転生したようなので妹のために奮闘することにしました
転生したようです
「ルーナ、エリー」
私はお父様…いえ、お父さんに名前を呼ばれ妹をチラリと見てから駆け寄った。
以前までならばはしたないと怒られた事も今ならば咎められたりはしない。
……何故なら私は貴族ではなく、平民なのだから。
私、ルーシャ・カルナヴァルは転生し、
ただの農民のルシャーナへと変わっていた。
そして、当然といえば当然なのだろうが、カルナヴァル家は既にこの世界には存在しなかった。
何故それを私が知っているかというとこの地が昔、私の領地だった場所だからである。
私の収めていた領地の中でも小さく豊かな村。
それが私の転生した現在の居場所であった。
「お姉ちゃん、お父さんどうしたんだろう?」
なんて私の隣で不思議そうに首を傾げているのは私の妹のエリアスだった。
エリアス、私はエリーと呼んでいるが…。
エリーは分かっていない様だったが私は何となく分かっている。
『選定の義』
それが私とエリーへの要件だろう。
選定の義は9歳になった者が必ず受けなければならない儀式だった。
この儀は魔法の適正と称号を確かめるためのものだ。
称号の中には有名なものでは『勇者』や『賢者』といったものから『大魔術師』、『剣豪』などといったものがある。
ちなみに大魔術師の上にも称号がありそれは『魔道士』と呼ばれ、その上が『大魔道士』だ。
その上となると女なら『巫女』男なら『御子』と呼ばれる。
『聖女』や『聖人』といったものは教会に入るしきたりとなっていた。
ちなみに、前世の私は魔術師だった。
私は魔法の研究はしたいから魔術師くらいでいいなぁ……。
あ、でも家族を守れるだけの力があればいっか。
「ルーナ、エリー明日は選定の義があるからね」
ほら、やっぱり。
でも、今の選定の義は貴族よりも緊張は少ない。
もう既に一度やったからだろうか?
それとも、どの称号になろうと見捨てられたりはしないからだろうか。
きっとその両方だろう。
貴族は称号を重視する。
称号のない者は捨てられる事すらあった。
だからこそ今の比じゃない程、緊張した。
だが、まぁ土魔法が使えれば家族や村の人達のためになれるのに……。
「お姉ちゃん、お姉ちゃん!
称号、何になるかなぁ?」
「私は魔術師がいいかな。
エリーは何になりたい?」
私はこの可愛い妹が大好きだった。
私に絶対の信頼を置いている妹が。
「えー…お姉ちゃんなら巫女様とかが似合うと思うなぁ……。
私はねー、お姉ちゃんの専属魔術師になりたいな!
あ…でもお姉ちゃんが魔術師なら私は剣豪とかがいいかな?
それでね、お姉ちゃんを守るのー!」
この可愛い妹は私を守ってくれる気らしい。
なら、私は私を守ってくれる妹を守ろう。
そう決めると私と妹は眠りについた。
そして、次の日。
エリーは楽しみだというように朝からうずうずしていた。
そんな様子に私も思わず笑みが零れる。
「お姉ちゃん!
早く行こっ!」
「分かったよ、エリー。
お父さん、お母さん行ってきます」
「行ってきまーす!」
私はエリーに手を引かれながら村の外れにある教会にきた。
エリーの番になると私は笑顔で手を振った。
「お姉ちゃん、行ってくるね」
「行ってらっしゃい、エリー」
うん!と明るい笑顔で頷くエリーは本当に可愛らしかった。
前世でこんな妹がいたら……と考えるが貴族社会ではこんな真っ直ぐな妹なんて出来なかっただろう。
そう考えると貴族社会の暗い闇について考えさせられる気がした。
エリーが戻ってくると私の番だ。
「お姉ちゃんお姉ちゃん!!
やったよ!
私…」
「エリー、それは家に帰ってからのお楽しみにしよう?
家に帰ってから皆で喜ぶために、ね?」
「うん!!
お姉ちゃん、いってらっしゃい!」
先程とは逆にエリーからお見送りされる。
元気に手を振るエリーに私も同じように手を振り返す。
「行ってきます」
…私がこの教会の中に入るのは何年ぶりになるのだろうか?
ここにいると、この真白い空間が私は苦手だったことを思い出す。
この白い空間は私の、貴族としての闇を見せるようだったから。
「…手を」
神官に言われ私は水晶に手を伸ばす。
それは昔から変わっていない。
私が前世で9歳だった時もこうして水晶に触れたものだ。
ただ、9歳の時とは異なり水晶に驚きの称号が映し出される前はそんな呑気な事を思っていた。
称号 『巫女』
属性 火 風 水 土 聖 闇 無
それは、私の望まぬものだった。
私は、こんなもの望んでいない。
これは、『巫女』は、貴族でも平民でも扱いは変わらないのだから。
家族から引き離され王宮に行かなければいけないのは変わらないのだから。
何かの間違えであって欲しかった。
私は、私の今世は家族のために使うと決めていたから。
私は家族と、エリーと離れたくは無かったから。
「…巫女、様……。
巫女様が、誕生した…。
っ…おい!
カルナ!!
王宮に王都に、本部に連絡しろ!
巫女様が誕生なされた!」
「…はっ!」
私の意思とは関係なく、どんどん話は進んでいく。
私は、エリーと離れたくない。
エリーは、私の大切な妹は私が守ると決めたんだ。
「巫女様、私共と共に来てくださいませ」
なのに、なのにこんな別れ方はないだろう?
「……い、いや……いやだ!!」
エリーと離れたくない。
私はその一心で教会から逃げ出した。
外で待っていたエリーを見つけると驚いているエリーの手を引き走った。
「お、お姉ちゃっ……はぁ、はぁ……どうし、…たの…?」
「あ……。
ごめん、ごめん。
エリー、ごめんね……。
私、私……」
私はエリーの前で泣きだした。
エリーはそんな私の背中を無言で撫でてくれる。
私は泣き止むとエリーにお礼をいい、家へと帰った。
「ただいま」
「帰ったよ、お父さん、お母さん」
先程の事があったせいか私だけでなくエリーの声も沈んでいた。
「あら、おかえりなさい。
どう……どうしたの!?
目がこんなに……」
「おかえり。
何をそんな、に……。
ルーナ!?」
……こんなにも心配してくれる家族に何も言わないというのはずるいだろう。
すぐに家がバレるかもしれないのだから。
そうすればきっと、すぐ引き離されてしまう。
なら、お別れを言えるのはこの時間しかない。
私は再び泣きそうになるのを堪える。
「…お父さん、お母さん、エリー話が、あるんだ」
「ルーナ、そんな事より…」
「今しか無いんだよ!!
だから…だから、お願い……」
それは、自分でも驚く程弱々しい声だった。
きっと、貴族であれば喜んだのだろうに。
そう思えずにはいられないこの称号が私の心を縛りつける。
「…見つけました!」
「っ……!?
もう!?」
「神官様?」
その、男の声に私は体をすくませ時間が限りなく短い事を知る。
「お父さん、お母さん。
私は、2人の子供で幸せでした。
エリー…ごめんね。
……エリーが何処にいようと私だけはエリーの味方だから。
私がエリーを守るから。
だから……」
だから、幸せに暮らして。
エリーの望む道を進んで。
私の事を、忘れないで。
私は涙を流しながらエリーに伝える。
「…巫女様、そうご勝手に行動なされては困ります」
「…私は、巫女なんかじゃ…」
私と神官のやり取りでようやくお父さんとお母さんも状況を理解したのか顔を青くさせていた。
「ルーナが……巫女、様?」
「ルーナが……!?」
「お姉ちゃん…やだ、よぉ……。
お姉ちゃんと離れたくないよぉ!
お姉ちゃんを守るって昨日いったばっかりなのに!
お姉ちゃんといれないなら魔法剣士になった意味だって無かったっ!
嫌だ、嫌だよ……お姉ちゃん、行かないでぇ……」
エリーは私に抱きつきそんな事を言った。
エリーは、魔法剣士だったらしい。
きっと、成長したらかっこよくなるんだろうな。
「エリー…私も、私も一緒にいたいよ。
私だってエリーを守るって決めてたんだ。
なのに、なのにこんな別れ方、したくない…」
「…神官様、ルーナとエリーを一緒に居させてあげる事は出来ないでしょうか?」
お父さん……。
「私からもお願いします。
あの子達を引き剥がしたくはないんです…。
お願いします!」
お母さん……。
ありがとう、ありがとう。
本当に、ありがとう。
そうやって頼んでくれるだけで嬉しいんだ。
私達のことを大切に思ってくれてるだけで嬉しいんだ。
「…掛け合ってみなければ詳しい事は。
ですが、魔法剣士ならば問題はないでしょう」
「っ!?
エリーといれるの!?」
「やった!
お姉ちゃんと一緒!!」
私とエリーは熱く抱擁を交わす。
そんな私達の姿を両親は寂しげに見つめていた。
「……確認がとれました。
条件付きでしたら、との事です」
条件。
エリーが危険に晒されるような条件なら嫌だな、と思う。
「条件、ですか?」
エリーの声も先程より硬くなっている気がする。
「はい。
条件は、来年度の国立魔法学園に10位以内で合格する事。
そして、卒業後は国に仕える事。
その2つです」
10位……。
合格するだけでも大変だと言われるあの学園に10位で……。
平民だから勉強なんてしていないし……。
「…すいません。
2つめは、無理です。
私は、国じゃなくてお姉ちゃんを守りたいので…」
「…国に所属するのならば問題ありません」
「なら、お願いします!!」
……エリー…。
私なんかに着いてきてくれてありがとう…。
…私も出来る事はやろう。
エリーを守るために。
……懐かしいな。
昔、ケヴィンを守る剣となる、なんて言って周りを困らせてたなぁ。
ケヴィンは私を助けるための知識となり、盾となるなんて言ってたなぁ。
それに、私が盾は危ないから駄目って言ったんだ。
そう思うとチクリと心が痛くなる。
私はまだ、ケヴィンが何故私を殺したのか分かっていないから。
だけど、私は誓おう。
私は今もケヴィンを守る剣となると。
そして、ケヴィンが私にとってそうあってくれたように、私はエリーにとっての光であり、盾であり続けると。
「お姉ちゃん、これからずっと一緒だよ?」
「…うん。
ありがとう、エリー」
ケヴィン、君はあの時私と共に死んだ。
だけど、あの時の言葉の通りなら……。
君はまた、私の前に現れてくれるのだろうか?
君が私を殺したいのなら、その時は甘んじて受けよう。
私の愛した君になら殺されてもいいと思ってしまうから。
……その時、エリーは悲しむだろうか?
泣いてしまうだろうか?
それなら、やだな……そう思いつつも私は未だケヴィンに思いを募らせる。
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