための嘘だ。
 やはり学校設立にはこういう嘘も必要でな。
 『吸収』であらかじめ盗んでおいた技を見せるだけで済むから楽ではあったがな」
「ありがとうございます。それではご指導のことよろしくお願いします」
「あぁ、それでひとつ言い忘れていたんだがいいか?」
「はい、問題ありません」

「とりあえず大虎くん、梓の婚約者になったからそこのとこよろしく頼む」

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