最強になって異世界を楽しむ!

水泳お兄さん

装飾曲vs夜想曲

「やああっ!」
「ぬうっ!」

 互いの戦斧と槍が幾度となくぶつかり、火花を散らす。
 威力ではノクターンが勝っているが、アラベスクはそれを槍のリーチと技術でカバーする。
 幾度となく切り結び、その度に甲高い音が周囲に鳴り響く。
 何度目ともわからない打ち合いで、2人は同時に大きく下がる。

「なかなかやるっすね」
「貴様こそ、なんだその武器は」

 今アラベスクが使っている槍は、アラベスク専用に作られた、ワタルとの戦闘時には使っていなかった本気の装備だ。
 性能もかなり高いのだが、その槍と渡り合っているノクターンの戦斧に目を向けて。

「これっすか? 人間に腕の良い鍛冶師が居てっすね。私が使いこなせるからって渡されたんすよ」
「人間の武器だと? ノクターン……そこまで堕ちたか!」

 なんの躊躇いもなく人間の作った武器を使うことに、アラベスクは怒りの表情でノクターンを睨む。

「黙れ」

 ノクターンが鋭く踏み込み、両手の戦斧を交差させるようにして振る。
 後ろに飛び退きながら槍で直撃は防いだアラベスクだが、かなり飛ばされ、どうにか着地した。

「フィナ様を裏切ったあんたに、私に何か言う資格はないっすよ」
「今の魔王はラース様だ」

 アラベスクが立ち上がり、2人が睨み合う。

「今回は魔法を消す魔女は居ないようだな。ならば、俺も本気が出せる」

 周囲を見回してリナの姿がないことを確認したアラベスクは、人の姿に戻る。
 そして周りの大量の血を操り自分の体を包むと、血が鎧となりアラベスクとその槍は禍々しく変化する。
 血は可能な限り凝縮されており、その鎧は鉄など比較にならないほどの堅牢さを誇る。

「まるで手を抜いていたような言い方っすね」

 血の鎧を纏ったアラベスクに、一瞬で間合いを詰めたノクターンの右手の戦斧が振り下ろされる。
 しかし、戦斧は金属音を響かせ、血の鎧に弾かれる。
 弾かれたことで体勢を崩したノクターンの頭部目掛けアラベスクの槍が突き出されるが、左手の戦斧で防ぐことで、後に大きく飛ばされながらも致命傷は避ける。

「手を抜いていたわけではない。お前程度にこれを使うのは躊躇われてな」
「へぇ、言ってくれるっすね」

 再びノクターンが地を蹴り、戦斧を振るが、結果は変わらない。
 それどころかアラベスクの槍の精度は上がっており、ノクターンの頬に傷が入る。
 幾度も攻撃を仕掛けたノクターンだが、通じないとはっきりわかると後退し、大きく息を吐いて双戦斧を構える。

「まだ戦意があるか」
「当然っすよ。あんたが切り札を隠してるってことは、私だって切り札を持ってるんすからね」

 ノクターンは双戦斧にチラリと目を落とすと、アラベスクをしっかりと見据える。

「双戦斧よ、茨を絡ませ、吸い尽くせ」

 詠唱のような言葉を呟くと、両手の戦斧の柄から茨が発生し、ノクターンの両腕に絡みつく。
 茨はミシミシと音をたててノクターンの腕にめり込むが、ゾンビであるノクターンは痛むような素振りは見せない。

「なんだ、その武器は」
「さっき言ったじゃないっすか。あんたの大嫌いな人間の作った武器っすよ。そして」

 ぐっと、ノクターンが両足に力を込める。
 対するアラベスクは、腰を落として迎撃する構えだ。

「あんたを殺す武器っす」

 ノクターンが地を蹴り、間合いを詰めて右手の戦斧を同時に振り下ろす。
 先程と同じ手段。
 今度こそ仕留めようと、戦斧の防御を鎧に任せ、槍の攻撃に神経を注いだアラベスクだったが、その判断は大きな間違いだ。

「がっ!?」

 戦斧はアラベスクの左肩に振り下ろされると、纏っていた鎧を砕き、そのまま左腕を肩から切り落とした。
 これには堪らず数歩後退するアラベスクだが、ノクターンの追撃のほうが早い。

「はぁぁっ!」

 ノクターンは左手を戦斧の柄から話すと、腕に絡みついている茨を活かし、鎖鎌のように戦斧を横薙ぎに振る。
 アラベスクはこれを槍によって辛くも受け流すが、その衝撃でさらに数歩下がる。

「私向きの、良い武器っすね」

 この双戦斧はエリヤの最高傑作の1つだ。
 その効果は、人間が扱うには強大すぎた。
 この双戦斧はノクターンの呟いた言葉を口にすることで真価を発揮する。
 柄から伸びた茨は使用者の両腕に絡みつき、その詠唱通り生命力を吸い尽くすほど奪い続ける。
 そうして生命力を吸い取った双戦斧は禍々しく変化し、斬れ味や頑丈性はもちろんのこと、大きさも変化する。
 問題は、双戦斧の生命力を吸う速度が並の人間では1分と持たないことと、この戦斧を片手で扱える人間が居ないことだった。
 だがノクターンはゾンビであり生命力は人間の比ではなく、戦斧自体も軽々と扱える怪力を持つ。
 双戦斧はまさに、ノクターンにうってつけの武器だった。

「ここからは、全開っすよ」

 ノクターンが体のリミットを外す。
 戦斧は巨大化してもはやノクターンの身長を超える大きさになるが、今のノクターンならば扱える。
 これで力でも武器の性能差でも、ノクターンはアラベスクを大きく上回ることになった。

「ふざけるな……ふざけるなよ! ゾンビ風情が!」

 アラベスクが血を自身に集め、擬似的な腕を形成する。
 人間の死体で大量の血が散乱しているこの場所は、アラベスクにとってこれ以上ない武器となる。
 アラベスクは周囲の血を槍としてノクターンに放つと同時に、槍の矛を幾つにも分けてノクターンに伸ばす。
 その密度は凄まじく、ノクターンも戦斧で応戦するのみでアラベスクとの距離は縮まらない。

「ははは! どうだ! このままなぶり殺しにしてやる!」

 やがてノクターンが少しづつだが後退し始め、これが続けばジリ貧でアラベスクが有利になる。
 ノクターンには解決策はないはずだ。
 そう考えて愉悦の笑みを浮かべるアラベスクに、呆れたようにノクターンが口を開く。

「勘違いしてるみたいっすけど……これは戦争っすよ」
「なに?」
「聖なる光よ、我が敵に神罰を下せ!」

 ノクターンの背後から、魔法の詠唱と共に聖属性の光がアラベスクに降り注ぐ。
 1つ1つは小さいが、攻撃に集中しているアラベスクの虚を突き、アラベスクは体勢を崩し攻撃が止む。

「ぐっ、人間が!」

 アラベスクの視線の先には、教会のトップであるカレンが次の魔法を唱え始めていた。
 そんなアラベスクの懐へ、一瞬で接近したノクターンが両手の戦斧を同時に振り下ろす。
 が、渾身の振り下ろしはアラベスクの作った分厚い血の壁により阻まれた。

「バカめ、単純に突進するだけか!」

 ここが好機と、アラベスクが槍を両手で握り、ノクターンの頭部に狙いを定める。

「言ったっすよね。これは戦争っす」
「その首、貰い受ける」

 ノクターンに集中しすぎたことにより視野が狭くなったアラベスクの死角、真横から低い姿勢でヨナスが接近していた。
 その傷は既に動けるまでに癒えている。
 ノクターンのここまでの行動は、ヨナスがカレンの回復魔法を受けるまでの時間稼ぎだ。

「小癪な!」
「聖なる光よ、悪しき敵を葬るため、切り裂け!」

 アラベスクが血の壁を自身とヨナスの間に作り出すが、ノクターンの攻撃を防ぐために血を使いすぎたようで、その壁は薄い。
 すかさずカレンが聖属性魔法による斬撃を放ち、壁は根元から切り倒される。

「私に集中しすぎたっすね」
「ノクターン、貴様!」

 アラベスクが慌てて槍の矛先をヨナスに向けようとするが、もう遅い。

「一閃」

 目にも止まらぬ速さで加速したヨナスが、アラベスクの首を斬った。
 チンッという刀が鞘に収まる音と同時に、アラベスクの首はゆっくりとズレて胴体から地面に転がり落ちる。
 その表情は憤怒で固まっており、動くことはない。

「はぁ……はぁ……幹部アラベスク、討ち取ったぞ!」
「「「うおおおおおおおおおおお!!!」」」

 ヨナスがアラベスクの首を掴んで掲げると、周りの人間から大歓声が巻き起こった。

「じゃ、私はこれで行くっすね」
「ノクターン君、ありがとう」
「ノクターンでいいっすよ。むず痒いっすし、何より私は魔族っすから」
「魔族も人間も魔女も関係ない。今は仲間だ」
「あはは、やっぱりそういうのむず痒いっす。でも、そう言ってくれるからには仲間として頑張るっすよ」

 ノクターンはアラベスクに屈託のない笑顔を見せると、その場をあとにして前線へと駆けていった。

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