最強になって異世界を楽しむ!
師弟
「ワタル!」
「ん? あ、マリー」
敵陣に向けて走っていたワタルは、自分の名前を呼ぶ声に足を止める。
声の出処に目を向ければ、そこにはワタルに向かって走ってくるマリーがいた。
「無事だったんじゃな。何よりじゃ」
「心配かけてごめんね。ちょっと遅刻しただけだから」
「そうか。もちろん強くなったんじゃろうな?」
「もちろん! 頼りにしてくれて大丈夫だよ」
「それは楽しみじゃ」
「……マリー、支援はもういいの?」
再会を喜ぶ2人の会話を見計らい、リナがマリーに声をかける。
「うむ。魔族の多くは推し返せたのでな。それよりレイが魔法を使ったのが見えたので、こっちに来たのじゃ。何があったんじゃ?」
「あ、なるほど。説明するね」
マリーの疑問に、リナがセレナーデとの戦闘を説明する。
「ふむ……それでセレナーデはどうなったんじゃ? ワタルに負けたということは、殺したんじゃろう?」
「俺が物騒みたいな言い方やめてくれない?」
「冗談じゃ」
「セレナーデは死んでないよ。私が魔力回路を破壊したから、魔法はもう使えないだろうけど。今はレイが様子を見てる」
「そうか……」
そう言って息を吐くマリーの顔には、少しの安堵がみてとれた。
魔王軍の幹部となったとはいえ、元は禁忌の魔女としての仲間だ。
死んでしまわなかったのは、やはり嬉しいのだろう。
とはいえ、犯した罪は大きいためできるだけ顔には出さないようにしているようだ。
「これからどうするのじゃ。リナしか連れていないようじゃが」
「それなんだけどね、ちょっとやりたいことがあるんだ」
「やりたいこと?」
このやりたいことについて、リナは既にワタルから聞いている。
「えっとね」
「いや、説明は移動しながらでよい。あまり時間もないことじゃしな」
「時間がないってどういうこと?」
「エレナとレクシアとハラルが、新しい魔王とやらを倒すために向かっておる」
「え……3人だけで?」
「そうじゃ」
思わずリナが聞き返した。
エレナたちの狙いは短期決戦。
そのことをマリーが話すと、ワタルは表情を引き締める。
「なら急ごう。俺も合流しないと」
「じゃな。走るとするかの」
マリーは戦闘用に魔力を温存するため、3人は走り出す。
その道中で、ワタルはマリーにやりたいことについて説明する。
「実は魔王軍の幹部に操られてる人が居るんだ。でも、リナさんならそれを破壊できるんじゃないかと思ってさ」
「できるできないは後にして……なんでお主は魔王軍の幹部と知り合いなんじゃ」
「あー、それは色々あってさ」
修行のことを話せば長くなるため、ワタルは言葉を濁す。
「はぁ、深くは追求せぬが、信用出来る相手なんじゃろうな?」
「うん、それは誓えるよ」
「ならよい」
それだけの会話で済ませてくれるマリーに感謝しながら、ワタルは走る。
ロンドは自分はラースにに逆らうことが出来ないと言っていた。
それが何らかの呪いで操られてるのであれば、リナが破壊できる。
上手くいけば、戦闘を避けてロンドを仲間にできるかもしれないのだ。
「っ……ワタル、リナ、下がっておれ!」
ワタルが思考を巡らせている中、マリーの鋭い指示が飛ぶ。
咄嗟に身を引いたワタルとリナの前にマリーが出ると、杖を振り暴風を発生させる。
その暴風が、ワタルに向かって吹き荒れた風と衝突する。
風は互いに消失に、岩などが吹き飛ばされ見渡しが良くなったワタルの視界の奥に、人影が映る。
「今のを防ぐか。良い仲間だな」
黒い鎧に全身を包み、魔剣をその手に持っていたのは、魔王軍幹部ロンドだ。
その姿を見たワタルは、マリーの前に出て口を開く。
「師匠、聞いてください。師匠にかかっている呪いは壊せます! だから、攻撃はやめてください」
「……興味深い話だが、それは無理な相談だ。俺はお前達を殺すように命じられている」
ワタルがギリッと歯を食いしばる。
既にロンドは操られている状態で、今のままではリナのスペルブレイクは使えない。
どうするかと迷ったワタルの思考を遮るように、背後から炎の槍が飛んだ。
「なかなかの火力だ」
「やはり収束しなければ傷も付けられんか」
ロンドはそれを魔剣の一振りで消し去り、鎧には傷一つ付いていない。
マリーはその結果をわかっていたのか、特に驚いた様子はない。
「ワタル、何を迷っているんじゃ?」
「マリー……」
「お主が今やるべきは、あの師匠とやらを倒して、動けなくすることじゃろう!」
「それは……」
「それともなんじゃ? 情でも移ったか? そういうことなら引っ込んでおれ。わしがやる」
前に出ようとするマリーを、ワタルが腕で制する。
「ふー……大丈夫。俺がやるよ」
「そうか。ならわしはリナと一緒に傍観するとしようかのう」
「え、あ、ちょっと」
マリーはリナを連れ、ワタルとロンドの邪魔にならないように後ろへ下がる。
* * *
「マリー、私たちも加勢した方が」
「それはお節介というものじゃよ、リナ。」
慌てるリナを引っ張りながら、マリーは振り返ってワタルに視線を向ける。
その後ろ姿は、初めて会った頃よりも逞しく感じられる。
「なんじゃ、お主はワタルが負けると思うとるのか?」
「そりゃ負けないと思うけど……」
「そうじゃろう。ならわしらにできることは、ワタルを信じて待つことだけじゃ」
ワタルがロンドを師匠と呼んだことや、あの場面で葛藤があったことから、ワタルがどれだけロンドに信頼をおいていたかがわかった。
それは恐らく、ロンドも同じだろう。
そんな2人の勝負に水を差すことを嫌い、マリーはリナを連れて離れた。
「今のワタルなら、まず負けんじゃろう」
ワタルに加勢することが出来ない歯痒さを若干感じながらも、マリーは祈る。
どうかワタルが、無事に生きて自分の元へ来るようにと。
* * *
「すー……はー……」
ワタルは自分の考えが甘かったと、頬を叩いて気を引き締め直す。
最初からロンドと戦闘になってもいい準備はしていた。
それが希望的観測をあてにして、それが外れたことで動揺した。
そんな思いを断ち切るように。大きく深呼吸し、デュランダルを引き抜く。
「本当に良い魔法使いだな。ワタル、お前は恵まれている」
「そうみたいですね」
2人は一言、優しい声音で会話をした。
辺りは静寂に包まれており、それは嵐の前の静けさのようだ。
「……魔王軍幹部ロンド、お前を倒す」
「来い、人間」
やがて2人は自分の中に存在する感情を無くすように、互いに剣を向ける。
2人の中に残るのは、敵意のみ。
ワタルとロンドの奇妙な師弟関係は終わりを告げ、元の魔王軍幹部と人間という立場で激突する。
「ん? あ、マリー」
敵陣に向けて走っていたワタルは、自分の名前を呼ぶ声に足を止める。
声の出処に目を向ければ、そこにはワタルに向かって走ってくるマリーがいた。
「無事だったんじゃな。何よりじゃ」
「心配かけてごめんね。ちょっと遅刻しただけだから」
「そうか。もちろん強くなったんじゃろうな?」
「もちろん! 頼りにしてくれて大丈夫だよ」
「それは楽しみじゃ」
「……マリー、支援はもういいの?」
再会を喜ぶ2人の会話を見計らい、リナがマリーに声をかける。
「うむ。魔族の多くは推し返せたのでな。それよりレイが魔法を使ったのが見えたので、こっちに来たのじゃ。何があったんじゃ?」
「あ、なるほど。説明するね」
マリーの疑問に、リナがセレナーデとの戦闘を説明する。
「ふむ……それでセレナーデはどうなったんじゃ? ワタルに負けたということは、殺したんじゃろう?」
「俺が物騒みたいな言い方やめてくれない?」
「冗談じゃ」
「セレナーデは死んでないよ。私が魔力回路を破壊したから、魔法はもう使えないだろうけど。今はレイが様子を見てる」
「そうか……」
そう言って息を吐くマリーの顔には、少しの安堵がみてとれた。
魔王軍の幹部となったとはいえ、元は禁忌の魔女としての仲間だ。
死んでしまわなかったのは、やはり嬉しいのだろう。
とはいえ、犯した罪は大きいためできるだけ顔には出さないようにしているようだ。
「これからどうするのじゃ。リナしか連れていないようじゃが」
「それなんだけどね、ちょっとやりたいことがあるんだ」
「やりたいこと?」
このやりたいことについて、リナは既にワタルから聞いている。
「えっとね」
「いや、説明は移動しながらでよい。あまり時間もないことじゃしな」
「時間がないってどういうこと?」
「エレナとレクシアとハラルが、新しい魔王とやらを倒すために向かっておる」
「え……3人だけで?」
「そうじゃ」
思わずリナが聞き返した。
エレナたちの狙いは短期決戦。
そのことをマリーが話すと、ワタルは表情を引き締める。
「なら急ごう。俺も合流しないと」
「じゃな。走るとするかの」
マリーは戦闘用に魔力を温存するため、3人は走り出す。
その道中で、ワタルはマリーにやりたいことについて説明する。
「実は魔王軍の幹部に操られてる人が居るんだ。でも、リナさんならそれを破壊できるんじゃないかと思ってさ」
「できるできないは後にして……なんでお主は魔王軍の幹部と知り合いなんじゃ」
「あー、それは色々あってさ」
修行のことを話せば長くなるため、ワタルは言葉を濁す。
「はぁ、深くは追求せぬが、信用出来る相手なんじゃろうな?」
「うん、それは誓えるよ」
「ならよい」
それだけの会話で済ませてくれるマリーに感謝しながら、ワタルは走る。
ロンドは自分はラースにに逆らうことが出来ないと言っていた。
それが何らかの呪いで操られてるのであれば、リナが破壊できる。
上手くいけば、戦闘を避けてロンドを仲間にできるかもしれないのだ。
「っ……ワタル、リナ、下がっておれ!」
ワタルが思考を巡らせている中、マリーの鋭い指示が飛ぶ。
咄嗟に身を引いたワタルとリナの前にマリーが出ると、杖を振り暴風を発生させる。
その暴風が、ワタルに向かって吹き荒れた風と衝突する。
風は互いに消失に、岩などが吹き飛ばされ見渡しが良くなったワタルの視界の奥に、人影が映る。
「今のを防ぐか。良い仲間だな」
黒い鎧に全身を包み、魔剣をその手に持っていたのは、魔王軍幹部ロンドだ。
その姿を見たワタルは、マリーの前に出て口を開く。
「師匠、聞いてください。師匠にかかっている呪いは壊せます! だから、攻撃はやめてください」
「……興味深い話だが、それは無理な相談だ。俺はお前達を殺すように命じられている」
ワタルがギリッと歯を食いしばる。
既にロンドは操られている状態で、今のままではリナのスペルブレイクは使えない。
どうするかと迷ったワタルの思考を遮るように、背後から炎の槍が飛んだ。
「なかなかの火力だ」
「やはり収束しなければ傷も付けられんか」
ロンドはそれを魔剣の一振りで消し去り、鎧には傷一つ付いていない。
マリーはその結果をわかっていたのか、特に驚いた様子はない。
「ワタル、何を迷っているんじゃ?」
「マリー……」
「お主が今やるべきは、あの師匠とやらを倒して、動けなくすることじゃろう!」
「それは……」
「それともなんじゃ? 情でも移ったか? そういうことなら引っ込んでおれ。わしがやる」
前に出ようとするマリーを、ワタルが腕で制する。
「ふー……大丈夫。俺がやるよ」
「そうか。ならわしはリナと一緒に傍観するとしようかのう」
「え、あ、ちょっと」
マリーはリナを連れ、ワタルとロンドの邪魔にならないように後ろへ下がる。
* * *
「マリー、私たちも加勢した方が」
「それはお節介というものじゃよ、リナ。」
慌てるリナを引っ張りながら、マリーは振り返ってワタルに視線を向ける。
その後ろ姿は、初めて会った頃よりも逞しく感じられる。
「なんじゃ、お主はワタルが負けると思うとるのか?」
「そりゃ負けないと思うけど……」
「そうじゃろう。ならわしらにできることは、ワタルを信じて待つことだけじゃ」
ワタルがロンドを師匠と呼んだことや、あの場面で葛藤があったことから、ワタルがどれだけロンドに信頼をおいていたかがわかった。
それは恐らく、ロンドも同じだろう。
そんな2人の勝負に水を差すことを嫌い、マリーはリナを連れて離れた。
「今のワタルなら、まず負けんじゃろう」
ワタルに加勢することが出来ない歯痒さを若干感じながらも、マリーは祈る。
どうかワタルが、無事に生きて自分の元へ来るようにと。
* * *
「すー……はー……」
ワタルは自分の考えが甘かったと、頬を叩いて気を引き締め直す。
最初からロンドと戦闘になってもいい準備はしていた。
それが希望的観測をあてにして、それが外れたことで動揺した。
そんな思いを断ち切るように。大きく深呼吸し、デュランダルを引き抜く。
「本当に良い魔法使いだな。ワタル、お前は恵まれている」
「そうみたいですね」
2人は一言、優しい声音で会話をした。
辺りは静寂に包まれており、それは嵐の前の静けさのようだ。
「……魔王軍幹部ロンド、お前を倒す」
「来い、人間」
やがて2人は自分の中に存在する感情を無くすように、互いに剣を向ける。
2人の中に残るのは、敵意のみ。
ワタルとロンドの奇妙な師弟関係は終わりを告げ、元の魔王軍幹部と人間という立場で激突する。
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