俺の妹が知らぬ間にネットでグラドルやってたんですけど

青キング

第10話不摂生はぽちゃドルになる原因だよね

母のランニングに付き合った次の日、弁当の中は異質をきたしていた。
卵焼きは丸焦げで真っ黒、唐揚げにいたっては鶏肉が片栗粉を纏っているだけで揚げられていなかった。もはや唐揚げでもなかった。
そのまま食べるわけにもいかず、悔しいが残してしまった。
学校から家に帰ると、仕事に行っているはずの母が何故か寝室から顔を出した。見た感じ元気がない。
そこで俺は見るも残念な弁当のおかずについて尋ねる。
「母さん、今日の弁当のおかず酷い出来だったぞ。卵焼きはほとんど焦げだし、唐揚げなんて揚げられてすらなかった。なんでだ?」
「あっ……ごめんなさいね」
すまなさそうに母の眉が下がる。どこか上の空だ。
「昨日のランニングで疲れたのか? マッサージならやってあげるぞ?」
「優しいのね、りくとは。でも必要ないわ気持ちだけで十分よ」
小さく笑って母は俺の申し出をやんわり断った。その笑顔が儚げに見える。
「無理してるならやめとけよ、もう若くないんだからよ」
「そうね、若くないものね」
あれっ、いつもなら酷いわ! とか目くじらを立てて言い出すのに、あっさりと認められて何だか肩透かしだ。
「認めるんだな、若くないこと」
「だってもう私、四十路よ? いつまでも若いままじゃないのよ」
視線を合わさず母は悲しげに言った。どう見ても様子がおかしい。
「今日、なんで仕事を休んだんだ?」
「仕事なんて行く気力がなかったからよ」
「具合が悪いのか? それならそうと……」
俺が言い終わる前に寝室の扉が閉ざされた。
訳がわからん。
「りくと」
「何?」
閉ざした扉の向こうから母が話しかけてくる。
「今日の夕飯はあなたが作って、お願い」
「頼まれなくても、お粥ぐらい作ってもってってやるぞ?」
「お母さん、寝るから。りつなが帰ってきたら具合悪いって伝えておいてね」
それきり母の言葉は途絶えた。本当に寝たらしい。
何がどうなってるのか把握できないから、とりあえず従っておこう。


夕飯が出来上がりにさしかかった頃、夕飯作りに不参加の妹が思い悩んだ表情でリビングに姿を現した。
「兄さん」
「ん?」
慣れない調理に意識を寄せていた俺は、片手間に返事する。
妹は小さく溜め息を吐き出した。
「兄さんが無理することないよ、外食でいいじゃん」
「考え付きもしなかった」
外食、その手があった。
「兄さんが行かないなら、私だけで行く」
「待て、俺も外食……」
包丁を動かす手を止め妹を振り向き、俺はふと気づいた。
久々に訪れた妹と二人きりの空間。それをおめおめと一人で外食に行かしていいのか?
それこそ今日、色々問い尋ねるチャンスなのではないか?
「外食はやめだ、お前に色々聞きたいことがある」
「えっ、聞きたいことがあるだけで外食をやめにするのはおかしくない?」
__揚げ足をとられた。
「いや、おかしくない」
虚勢を張って俺は否定する。内心たじたじだがな。
焦る俺に妹は目を細める。
「寝食共にしている家族に、今更何を聞くっていうの?」
「その、グラ……」
「ああ、わかった。グラニュー糖買ってきて欲しいんだ。いいよ、買ってきてあげる」
聞き違え、妹は笑顔でリビングを出ていく。
「グラニュー糖じゃなくてグラビアのこと!」
慌てて訂正すると、妹は立ち止まった。
「グラビアのこと? 兄さんには関係ない」
きっぱりと言い切る。
「関係ないことない」
俺は納得がいかず、声を荒らげた。
「なんで?」
「俺がお前の兄で、お前を応援しているからだ」
俺の答えを聞いて妹は鼻を鳴らす。
「それだけ?」
「えっ?」
返答に窮した。
妹は手を振り玄関の方に向かう。
「外食行ってくるから、お母さんに伝えといて」
「おい、待て……よ」
玄関のドアが閉まる音がした。
それだけ、ってなんなんだよ。他の理由が必要なのか?
訳がわからない。
「ダメ、ムリ、寒い!」
俺が思考を巡らし始めた束の間、勢いよくドアを開けて妹が家の中に踊り込んできた。
戻ってくんのかい。


やっとのことで出来上がった俺の作った夕飯は、良い出来とはとうてい呼べないが持てる力を出し尽くしたつもりだ。
しかし席についた妹が明らかな厭わしさに顔をしかめる。
「すごい不味そうなんだけど」
「俺はこれでも精一杯作ったんだ!」
「精一杯ねぇ、食材の無駄遣いだとは考えなかったの?」
冷ややかな一言に俺は返す言葉もない。
黙った俺を見捨てて、妹は席を立ち食器棚の下の段からカップ麺を一つ取り出す。
「仕方ないから、私これ食べる」
「俺もくれ」
「兄さんは自分で作ったの食べてれば、食料廃棄にするのもいけないしね」
すげなく言われて、俺は渋々テーブルの食事に手をつける。
食べられないこともないじゃないか。
妹はやかんで湯を沸かして、カップ麺に注ぐ。
そして三分が経過して、妹はやかんを中身を確認するように振った。
「お湯が残っちゃった、止められてるけどもう一杯食べよちゃお」
「止められてる? 母さんにか?」
自分の食事を食べ終わった俺は、食器を集めながら尋ねた。
「そう、カップ麺は太りやすいしお肌の調子も悪くなるって言って。食べたい物くらい食べさせて欲しいよね」
「止められてるならやめろ」
愚痴にして話す妹に、俺は強くはっきり言った。
キッチンの妹が弾かれたように振り向く。
「なんで。兄さんに指図される筋合いないじゃない」
「母さんは本気なんだよ、お前をトップグラドルにするのにな」
「知ってるよ、でもそれじゃ私の意思がどこにもない!」
「それならそうと母さんに伝えろ、言われるがままにならずに」
売り言葉に買い言葉だ。根拠もない本音が口から出任せになる。
妹は俺を激しく睨みつけている。
「りくと、りつな、やめなさい」
リビングの外から力強い母の声が響いた。
俺と妹は揃って、そちらを向く。
「よくわからないことで喧嘩しないの。最後の夕飯の時くらい仲良くするのよ」
最後?
台詞に含まれた意味不明の単語に、俺は疑問を抱く。
「お母さん最後って?」
「…………ごめんなさいね二人とも。今日でお母さん家を出てくわ」
はあああああああああああああああ?
突如として甚大な衝撃をもたらしたその一言に、俺は理解がついていかず唖然とする。
妹も同様に驚愕を顔一杯に湛えていた。


















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