転生したようなので妹のために奮闘することにしました

紗砂

首席合格、そして裏切られたらしい


あの会場破壊事件…つまり試験から1ヶ月たち、ようやく合格発表の日になった。
この1ヶ月間…本当に大変だった。

あのあと、会場破壊についてアンリに怒られたかと思えば今度はケヴィンに呆れられた。
そしてその後に国王に呼び出されてたっぷりと叱られた後、それぞれの魔法の先生にも怒られた。
そして何より、父と母も知ったらしく久しぶりに送られてきた手紙にはたっぷりとお叱りの言葉が綴られていた。
…ちなみに私についてくれている侍女さん方や、護衛の人達にまで呆れられ、怒られた。

そしてその後は学園にお詫びに行き、教会で怪我人や病人の治療を行った。
それからの1ヶ月間というもの、魔力操作に関しての授業しかやらなかった程だ。
だが、そんな1ヶ月間で成長したことがある。

なんと、ようやく無属性魔法が使えるようになったのです!
無属性魔法はオリジナル魔法とさえ言われる程幅広く、才能が大きく関わってくる。
そのせいか使い手が希少なのだ。
そんな私の無属性魔法は2つあったらしく『奇跡の手』と『予知』。
その2つだ。

予知は色々と制約が大きくまだ自分の見たい未来が見えない事が難点。
しかもまだ2分程度しか見れないのだ。
そのためこの予知については制約を知ることが最初の目的になってくる。

奇跡の手も同じように制約がある。
この制約は何となくだが知ることが出来た。
死後1分以内の綺麗な状態であれば魂を呼び戻す事が出来る。
つまり、蘇生が出来るのだ。
そして、死後1分以内であればどんなに重症の者でも完治させる事が出来る。
まさに奇跡の手だ。
…しかし、死ぬほど魔力を使う。
せいぜい5人が限界だろう。
それ以上となるとキツい。
だが、大抵の場合は聖属性の上級でどうにかなるためあまり使う事はないだろう。


「巫女様、エリアス様、ご到着いたしました」


不意にそんな声が聞こえ、私は現実に引き戻される。


「どうぞ、ルーシャ様」


そう言ってエスコートしようとするのはこの国の王子であり、前世からの知り合いケヴィンであった。
ケヴィンは人の良さそうな笑顔で私に手を差し出してくる。
それを見て周りはヒソヒソと話し始める。
私は断ろうかとも思ったがここで断ったら私まで恥をかくと思い直し仕方なくエスコートを頼む。


「…ケヴィン、今回だけですから。
それと…あなたは王子なのですら私の事は様を付けないでください」


ケヴィンは一瞬だけ表情を曇らせたが流石、王子と言うべきだろうか。
再び笑顔を貼り付けた。
私はそんなケヴィンに一瞬嫌だな、などと考えてしまった。
そんな事を思う辺り私はまだ、未練があるらしい。
そんな自分に対し自嘲すると無意識のうちにうっすらと口元が弧を描いていた。


「もう、大丈夫です。
お気遣いいただきありがとうございます」

「ルーシャ様ですから」


それは、どういう意味でだろうか?
私が巫女だから、では無いよな。
ケヴィンの事だ。
私の事を未だにお嬢様扱いしているのだろうか?


「お姉ちゃん」

「…エリー、行こうか」

「うん!」


エリーの笑顔は私を落ち着かせてくれる。
私の隣で笑っているエリーを守るための力を付けたい、改めてそんな風に思う。
エリーは私を守る騎士となると言ってはいるが私にとってエリーは守るべき大切な妹だ。
それは、絶対に変わることはない。
だから巫女としてもエリーの姉としても力を付けなければいけないとそんな事を思う。


「お姉ちゃん?
どうかしたの?」

「ううん。
何でもないよ。
会場、破壊しちゃったから合格取り消しになってないか心配なだけだから」


誤魔化すように言ったもののエリーは疑わしそうに私を見ていた。
私は内心ヒヤヒヤしながらも何も言わずにただ、エリーの瞳を見ていた。
私と同じ色の、エリーの瞳を見ていると守らなければいけないという使命感が湧いてくる。


「はぁ……もう……。
お姉ちゃんの馬鹿……。
今回は仕方ないから誤魔化されてあげる!」


少しだけ寂しそうにした後、拗ねたようにエリーはそう言った。
『誤魔化されてあげる』その言葉に、妹にはお見通しだなぁ…などと思いクスリと笑う。


「ありがとう、エリー。
さ、行こうか」

「うん!
……あ!
お姉ちゃんとはぐれないように!」


などとエリーは私の手を握ってきた。
私も優しく握り返すとエリーは嬉しそうに笑った。

そして暫く歩いていくと人混みができているところがあった。
するとやはりそこには合格発表の結果が張り出されていた。

私はエリーの名前を探そうと上から見ていくが……。
1位に書かれた名前につい、2度見した。

…仕方ないだろう。
何故ならその名前は……。


「お姉ちゃん!
凄い!
1位だ!!
流石私のお姉ちゃん!」


そう、私の名前だったのだから。
壊してしまったこともあり、合格は取り消しになりそうだったのにも関わらず1位という結果になっていたため驚いた。


「エリーの名前も2位にあったよ。
おめでとう、エリー」

「うぅ…でもお姉ちゃんに負けたぁ…!」


悔しそうにしてるエリーも可愛らしい。
前世では妹が居なかったからこそ、こんな姉妹でのやり取りが楽しく感じられた。


「お姉ちゃん、お父さんとお母さんに手紙書こう!」


そうだね。
お父さんとお母さんにちゃんと報告しなきゃいけないよね。


「じゃあ、そろそろ戻ろうか」

「うん!」


帰ろうとした時だった。
怒鳴り声が聞こえてきた。


「巫山戯るな!
この僕を誰だと思っている!?
僕はこの国の侯爵家の者だぞ!!
貴様のような者が僕に触れるな!」


どうやらどこかの馬鹿な貴族の子弟に平民の子が触れてしまったらしい。
……こんなに人がいるのだからその位はあるだろうに。


「……お姉ちゃん…」


エリーは心配そうに平民の子を見ていた。
私は「分かってる。大丈夫だよ」と、エリーの頭を優しく撫でるとその騒ぎの中心へと向かった。


「大丈夫ですか?」


私は貴族の方には何も話しかける事なく、平民を優先した。
この学園内では身分の差は関係ない。
そういうルールがあるのだ。
だから私は気にしない。
他の平民であれば問題あるかもしれないが幸い、私は巫女の称号を持っている。
大事にはならないだろう。


「…あ…ありがとう。
で、でもいいの…?」

「大丈夫そう良かったです…あ…。
ここ、怪我していますよ」


男の子は私の指した箇所をみて
「掠っちゃったのかな?」なんて言いながら笑っていた。


「このくらいなら問題ありません。
『私の願いを聞き届けてください』」


一応、人がいるため私は初級の治癒魔法を使う。
……詠唱を省略して。

アンリからは中級以上をそうやすやすと使うなとは言われているが初級なら問題なあだろう。


「わ…ありがとう」

「いえ、気にしないでください」


私が去ろうとすると貴族の子息が引っかかってきた。


「おい!
貴様、この僕を無視するとはどういう事だ!!」

「申し訳ありません。
私のような平民が貴族様にお声をかけてはいけないと思いましたので…。
ご気分を害してしまったのであれば申し訳ありません」


ま、私は巫女だから平民とはいえ貴族とは対等の立場があるんだけどね?
面倒くさそうだから言わないけど。


「平民にしては頭がまわるようだな!
特別に僕の妾にしてやってもいいぞ!」

「……は?」


今、なんと言ったのだろうか?
妾にしてやると言ったのだろうか?
ハハハ…………気の所為だよね?


『あはっ!
僕のルーシャに』


リオ、やめて!
大事にしたく無いの。
だから今回は堪えて!
お願いだから…。


『……ルーシャがそう言うなら…』


リオは渋々だが大人しくしてくれた。
危ない危ない。
悪魔契約はあまりバレたく無かったからね。


「ふん!
だから、僕の妾にしてやってもいいと言ったんだ!
平民!
光栄だろう?」


……ほう?
私に、ねぇ?
こんなにも風をぶつけてやりたいと思ったのは初めて…いや、あのパーティー以来だよ。
あぁ、不快だ。


「申し訳ありません。
私の卒業後の進路はもう既に決定してしまっているので…。
私の意思では……」

「僕の言う事が聞けないというのか!!
平民風情が!!」

「…ルーシャ様はあなたのものではありません」


……また面倒なのが来たよ…。
私は帰るとするか。


「なっ…で、殿下!?」


私はケヴィンに任せて密かに帰ろうとするが簡単に逃がしてはくれなかった。


「ルーシャ様は私の婚約者です」


……私はいつケヴィンの婚約者になったのだろうか?


「そのお話はお断りしたはずですよ?」

「私の婚約者に対し、妾にしてやってもいい?
それは、王家を軽んじているのですか?
そうでなくともルーシャ様は……」


ケヴィンは私の話を聞く気が無いらしい。
お怒りなのは分かるが……流石に辞めようよ……。
それと私は婚約者じゃない……。


「巫女様!
神官様が至急、教会へといらしてほしいとの事です!」


巫女様って……何バラしてんだ!?
っていうか、アンリが?
何があったのだろうか?


「み、巫女、様…?」

「……私はルーシャです」

「あっ……も、ももも申し訳ございません!
巫女様!!
あっ…」


この人、馬鹿?
馬鹿だよね?
1回のみならず2回言うとは……。


「巫女ではありません。
ルーシャです。
…それで、確かにアンリは至急と言ったのですね?」

「は、はい!!」

「分かりました。
エリー」

「あ、うん!」


私はエリーを呼び、手を繋ぐと転移しようとした。
だが、不意に視界が暗くなる。
太陽が雲に隠れた……そう思ったのだがどうやら違うらしい。
何故なら雲なら魔力の反応はないはずだから。
私は上空を見ると大きな図体がそこにはあった。
そして、よく見るとその人物は私の知っている者だった。


「ルーシャ!
遊びに来たぞ!!」


そう叫んでいるのは紛れもなく…聖属性の神、アマテラスこと、アマテスだった。

頭が痛くなってきた。


「アマテス…今日は約束が無かったと思うのですが?」


私とアマテスの間には約束してから訪れるというルールがあった。
だが、今回私はアマテスと約束をしていない。


「伺いはたてたぞ?
さっき教会の方にな」


まさか…アンリの要件って……。


「…遅かったようですね」


やはりアマテスの事でしたか!!
いや、何か重大な事件が起こったと思って身構えたんだけど!?
私のあの緊張感返せ!!


「アマテス、いいですか?
今度からは空から現れるような事はやめてください。
ちゃんとした登場でお願いします。
それと、伺いは教会ではなく私の方にお願いします。
そうでないと対応出来ませんから」

「うむ。
善処するぞ」


まぁ、いいか。
今回は許そう。
アマテスも折角来てくれたんだし、こんな事で時間を潰すのもね。


「とりあえず、教会に行きましょうか。
アンリに伝えなければならないので」

「あぁ!
行くぞ!」

「え?
…ちょ、ちょっと待っ…」


私とエリーとアマテスはその場から転移した。
教会のアンリのもとに。

その後、アンリは呆れたようにしていたが注意だけで許してくれた。

学園では私達が居なくなったと騒ぎになったのだという。
……申し訳ない…。


「首席合格、おめでとうございます。
エリアス様も次席合格おめでとうございます。
……お2人共指定された条件よりも上位になられたようで驚きました」

「ふふっ…ありがとうございます。
これもアンリや皆さんのおかげです」


教会で実際に治癒魔法を使う事があったから。
王宮で多くの先生に教えてもらう事が出来たから。
国の図書館で勉強出来たから。
エリーが側で支えてくれたから。

…考えれば考える程私は恵まれている。
確かに両親とは離れているがこうして周りには私を支えてくれる人達がいるのだから。
それに、両親だって私とエリーの事を応援してくれている。
本当に私は恵まれている。
だからこそ、私はその期待に応えようと思える。


「……ルーシャ様…。
また、無理をなされていませんか?」


アンリが心配そうにそんな事を聞いてくる。
……そんなに私は固い表情をしていただろうか?


「大丈夫です、無理はしていません。
少し、緊張していますが……」

「……そうですか。
それならば良いのですが……」

「ありがとうございます、アンリ。
では、私達はこれで失礼します」


軽くお別れの挨拶をして王宮に戻る。
馬車から降りる時には私はいつも通り、薄く笑みを貼り付けたような表情になっていた。
私の中で、王宮は1番信用できない場所になっていた。
…王宮は、優しく親切な人達がいる反面、それと同じくらい…いや、それ以上に貴族達の思惑や陰謀が渦巻いている。
貴族達だけではない。
文官や使用人、騎士達もそうだ。
このドロドロとした暗い空気が私を嫌でも警戒させる。

それはもう癖となりこびり付いていた。
なぜならばこの王宮で一瞬でも気を抜けば殺されるから。
殺されるまではいかずともエリーに危険が及ぶかもしれないから。
だから私達がこの場所で生きていくために必要な事を覚える必要があったのだ。

私達3人は私の部屋でお茶をする。
私についているメイドさんがハーブティーを持っていれてくれる。
いい香りだ。
フワッとしたきらびやかな香りは本当に心地良い。
私はお礼を告げ、お茶を飲もうとする。
だが、ピリッと舌に違和感を覚える。

……そういえばいつもよりも色が薄い気がする?
蒸らした時間を減らしたのだろうか?
……いや、毒か!

隣をみるとエリーがお茶に口を付けようとしていた。


「エリー!!」


私は無詠唱で風を発生させエリーからお茶を離す。
ちゃんとエリーにかからないよう、結界を貼る事を忘れない。


「きゃっ…」

「……これは、どういうつもり?」


私の視線が射抜くような鋭い視線になる。
そして、声のトーンも自然と下がっていた。


「ひっ……。
み、巫女様?
どうかなさっ……」

「シラを切る気ならばこちらも1つ、手を打たせていただきましょう」


私は何週間か前に覚えたばかりの魔法を使う。
この魔法は聖属性の魔法であり、効果は毒に対し発光するだけのもの。


『私はここに願う
私を害するものを見つけだせ
代償は、私の魔力』


すると、メイドさんがいれたお茶のカップが紫に光だす。
毒だ。
私はため息をつき、メイドさんを見る。


「はぁ……。
これでも未だに認めないと?」

「申し訳ありません、巫女様……。
私は、私は…自らの命欲しさに巫女様の命を……。
私は、いかなる処分も受ける覚悟でございます…」


……本当に、このメイドさんが。
やっぱり、この場所は嫌いだ。
隙あらば私を殺そうとする者が多い。
ウンザリする。

……だが、もうすぐで6年間の自由が与えられる。
学園は寮生活なのだ。
だから、6年間だけは実質的に自由となる。
そうすれば暫くはこの場所から離れられる。

そう考えると嬉しくもあるが、寂しくもある。
私に多くの事を教えてくれた先生ともお別れという意味でもあるのだから。


「…そう……。
残念です……。
誰か、連れて行ってください」


私達を毒殺しようとしたメイドさんは外にいた兵士を連れていかれる。
私はその様子を見届けたあと、悲しげに呟いた。


「……カリーナ…。
友人だと思っていたのに……」

「……お姉様…」

「…ルーシャ」


私の顔を心配そうにのぞき込む2人に私は無理に笑顔を浮かべる。


「…さぁ、仕切り直しましょうか」


これが巫女としての私の生活だ。

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