最強になって異世界を楽しむ!

水泳お兄さん

狂想曲vs人狼

「さあ、来い」
「言われずとも」

 ぐっ、とエレナが両足に力を込める。
 まずはこの状態での様子見を兼ねて、7.割ほどの力で地を蹴った。

 カプリースは当然、爆発と風の大剣を使う用意をしていた。
 エレナが突っ込んでくる瞬間に使用し、近付けないようにするために。
 しかし、カプリースがエレナの攻撃に対して本能的に選択したのは、大剣を盾にしての防御だった。

「ぐ、おお!?」

 カプリースの視界からエレナが消えたと思えば、次の瞬間に衝撃で大きく数歩後退してしまっていた。

 目線を向ければ、先程までカプリースがいた場所に突きを放ったと思われるエレナが立っていた。
 もしも大剣の力を使うことにこだわっていたら、起動が間に合わず貫かれていたことだろう。

「ほら、このなものじゃないだろう?」
「はは、ははははははは!」

 まったく同じ言葉を言われたカプリースは、上腕部と下腕部の大剣を無造作に投げ捨てる。

「溶剣、俺の持つ武器の中でも傑作だ」

 中腕部に持っていた2本の大剣を、それぞれ3本の腕で握りしめると、大剣の刀身が赤く熱を帯びていく。
 大剣が地面に触れると、触れた部分は音を立てて溶けていく。
 あんなものが直撃すれば、命の保証などない。

「全力で相手をさせてもらおう」

 カプリースはそう言い、自らエレナに対して距離を詰めていく。

「私相手に接近戦か?」
「溶剣には遠距離での攻撃手段がないのでな」

 互いの武器が届く間合いまで近付くが、まだどちらも仕掛けない。

「仕掛けてこないのか」
「俺には急ぐ理由がない」
「いいのか? 今頃ワタルたちが魔王と戦っているかもしれないというのに」
「あんなやつはどうでもいい」

 カプリースの即答に、幹部が魔王に絶対の忠誠を持っていると思っていたエレナは驚く。

「俺の目的は強者と戦うことだけだ。前の魔王様に恩はあれど、今の魔王には忠誠など微塵もない」
「そうか。幹部だというのに代わっているな」
「そうでもないさ」

 カプリースが笑い、2人の間の空気が和らぐ。

「さて、もうお喋りはいいだろう。ここからは……殺し合いだ」
「上等だ。先手は譲ろう」
「ほう? そうか」

 そんな空気もつかの間、すぐに2人が臨戦態勢に入り、緊張感が増していく。

「なら、お言葉に甘えさせてもらおう!」

 カプリースは右手に持った溶剣を振り上げる。
 3本の腕から放たれる大剣の一撃は凄まじく、エレナも受け流すことは選ばずに横に飛んで避ける。

「そこっ!」

 エレナは攻撃を回避して着地するなり、今度は突っ込むために地を踏みしめる。
 全力で地を蹴り突っ込んだエレナの攻撃は、カプリースに反応させる暇もなく横腹を斬り裂いた。

「ぬううッ!」

 カプリースは痛みを堪えながらも、攻撃直後のエレナに向けて溶剣を横薙ぎに振る。
 が、エレナは数歩後退することでそれを避け、再び距離を取った。

「高速移動というよりも、瞬間移動だろうそれは。残像すら見えん」

 強者との戦いを何よりも好むカプリースは、戦闘経験だけならば魔王軍幹部の中でも群を抜いている。
 その経験の中でも、これほどの速さを持つ相手は初めてだ。

「速いというのは素晴らしい武器だな」
「まだまだ。ここからだ」

 エレナが腰を落とし、前傾姿勢をとる。

「だが、対抗策がないわけでもない。溶断!」

 地を蹴ろうとするエレナに対し、カプリースは両手に持った溶剣を地面を横に斬るようにして振るった。

「なッ!?」

 溶かし斬られた地面は横に深い溝が生まれ、高速で突っ込んだエレナはその溝に足をとられる。

「ぬん!」

 カプリースが両手の溶剣を横薙ぎに振る。
 減速したエレナは格好の的となり、白夜を体の前で盾にするものの、大きく吹き飛ばされ地面をバウンドする。

「ふー……もう動けんだろう」
「……まだ、まだ」

 力を抜こうとしたカプリースは、白夜を杖のようにしたがら立ち上がるエレナを見て、顔をしかめる。

「動けば死ぬぞ」
「ふふ、心配はない。満月の下では私たち人狼は回復力も上がる」

 とはいえ、エレナの体は悲鳴をあげている。
 戦闘の継続は難しいだろう。

「……まだやるのか」
「私はまだ……奥の手を見せていないからな。果てるなら……全力を出してからだ」

 エレナはそう言って、白夜を口に咥える。
 両手を地面に着け、まるで四足歩行の獣のようだ。

 まともな剣士が見ればバカバカしいと言うだろうが、対峙しているカプリースは違う。
 これは間違いなくエレナの言う奥の手だ。
 そう思わせるほどの雰囲気が今のエレナにはあった。

「いいだろう。叩き潰す」

 それに応えるべく、カプリースも構える。
 2人は互いに睨み合い、エレナが仕掛けて……

「カプリ────ス!」

 そんな緊張感をぶち壊すような声が聞こえたと思うと、魔王軍を蹴散らしながら声の主が2人の間に現れた。

「探したっすよ! さあ、私についてくるっす!」
「ノクターン……空気を読め」
「あ、戦闘中だったっすか? 相手は……エレナっすか。カプリースもかなり傷つけられたっすねー」
「おい、いい加減に」

 エレナはノクターンの登場に呆気に取られ、カプリースは怒りからか今にもノクターンに攻撃しそうだ。

「魔王様……リート様を助けに行くっすよ」
「……なんだと?」

 だがその怒りは、ノクターンの一言で霧散した。

「今からロンドを迎えに行って、魔王様を封印したあの忌々しい女をぶっ殺しに行くっす」
「無理だろう。あの女の近くには魔王もいる」
「大丈夫っすよ。魔王の相手はワタルたちがするっすからね。私達はあのクソ女を相手すればいいんす」

 カプリースは考え込む素振りを見せ……やがて溶剣を鞘へと収めた。

「エレナ。勝負は預けさせてくれ。用事ができた」
「え、あ、ああ」
「よーし、なら早速行くっすよ!」

 言うが早いか、ノクターンはカプリースの腕を掴んで走り去って行った。

「なんだったんだ……」

 嵐のように去っていったノクターンが見えなくなると、エレナは尻もちをついてそう呟いた。

 その後、エレナは簡易的に回復魔法による治療を受けると、ワタルと合流すべく魔王の元へ向けて走り出した。

 * * *

「エンゲル」
「お呼びでしょうか、ラース様」

 魔王軍本陣。
 戦場から離れた場所に座る魔王、ラースが名前を呼ぶと、エンゲルと呼ばれた女性が片膝をついて現れる。

「お前目当ての客がいるようだな」
「裏切り者の幹部、ですね。目的はこれでしょう」

 エンゲルが首から下げるネックレス。
 その先端には紫色の綺麗な宝石がついており、幾何学的な模様が刻まれていた。

「この魔王の復活が目的でしょう。やはり封印ではなく殺すべきだったのでしょうか」
「あの時の俺とお前では魔王を殺すのは不可能だっただろう。封印できただけでも十分だ」
「……そうですね。失言をお許しください」
「気にするな。それよりも幹部だが」

 ラースのその言葉を聞き、エンゲルが立ち上がる。

「私にお任せ下さい。魔王様のお手を煩わせるまでもありません」
「そうか。では行ってこい。期待している」
「光栄です。それでは」

 エンゲルが優雅に一礼すると、黒い翼を背中から広げて戦場へと飛び去る。

「戦争も佳境か」

 ラースは腰を上げ、遠くに見える戦場を見つめる。

「くくく、楽しませてくれよ、転移者よ」

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