努力は才能、才能は堕落

ゆーD

第7話


━━━━━南梓Side━━━━━

「ふっふっふっーん」
 梓が何故こんなに機嫌がいいかというとまさに先ほどの試合を目の当たりにしたからであった。
 この学校の生徒でも本気でやり合えば殺してしまうかもしれない、どうしても今までそういう疑問があった。
 けれどもあの大虎くんは己の底すら見せず仮にもSクラスの生徒24人を一人で片付けてしまった。
 自分で言ってやらせたにも関わらずさすがに同級生のSクラス24人は無理かもしれないと思っていた分あの戦術は驚きだった。
 これならもしかしたら自分とも対等、いやそれ以上の戦いをしてくれるのではないか、そう思った。


 あの試合、他の生徒にはただ魔法を放っているように見えただけかもしれないがあの範囲魔法はあらかじめ場所を指定して発動するものでそのためにはSクラスの移動範囲を完璧に把握して範囲を指定しなければならない。
 そのために1発目に放った『炎雷爆撃』で移動範囲を限定して誘導していた姿を見て心躍らずにはいられなかった。
 ただあの『暗闇殺戮』は本当は使う予定ではなかったのではないかと梓は思っている。
 あのような上級魔法いくら『吸収』を用いても滅多に見られるような魔法ではない。
 あの魔法は本来戦場や紛争地域などで見られるような魔法であるために今まで彼がどのような死線を乗り越えてきたのかを少し考えればわかってしまうためだ。

 しかしC~Aクラスの生徒はほとんど何が起きたのかわからないまま終わってしまったと感じたと思う。
 範囲魔法なんて知識はあっても現実でみることは滅多にない。
 そのうえあのようにSクラス以外の生徒には普通に見えている状況ではあれが魔法だとは思わなかっただろう。
 しかも彼はあそこで極限まで魔力を落としていた。
 恐らく『暗闇殺戮』とはその名の通り暗闇の状態で全てを抜き取ってしまうのが本来の使い方だろう。
 それは何が起こっているかもわからない状況でジワジワと死に直面する恐ろしく酷い魔法だ。
 本当に何故あのような生徒がステージ2なのか甚だ不思議だ。

 ただ梓が機嫌がいい理由の一番はそこじゃない。
「お父さんに頼んでみようかな、大虎くんとの婚約!ふふふーん」
 そう、梓は大虎のことを気に入ってこの学校に入れた。
 つまりそれは文字通り一目惚れしたからである。
 ただそれは大虎にとってまたも意見が反映されない決定だった。


 というわけで梓は理事長室に来た。
 この学校の創設者であり理事長でもある父に相談に来たのだ。
 
「お父さん、私結婚したい人できた」
「なっなんだと!?許さん!絶対に許さん!」
 その父親、南芳樹は超がつくほど親バカで結婚相手を追っ払うのが趣味になりつつある父親だった。
 梓くらいになると常日頃縁談の話が舞い込むのだが全て梓の耳に入る前にこの父親が揉み消しているのである。
 
 ただ今回は梓本人からの願いでこれを揉み消すのはかなり難しい。
 娘に嫌われる可能性があるのは何がなんでも避けたいからだ。
 
「そんなこと言わないでね?お父さんの条件はちゃんと守ったよ?私より多分強いしそれでいて生徒会入会してて誰にでも分け隔てなく接せられる人!」
「え?梓よりつよい?ステージランクは?」
「ステージ2だよ?」
「ステージ2!?まさか気に入った子がいるって言ってこの学校に入れさせたあの生徒か?」
「そう!まさかあそこまで強いと思わなかったなぁ」
「なっ・・・・・・」
 ステージ2が娘より強いわけがないとおもうが娘は嘘をつかない性格だから恐らく本心から言ってるのだろう。
 「しかもね!1年生のSクラス24人を一人で圧倒しちゃったんだ!」
「はぁぁぁっ!?」
 同級生とはいえあの試験で選抜した選りすぐりの生徒を一人で圧倒?
 そういえばさっき実技訓練場に大量の治癒魔法教授が向かっていた気がする。
 つまり本当に一人でSクラスを圧倒したということになる。
「梓、その試合の動画はあるな?」
「もちろん、ちゃんと観てね?」


 そういって手渡された動画は圧巻だった。
 まずはCクラス簡易版の『空間斬撃』のリズミカルな踊り。そしてCクラスを無惨な倒し方をし、不必要な戦いを避けつつ、Sクラスの戦いでは巧みに範囲魔法を使い、両戦いを通して一撃もダメージを食らわずに倒しきったしまった。

 昔の自分でもこの境地に辿り着くことはできなかった。
 そして先ほどの娘の言葉である「私より多分強いし」という言葉だが多分ではなく、確実にこのステージ2の生徒の方が強い。
 
 しかしこの動きは・・・・・・。
 昔至る所で見た戦場の数々。
 その中でも一つの戦場で平均損耗率5%の部隊がいる。
 通常ではありえない数字だし圧倒している戦闘でも40%は出る。
 それほどに魔法を撃ち合うということは危険なのだ。

 それなのにたったの5%の部隊。
 その名も『闇光』。
 その名の通りではあるが真夜中であろうとターゲットを仕留め損なうことは無いし自分の身と引き換えにしても目的を達成する完全なこの国の軍特殊部隊の動き。

 一説では闇光のメンバーが一人いれば通常兵2万の力を出せるそうだ。
 
 そしてこの部隊の全員がステージ2~3であるという事実は極秘で軍の上層部と政府の上層部しか知らない。
 なぜこの学園の理事長である芳樹が知っているのかといえばこの学校の理事長こそ闇光創設本人であるからであった。

 長い間軍から離れていた芳樹でさえこの動きは一瞬でわかってしまう程だった。
 それほどに洗練されていて鍛錬を怠っていないのが目に見えるほどに。

 それなりに勉学に励めば誰もがこの生徒の正体に気付いてしまう。
 そう思った芳樹は娘である梓にこう告げた。

「婚約に関しては許そう。だがその前にこの生徒を私のところに連れてきなさい」

 この生徒を守ることだった。

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