最強になって異世界を楽しむ!

水泳お兄さん

魔法剣士2

「水よ、飲み込め!」

 ワタルの言葉に応じて、高波がロンドを飲み込もうと襲いかかる。

「ふっ!」

 ロンドは剣を両手で握り締め、襲い来る高波に向けて切り上げる。
 波は左右に斬られ、ロンドへ届くことはない。
 攻勢に出るため、波の後にいるであろうワタルへ狙いをつけるロンドだったが、ワタルの姿はそこにはない。

「はあっ!」
「後ろか。ほう」

 波に紛れてロンドの背後へと回っていたワタルは、低い姿勢からデュランダルを切り上げる。
 当然ロンドは背後を向き防ごうとするが、そうはいかない。
 先程まで波だった水が部屋の床を浸しており、その水が意思を持つかのように、ロンドの足に絡みついていた。

 ワタルの攻撃はロンドに命中し、鈍い音を立てて鎧を傷つけた。
 ロンドは剣を背中の鞘に収めると、ワタルに向けられていた敵意もなくなる。

「これで10本か」
「やっと……できるようになった」

 肩で大きく息をしながら、ワタルはその場に座り込む。
 ロンドとの鍛錬を続けること1ヶ月。
 ようやくロンドから10本取れるようになり、倒れることもなくなっていた。

「休憩だ。食事を取れ」
「あ、はい」

 ロンドは最初よりも話すようになり、ワタルも警戒心を解いていった。
 今では食事をとるときに、様々なことを話している。

「やっと10本取れましたけど、こんなに時間使ってても大丈夫なんですかね?」
「ラースが魔王軍の体制を整えるまで、少なくともあと3ヶ月はかかる。心配はするな」

 ワタルは外で狩った動物の肉を食べながら、いつものようにロンドと話をする。
 ロンドは何も食べる様子はなく、何かを食べているところはワタルも見たことがない。

「ワタル、俺はこの後城へと戻る」
「じゃあ10本取りはどうなるんですか?」
「休みだ。その間にやることを教えておく」

 ロンドは魔王城へと戻るようで、これまでやっていたロンドとの戦闘は少しの間休みになるらしい。

「お前の戦闘スタイルは、魔法剣士が合うだろう」
「魔法剣士ですか」
「そうだ。お前は剣術はそれなりにできるようだが、魔力がまだ少ない」

 マリーまでとはいかないものの、ワタルの魔力は人間としてはトップクラスだ。
 それでも少ないというのだから、魔王軍の幹部がどれだけの魔力を持つかがわかる。

「魔力を上げるのって、魔法を使い続けるしかないんじゃないですか?」
「魔力の総力を上げるならな。お前は魔法を上手く使えていない」

 ロンドは立ち上がると、その場で座禅を組む。

「魔法は精神に左右される。精神状態が穏やかであればあるほど、魔法は少ない魔力で高い威力のものが使えるようになる」
「あー、確かに」

 思い返せば、マリーは戦闘中でも感情を表に出すことは少なかった。
 それは精神状態を穏やかにするためだったのだろう。

「午前は座禅。午後は素振りだ。集中力が切れるまで続けろ」

 ロンドはそれで言うことは終わったのか、地下から出て行こうと歩き始める。
 外の時刻は既に夜中を回っており、ロンドとしてはこの時間に動く方が都合が良いのだろう。

「サボるなよ」

 ロンドは小さくそう言い残し、地下を出ていく。

「……頑張るかー」

 残った飯をさっさと食べ終わると、ワタルは明日から始まる新しい鍛錬に向け、すぐに就寝した。

* * *

「ラース様、魔女の里の場所がわかりました」
「そうか。思ったより早かったな」

 魔王城。
 その玉座で、1人の男──ラースが目の前に跪く魔族の方向を聞いていた。
 茶髪にエメラルドのような緑色の瞳をしたその男は、報告を聞くと愉快そうに頬を釣り上げる。

「どうされますか?」
「当然襲撃する。そうだな……幹部のなり損ないがいただろう。そいつらを向かわせろ」
「はっ!」

 ラースの短い指示を受けると、魔族はすぐに行動に移す。

「ラース様、ロンド様が帰還されました」
「これで幹部は全員揃っか。今すぐこの場に集めろ」
「はっ!」

 出ていった魔族と入れ違いに入ってきた魔族の報告を受け、ラースは指示を飛ばす。
 程なくして、現在生きている幹部4人が玉座へと集まった。

「ロンド、随分と遠くへ行っていたようであるな」
「ああ」
「連れないやるであるな。我も誘え」
「別に面白いことじゃない」

 コラールはロンドへ騒がしく話しかけている。

「なんでもいいけど、お前のせいで私たちは待ったんだ。詫びの一つもないのか?」
「そう怒るとシワが増えるであるぞ、セレナーデ」
「あ?」

 金髪に紅色の瞳をした女性、セレナーデはコラールへ明確な殺意を向ける。
 コラールはそれを気にした様子もなく、笑いを崩さずカプリースを見る。
 今にでも殺し合いが始まりそうな雰囲気だ。

「貴様ら、王の御前だ」

 その場を収めたのは、野太い男の声だった。
 男の腕は6本あり、体は鍛え上げられ筋骨隆々という言葉が似合う。

「ふむ。カプリースの言う通りであるな」
「ちっ」

 ラースは幹部達が静かになるのを待つと、口を開く。

「よく集まったな。王都へ攻め入る日程だが、予定通り3ヶ月後となった」

 耳を傾ける幹部達に向け、ラースは言葉を重ねていく。

「お前達には最前線に出て、各々自由に暴れてもらって構わない。人間達を蹂躙しろ」
「楽しみであるな。人間達の悲鳴や血が見れると思うと、今から胸が高鳴る思いである」
「そこの悪魔じゃないけど、言われなくても人間は殺すよ。一人残らずね」

 幹部達の言葉を聞いたラースは満足そうに頷き、言葉を続ける。

「さて、1つお前達に言うことがある。魔女が人間側についた」
「は?」
「セレナーデ、目に余るぞ」
「そう言うでないカプリース。セレナーデは禁忌の魔女なのであろう? 人間だけじゃなく、魔女にも恨みを持っているのであろう」

 セレナーデは爪が食い込み、手から血が出るのも気にせず拳を握りしめる。

「手間が省けた。人間も魔女も、私が全員ぶっ殺してやる」
「その意気だ。話し合いはこれで終わりだ。各自、3ヶ月後に向けて準備を」

 ラースが幹部達を解散させると、幹部達は1人、また1人と玉座を出て行く。

「エンゲル、いるか」
「ここに」

 幹部達が全員去ったのを確認し、ラースが一息つき名前を呼ぶと、いつからそこにいたのか、真横に美しい女性が現れる。
 プラチナ色の長髪と深い青色の瞳を持つその女性は、絶世の美女という言葉が相応しい。

「アラベスクの死体はどうなっている」
「順調に再生できてます。王都へ攻め入るまでには、復活させられるかと」
「そうか。ふふふ……」

 ラースはこの世界を支配するための壁、王都へ攻め入る準備を順調に進めている。
 あと少し、その時が楽しみで、思わず笑い声が漏れる。

「俺がこの世界を支配するのは近いな」

 魔王城の玉座に、ラースの笑い声が響いた。

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