転生したようなので妹のために奮闘することにしました

紗砂

潜入


私はメイクを施すと擦り傷を付け、縄で縛られる。


『み、巫女様……こ、こんな感じでよろしいでしょうか?』

「…敬語は禁止。
私の事はルシャーナとでも。
先に言っておくけど…敬称は付けないようにね?」

『は、はいぃぃぃ……』


リリスの様子に私は溜息をつくと作戦を開始した。
シルフィーとアマテスは私といたらバレるということで既に別行動となっている。
私はバアルの転移により敵の中心部へと乗り込んだ。


『おい、その人間は何だ!』

『この人間は討伐対象ですわ。
敵対意思が無かったので捕らえて来ましたわ。
これでも一応、憤怒の契約者ですもの』

『はっ!
こんな奴があの憤怒の契約者とはなぁ?
まぁいい。
さっさといけ』

『元よりそのつもりですわ』



私は完全に敵対意思のないように装う事が出来たらしく簡単に中へと入れる。
演技力があるようで嬉しくもあるが少し辛い。


『ルーシャよ。
こちらは潜入成功した』


との報告がシルフィーから来る。
その報告に私は答えられないため、リオが変わりに答える。


『こっちも上手く入れたよ~!
気に食わないけど…』

『あぁ、それは同意だな。
ルーシャが負けるなど…それも戦意が無いなどありえないからな』


……いや、私だって戦意喪失とかあると思うし。
多いとは言えないだろうけど。


『シルフィード、少し急ぐぞ』

『承知した』


向こうは少し速度を上げたようだ。
そして、それは正しい。
私が動けるようになるには人質の無事が確保されないといけないのだから。
私が完全に囚われの身となった時点で難易度は高くなる。
そうなると人質の救出が難しくなるのだ。
つまり、この作戦の重要なところは全て、シルフィーとアマテスにかかっているのだ。


『…その人間は憤怒の契約者か。
よく捕えられたものだな』

『…はい。
戦意が無かったので』

『ほぅ?
まぁいい。
憤怒を封じた後、我が存分に可愛がってやろうではないか』


そいつに対する私の第一印象は『キモい』だった。
そして次に感じた事は『馬鹿だ』という確信であった。

何故ならばそう簡単に憤怒の契約者が戦意喪失したなどという馬鹿らしい事を信じるという事。
そして、憤怒の王であるリオを簡単に封印できると判断した事。
最後に…私単体には何の力も無いと決めつけた事。
この3つが主な理由だろう。


『ルーシャ!
こちらは全て完了したぞ!』

『ルーシャよ。
存分にやるが良い』


という2人の言葉により、私は第二段階へと入った。


「あ……こ、殺さないで…」


自分らしくない事は理解しているし穴があれば入りたいくらい恥ずかしい行動だがそれでもやるしかない。


『殺すか殺さぬかは貴様の行動と我の気分次第だ。

…連れていけ』

『はっ!』


ここでリリスとバアルとは離れてしまうが多分、問題無いだろう。

私が連れていかれたのは地下牢だった。
……こういった地下牢に入るのは初めてだ。
意外と暖かい……などと思っている場合では無いか。
1時間程かけて城内にシルフ達を巡らせて情報を得る。


『巫女様、こちらは無事に城外へ抜けました』

『了解。
じゃあ…私の方もそろそろ動こうかな』


リリスからの報告が来てから私はシルフの力を借りて縄を切る。
そして両手が使えるようになってから周囲に魔力を馴染ませつつ地下牢の鍵を氷で作りだし外へと出る。
そして、だ。


「ここ、かな?」


私は地盤を確認すると特別弱くなっている部分に向けて魔力弾を勢いよく発射した。
すると途端に城が崩れだし、上の階で慌てる魔族達の声が聞こえてくる。


「取り敢えず私も上に出るか……」


崩れていく城を見てそう呟いた後、私はゆったりとした足取りで上へと向かった。


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『おい!!
何事だ!!』

『も、申し訳ございません!!
地下で魔力の爆発があった様です!』


それに対しては身に覚えがあった。
……あいつだろう。
人間にそんな力があるとは思えない。
つまりはあの憤怒だろう。
あいつはいつも我の邪魔ばかり!!
早々に消しておくべきであったか…。


『あの人間を殺せ!!』

『はっ!』


我の一声であの人間は簡単に死ぬ。
それを憤怒に理解させてやろうではないか。
まぁ、理解した頃にはあやつも消し去る予定だがな。


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「あれ…結構来たみたい?
ま、いっか。
試してみたい魔法あったし……。

『この世界を構成する全てに告げる。
真紅の薔薇に燃え上がる炎よ。
穏やかに流れし清らかな水よ。
自分を尊びし気高き風よ。
世界を支えし偉大なる土よ。
深淵をも照らし包み込む穏やかで優しき光よ。
光と共に生きんとせし闇よ。
そして、その全てに属さぬ無よ。

全てをつぎ込みしその遺産をここに作り上げよ!

代償は私と新たなる遺産に入りし者の魔力!

ファーストトライアル!!』」


すると、城の壁や土が盛り上がる。
そして大きな塔を作り出した。
その塔は次第に蔦に覆われていき全体が緑色に染まっていく。
そして、一部だけが円状に蔦が避けていく。
その円の中には各属性を代表するかのような模様が入っていた。

炎は私が唱えたように真紅の薔薇が。
水は海を表すかのように深い蒼の波が。
風は竜巻が。
土は深緑の草原が。
光と闇は勾玉のような模様で。


その凝った外装に私はポカンと口を開いていたものの作戦の途中だった事を思い出しすぐに走り出した。

……思ったよりも魔力の消費が少なかった。

これは…使えるかもしれない。
セーフゾーンとかを作っておけば守りとしても使えるし……。
もう少し研究をして自分の好きな形状に出来るようにしよう。


『何だこれは!!
あの人間の仕業か!?』

『いや、人間が出来るはずがない!
憤怒の仕業だ!』

『これでは逃げられるぞ!』

『壊せ!』

『くそっ!
壊れない!!』


などという声が聞こえてきて少しだけ笑みを零す。


「これで第二段階は終了か。
次の段階に進もうか」


私は1人で黒幕の元へ向かう。
リオの方の事情とはいえ私を巻き込んだのだ。
それなりの覚悟は出来ているはずだ。


「リオ、行くよ?」

『うん!』


微塵も私が負ける事など考えていない様子のリオに私は期待に答えなきゃなぁ……と思いつつ、その扉を勢いよく開けた。


『何者だ!!』

「リオの契約者、かな?」


私はうっすらと笑みを浮かべながらそう答える。
すると、その玉座に座っていた黒幕は恨めしそうに私を睨みつけた。


『よくも…よくもやってくれたな!
憤怒!!
貴様は必ず我が殺してやる!!』


…どうやら私の事は眼中に無いようだ。
当たり前なのかもしれないが少しイラッときた。

そしてもう1つ。
私の怒りに触れた事があった。
リオを殺す、そう言った事だ。
リオを、私の仲間を殺す?
ふふっ…そんな事をこの私が許すとでも思っているのだろうか?

それによくもやってくれたな?
それはこっちの台詞だ。
リリスの家族を人質に取った癖に。
私達を巻き込んだ癖に。
私の称号をバラす様な真似をした癖に!


「私の仲間を、友人を、家族を巻き込んだんだ。
この私が黙っているとでも?」

『はっ!
人間の分際で我に勝てるとでも思っているのか!
この下等生物が!!』


プチッと私の中で何かが切れた音がした。


『ル、ルーシャ、落ち着いて!』

「ふっ…ふふっ…ふふふっ……。

『私の全魔力を代償に目の前の敵を切り伏せろ』」


瞬間、私の今の魔力が全て解放される。
その魔力は刃物のように鋭くなり、空を舞う。
2000程度しか魔力が残っていないこともありそんなに威力は無いが…。

取り敢えずこれで牽制程度にはなるといいが…。

シルフィーとアマテスの方は無事に逃げられただろうか?

私の方もそろそろ離脱しないとヤバイし…。
ここからはリオの力だから魔力を使う事もない事だけが救いかな。


『もう……ルーシャはいつも無茶ばかりするんだから…。
じゃあ、いくよ?

転移陣発動!』


そして私の意識は途絶え、作戦は終了を告げた。

……無事に逃げられて良かった。
もうこんな無茶はしたくないかな…。

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